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甲斐司彩 中編

「タカト、着替え終わったぞ。まずはこれ、無難なやつだ」


 グレーのカーディガンにベージュのキュロット、それに黒タイツか。


「うん、無難だな。ただの美少女に見える。派手じゃないし持ってて損はないんじゃないか?」

「び、美少女……ま、まあタカトがそう言うなら買っておこうかな」


 司彩は普段の無表情ぎみの顔を若干崩しながら、次の服を試着すべく試着室へ戻っていく。


「こっちはどうだ?」


 白いトップスに黒のレザージャケット、ショートパンツに編み上げブーツ。すらりと長い生足がまぶしい。

 これぞクールビューティという感じで大人っぽさが増すコーデだ。


「なんというかこう、グッとくるな。大人っぽくていいと思うぞ」

「そうか。ではこれも購入するとしよう。次ので最後だ」


 今度は少しワクワクした表情で試着室に戻っていく。司彩が選んだ服の中で特にお気に入りのやつなのかもしれない。


「どうだタカト! 第一印象を教えてくれ」


 司彩が着ていたのは、純白のワンピース。シンプルながらところどころに凝った装飾が見られる。頭には涼しげな麦わら帽子がのっていた。


「なんだかすごく、すごく……」

「「ギャルゲーのヒロインっぽい」」


 司彩も俺と同時にそう言った。

 目を合わせ、どちらともなく吹き出す。さすが司彩、やってくれるな。


「タカトならそう言うと思ってたよ。どうだい、メインヒロインっぽいだろう」


 司彩は帽子を押さえながらクルッとターンし、イタズラっぽくウインクをした。


「それっぽいそれっぽい。実際似合ってる。オタが見ても違和感ないだろうし、町も普通に歩けるよ」


 司彩の豊かな胸が生地をぐっと押し上げているため、そちらをなるべく見ないようにしながら全体へ目を向ける。

 司彩はモデル体型で髪も長く、大人っぽい服装が似合うタイプだが、かわいらしい少女のような服装もギャップがあって……ってイカンイカン! 思わず司彩にトキメキかけてしまった。


「ふふふ、その顔、どうやらギャルゲーから抜け出してきたようなボクに見とれてるな?」

「自分でそういうこと言っちゃうのイタいぞ」

「否定はしない、と。昔から思ってたがタカトって天の邪鬼、もといツンデレの資質があると思うんだ」

「べ、別に司彩にときめいたんじゃないんだからねっ! その服がかわいかっただけなんだからねっ!

 ……おえ、自分で言ってて気持ち悪くなってきた。男のツンデレって需要ないだろ」

「いや、一慨にそうとも言えない。そもそも」

「ちょっと待て、話が長くなりそうな予感がするからここらへんで終わらせよう」

「むう、これからだというのに。でもこの後ア○メイトとかも行きたいし、仕方ない。そろそろ行くとしよう」


 司彩はワンピースを着たまま試着室をでて、レジまで進んでいく。


「結局それ着てくことにしたのか」

「うん。タカトの反応が1番よかったやつだからね」

「なんでそんなことわかるんだ?」

「何年一緒にいると思ってるんだい? それにボクは他人より観察力があると自負しているからね。わかりやすいタカトのことなんてすぐにわかるよ」


 えっへんと自慢げにそう言う。そもそもあんまり家からでないんだしその力は無意味なんじゃないかと思わなくもない。

 会計をすまし店からでたとたん、司彩が不意に腕をからめてきた。


「おい、なにやってんだ」

「なにってそりゃ腕を組んでるんだよ。見てわからない?」

「そういう意味じゃない。なぜこんなことするんだって聞いてるんだ」

「ボクの気まぐれさ。タカトだってまんざらじゃないだろ?」


 にやにやしながら胸をおしつけてくる。こいつわざとやってるな。


「知り合いに見られたらマズイだろ!」

「そもそも今日はタカトがボクを怒らせたことに対するお詫びとして買い物にきてるんだから、拒否権なんてないよ?」

「ぐ、それを言われると……ああもうわかったよ! でも知り合いを見つけたら離れるからな」

「よし、いい子だ」


 内心ヒヤヒヤしながら司彩と町を歩く。こいつの気まぐれは本当にわからん。でもやけに楽しそうだからいいか。たぶん久しぶりに町に来てテンションが上がっているのだろう。

 周囲への警戒を怠らず慎重に進んでいると、目的地への道の途中で移動販売のクレープ屋さんを見つけた。

 そういえば今日は普段の感謝の気持ちを伝えるために、司彩に何かおごってあげようって決めてたんだった。


「司彩、クレープ食ってかないか?」

「いいね。タカトにしてはナイス提案だ。ちょうど近くにベンチがあるし、買ったらそこで食べよう」


 司彩は俺の腕をぐいぐい引っ張りながら一直線にクレープ屋へ向かっていく。


「司彩には普段世話になってるから、クレープの料金は俺に払わせてくれないか?」

「珍しいな、タカトがそんなこと言うなんて。でもそれは無用だ。なぜならボクの方がキミにお世話になってるからね。むしろボクに払わせてくれないか?」

「いやいやいや、俺の方が助けてもらってるって」

「それは違う、ボクの方が」


 なんてやりとりをえんえんと繰り返していたため、クレープ屋の若い女性が業を煮やしたのか話しかけてきた。


「ちょいとそこのカップルの女の子の方、素直に男の子におごられなさい。男ってもんはね、女におごることで満足を得る生き物なのよ。元彼がそうだったわ。毎回無理に割りカンにしてたら、お前といてもつまらないって言われて、それでええええ! あーもうなんでなのよ! なんで会計のときに財布すらださないクソ女なんかに乗りかえたわけ!? 顔なの!? 結局顔なのおおおお!?」

「おい司彩、なんか俺たちクレープ屋のおねえさんの地雷を踏んじまったらしいぞ」

「う、うん。どうやらそのようだね。こうなったら仕方ない。おとなしくおごられるとしよう」

「最初からそうすれば平和だったんだけどな……」


 荒ぶるおねえさんをなんとかなだめ、クレープを手に入れる。

 俺はオーソドックスなチョコバナナ。司彩はブルーベリーを選んだ。

 まだ2時を少し過ぎたばかりでおやつどきではないが、できたてのクレープは食欲を刺激するには十分だった。


「クレープ屋さん、ボクたちのことカップルって言ってたよね。やっぱりそう見えるのかな?」

「そりゃ腕組んでたらそう見えるだろ」

「それもそうか。ボクたちの発するカップルオーラを見抜かれたのかと思った。にしてもクレープはおいしいな。甘いものは、3次元という名の砂漠におけるオアシスのようなものだ」

「カップルオーラってなんだ……。今の発言でいかに司彩が甘いもの好きかわかったよ。喜んでくれたようでよかった」

「む、タカト、クリームがついてるぞ」

「ん?」


 司彩はこともなげに俺の唇付近についていたクリームを指ですくいとると、それをペロっとなめてしまった。


「どうだい、鉄板イベントを消化した気持ちは?」

「そうだな。特に感慨もないな」

「ウソをつけ。顔が赤くなってるぞ」

「そういう司彩もほっぺたにブルーベリーソースついてるぞ」

「えっ?」


 俺は司彩がさっきやったことと同じことをした。酸味と甘味が絶妙に混じり合ったブルーベリーの味が口の中に広がる。


「どうだ司彩、同じくイベントを消化した気持ちは」

「そ、そうだな。とととと特に感慨もないかな、うん」

「ウソつけ。顔が赤くなってるぞ」

「っ! うぅ、タカトにしてやられるなんて悔しい……!」


 自分でやっておいてアレだが、とてつもなく気恥ずかしい。

 そこからなんとか普段通りの雰囲気に戻してクレープを完食したあと、本来の目的地へ向けて歩を進める。

 俺も司彩も早くそこに行きたいがために速足で進んだ結果、予定していたよりだいぶ短い時間で到着することができた。

 いざ、今日の裏メインイベント、アニメ○トでのグッズあさりへ!

 2人して目をキラキラさせながら店内をまわる。当然周囲からの視線が痛い。が、そんなの気にならないくらいに楽しい。司彩と俺はことごとくアニメ、マンガ、ラノベ、ゲームの好みが一致しているため会話が弾む弾む。

 ここなら知り合いも少ないだろうし安心して過ごせるな。

 そう思っていた時期が、俺にもありました(本日2回目)。


「う~む、ミナトは確かこういうのが好きだったな。居合道の話題だけじゃ物足りないし、私もこういうのを見てもっと共通の話題をつくらなければ!」


 蛍は複数のマンガやラノベを両手いっぱいに抱えながらアニメDVDを物色していた。

 いやありえないでしょこの偶然。蛍の様子を見るにここ来たのはじめてっぽいし。


「タカト、こっちだ」


 デジャヴだなーと思いながら司彩に引っ張られていく。着いたのは最上階、コスプレコーナーだ。


「なるほど、ここなら安全だな。初心者にはハードル高いし、荷物もいっぱい持ってたし」

「隠れながら抜け出してもよかったんだけど、まだまだ店内を回りきれてないからね。ここである程度時間をつぶせば切通さんをやり過ごせるだろう」

「さすが我らがギルマス、血まみれ戦姫ルーラー! 素早く的確な指示で何度ギルドを勝利に導いたことか、ってちょい待ちなんでコスプレ衣装持ちながら試着室に!?」

「そんなの決まっているだろう。また評価のほど頼むぞ、後方支援の鬼、ボクの右腕タカトよ」

「ギルマスのご命令とあらば」


 以下、アパレルショップと同じようなやりとり。違ったのは、今回は着るだけで購入しなかったということと俺も一緒にコスプレさせられたことぐらいだ。

 蛍が帰ったのを確認したのちグッズあさりを再開し、その後ゲームセンターで思い切り遊び、気が付けば夕方になっていた。

 俺と司彩は夕陽を背負いながら数々の戦利品たちとともに家路につく。

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