波乱のバレンタインデー その3
『やあタカト。ボクからのバレンタインサプライズチョコはどうかな。気に入ってくれると嬉しいんだけど。手作りだから味の保証はできない。でも、小さいからと侮るなかれ。キミの魅力的な幼なじみたちのチョコには負けないつもりだ。ホワイトデー、期待してるよ。ツカサより』
「あんのヤロウ……!」
送り主が予想外すぎて、思わず脱力してしゃがみこんでしまった。
なんてことはない、司彩からだ。あいつ、いつもはバレンタインデーが過ぎて、俺がプリントを届けに行った日に渡してくれるのに、今年いきなりこんな凝ったことしやがって。心臓が止まるかと思ったぞ。期待して損した。
でも幼なじみからの義理チョコとはいえ、もらえるのは素直に嬉しい。
あーあ、まごめとカナにあらぬ誤解を与えてしまった。誤解とくときこじれなきゃいいけど。てか司彩のことあの2人に話したことあったっけ。
司彩と一緒のクラスになったのは今まで小学3年と中学2年のときだけだが、そのときは奇跡的にまごめとカナは違うクラスだった。もしかしたら面識がないんじゃないか。あいつ、俺がまごめとカナがいるときは廊下ですれ違っても知らんぷりするし。
まあいいや。さっさとゲーム買って家に帰ろう。まごめとカナは家でスタンバってるだろうし。
その前に、まだビョンビョンはねているこのチョコどうにかしないと。小さいしすぐ食べれるよな。
ひょいと口に放り込む。
まろやかな舌触り。甘すぎず苦すぎずの絶妙な甘さ。
率直に言うとめちゃくちゃうまい。めったに料理はしないが、やろうとすれば有名店の味を再現できると言ってるだけはある。まったく、何が手作りだから味の保証はできない、だ。
今夜ネトゲで、よくもやってくれたなとこづきながらお礼言わなきゃな。
おっと、危なかった。あまりのうまさに食べ終わったあとも数秒間ぼーっとしてしまった。
1つだけ残っていた限定版ギャルゲーをゲットし、急ぎ足で帰る。
「ただいっ!?」
ただいま、と言おうとして止まってしまったのにはわけがある。
まごめとカナが仁王立ちしていたからだ。その姿はまるで風神雷神のよう。にっこり笑顔が凄みに拍車をかけている。
「みーくぅーん、どうしてわたしたちを置いて逃げたのかなぁ」
「いやあの状況だったら誰だって素足で逃げ出すだろ! お前らあのとき野生動物なみの動きしてたし顔も赤ちゃんが泣きやむくらいにはおそろしかったぞ!」
「にいちゃんが悪いんだよ。素直にチョコを渡してくれないから」
「個人宛のチョコ奪おうとするのは人としてどうかと思います!」
「みーくん、わかってないなぁ。わたしたちがこんなことするの、みーくんに対してだけだよ。大事な幼なじみを想ってこその行動なんだよ?」
「だから幼なじみ属性ってやつはイヤなんだああああ! じりじり距離をつめてくるな、話を聞いてくれ。このチョコの送り主についてなんだが、って危なーいそのロープどこからだしたの!?」
チキチキ、自宅レース、はっじまっるよ~☆
ご近所の皆さん、うるさくしてごめんなさい。
カナとまごめから逃れるため、俺のだせる最高速度で自宅を駆け巡る。
そんなことをしていたから気がつかなかった。すぐそこに迫る新たな波乱の影に。
ピンポーン。
「ちょっと待って誰か来たから一時休戦!」
「誰だろうね」
「回覧板かな。にいちゃんお願い~」
意外にも一時休戦を受け入れてもらえた。いや、意外にも、はこいつらに失礼か。常識はあるもんな。俺のことに関しての行動は常軌を逸している部分あるけど。
「はいは~い、いつもお世話さまでーす」
かんっぜんに右となりの川辺さん(カナんちは左となり)がきた体で対応する俺。それだけに違ったときの衝撃は大きかった。
「あ、あの、いきなり家まで押しかけてすまない。その、驚かせたくてな」
淡いピンク色のトレンチコート。ポンポンのついた女の子らしいブーツ。一目で気合いの入っているとわかる服装でやってきたその子は。