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波乱のバレンタインデー その4

「ほ、蛍!? なんでうちに? 何かあったのか?」


 なぜこんなにあわてているかというと、蛍がうちまで訪ねてくることは今まで1度もなかったからだ。

 幼なじみなのになんでか蛍の方からこっちの町まで来たことはなかったな。ごくたまに買い物につき合わされるときは駅付近まででるし、休日に会うときはだいたい道場。蛍、なにげに出不精なんだよなぁ。


「いや、そういうわけではなく、その、勇気を振り絞ったというか、って、そうじゃなくて、と、とにかきゅ!」


 かみながらずい、と突き出される、きれいにラッピングされた小包み。


「これって」

「そ、そうだ! ヘンな意味じゃなく、いつも世話になってるから! 毎年稽古日に渡してたけど、今年は当日に渡したくて……迷惑、だったか?」


 顔を赤くしながら上目づかいをする蛍。その髪の色と同じナチュラルブラウンの瞳が不安げに揺れている。威力たけぇ。こいつを見慣れてる俺でさえ一瞬たじろくレベルなんだから、並の男ならイチコロだな。


「迷惑じゃないけど、びっくりした。事前にメールしてくれればよかったのに」

「そうか、迷惑じゃなかったか。なら、よかった。メールしなかったのは、その、単に驚かせたかっただけだ。それと、ミナトが前にチラッとだけ話していたまごめさんと彼方さんを1度見てみたかった、というのもある、かも」

「あいつらを見たい? やめた方がいいぞ。今は気が立ってるからな」

「そんな動物みたいな言い方しなくても。ってもしかして奥の部屋のドアのすきまからこっちを見てる人たちって」


 なるほど、どうりで背中がチクチクするわけだ。

 振り返ると、リビングのドアのすきまからそれはもうジットリとした視線を送ってきている2人の姿を確認することができた。

 何やってんだあいつら。そんなに気になるならこっち来ればいいのに。


「ああ、こっちをジトーっとした目で見つめてきてる2人がまさにそうだ。ツインテのちっこいのがまごめで、ボブで何の特徴もなさそうな方がカナだ」

「「ちょっとその紹介雑すぎない!?」」


 お、2人ともやっとでてきた。


「こんにちは。はじめまして。あたし、高村まごめっていいます。このしょうもないにいちゃんの義理の! 妹です」

「これはご丁寧に。私の名前は切通蛍。お兄さんには居合道の道場でいつも世話になっている。よろしく」


 ふむふむ、いたって普通の挨拶だ。ただ1つ、お互い妙にひきつった笑顔なのが気になるが。


「こんにちは~。わたしはみーくん、じゃなくて港人くんの隣に住んでる幼なじみの浮海彼方です。よろしくお願いします~」

「うむ。よろしく頼む」


 カナの挨拶も普通すぎてびっくりだ。カナは俺がまごめ以外の女子と接するのを極端に嫌うからな。

 ただ1つ、握手の時間が長く、かつカナの顔には青筋がたっていて、蛍がダラダラと脂汗をかいてるのが気になるが。


「ミナト、ちょっといいか。おふた方、少々この男を借りるぞ」


 そう言って蛍は俺を引っ張りだし、玄関のドアを閉めた。


「どうした?」

「どうした、ではない! 義理の妹だなんて聞いてないぞ! やたらそれを強調してきたし。血のつながっていない女の子と一緒に住んでいる、ということかそうなのだな!?」


 両肩をつかまれ、前後に揺らされる。


「落ち着け蛍。まごめとはそういうのじゃない。完全に妹としてみてるし向こうだってそうだろう。お互い本当の家族だと思ってるからそんな言い方はよしてくれ」

「……すまない、少し取り乱してしまった。少なくともミナト、お前にその気がないということはわかった」

「いやだからあいつにもその気はないって」

「今はそういうことにしておこう。それと浮海さんのことなんだが、私は彼女に何か失礼なことをしてしまったのだろうか。笑顔だったが目が全く笑っていなかった。あの相手を呪い殺さんとする目。久しぶりに恐怖を覚えたぞ。あと握手。私も握力にはそれなりに自信があったのだが、防戦一方、耐えるので精一杯だった。少しでも気を抜いたら私の手が粉々になってたかもしれない」


 さきほどとは一変、ビビりまくっている様子の蛍。恐怖のあまり無意識に俺のそでを握っている。


「あーまああいつはしょうがない。お前のせいじゃないから気にしなくていいぞ」

「気にするなと言われても。もしかして彼女、普段の生活では普通なのに、ミナトがらみになるとああいう風にぶっそうになるのではないか?」

「よくわかったな。その通りだ。なんでか昔から俺の近くにいる女子を遠ざけようとしてなぁ。困ったもんだよほんと」

「なるほど、色々把握した。お前も大変なんだな」

「わかってくれるか」

「その部分は同情しよう。しかし、しかしだ」


 なんだなんだ、急に居合やってるときのような鋭い目つきになったぞ。


「お、おう」

「2人ともかわいすぎる! なんなんだアレは! コンビニで売ってるファッション誌の読者モデルよりはるかにかわいい! 危険だ。あまりに危険すぎる。ハッ、ミナトお前まさか2人が慕ってくれているのをいいことにあんなことやこんなのことを要求しているのではないか!? あんなにかわいいんだからスケベなミナトがそのあふれでる欲求をおさえられるはずがない!」


 注釈。切通蛍さんは思いこみの激しい子です。


「どうどうどう、しずまれしずまれ! 確かにみてくれはいいかもしれない。だが中身がアレすぎるせいでお前の言うあふれでる欲求とかないから! 長い時間一緒にいすぎてもう家族みたいなもんだから!」

「ほんとか?」

「マジです。武神に誓って」


 居合道ではまず武神に向かって立礼をし(以下略)。


「そうかそうか。あくまでミナトはあの2人をただの妹、友人として見ていると」

「もちのろん。そもそも幼なじみ属性持ちは恋愛対象にはいらないしな」

「! そういえば、以前にもそんなようなことを言っていたな」

「おう。だから安心していいぞ。なんで蛍がそこを追求したがるかわかんないけど」


 蛍がなぜ複雑そうな表情をしているのも理解できない。世の中不思議でいっぱいです。

 会話がひと段落したところでタイミングよく俺たちを呼ぶカナの声が聞こえてきた。


「お2人さ~ん、まだですか~。お茶の準備できてますよ~」

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