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切通蛍 後編

「ミナトと同じ高校に通いたかったのだ」

「……え、それだけ?」

「そうだ。バレンタインの日、まごめとカナを見てうらやましく思った。ミナトと長く過ごしている分の、なんというか信頼感の強さみたいなものが見えてな」

「俺と蛍も十分長いつき合いだと思うぞ」

「だとしても、足りないのだ。なんで自分はこんなにもミナトの近くにいたいのか、昨日まではわからなかった。親友をとられたような気分に似ているが、少し違う。きっかけは、司彩と付き合っていると教室で宣言したとき。そして昨日、偶然屋上で聞いてしまった、カナの告白で確信した」

「聞いてたのか」

「この件についてはカナにも謝らなければならない。ミナトにちょっとした用事があって屋上に行き、ドアを少し開けたところで偶然聞こえてきてしまった。カナが出ていくとき、とっさに近くのロッカーに隠れたのだ」


 カナが屋上を去ったあとに聞こえた物音の正体がわかった。どこから聞いていたかはわからないが、まごめについての話もしていたから、もしかしてまごめが告白したことも聞かれていたのかもしれない。

 俺は黙って蛍の言葉を待つ。

 蛍が今日、ウソをついてまで俺を誘った理由をまだ聞いていない。


「私は、カナが告白しているのを聞いて、急に胸が痛くなって、それがなぜなのか考えてた。早退してまで考えて、悩んで、唐突に気づいた。わかってしまった」


 蛍が俺の身体にしがみつくように力を入れ、しぼりだすように、耳元でささやく。


「私は、ミナトのことが好きだったんだ。自分でも気づかないまま、ずっと恋をしていた」


 至近距離からのその言葉はあまりに強烈で、呼吸すら忘れてしまう。

 俺はただ自分と蛍の心臓が刻む鼓動を聞いていることしかできなかった。 


「今まではモヤモヤしていた気持ちの正体がわからず振り回されていたが、自覚してからは、そんな気持ちも受け入れられるようになった。ふふ、ミナト、私の初恋の相手はお前なんだ。こんなに嬉しいことがあるだろうか」


 本当に嬉しそうにそう言うものだから、余計に胸が苦しくなる。なにせ俺はまだ、蛍の想いに応えてやることができないのだから。


「蛍、ごめん、今すぐには、こたえられない」

「逆に今すぐこたえられては困る。私とてこわいのだ。もしミナトのとなりで刀を振ることができなくなったら、と考えるとこわくてたまらない。だから私にも心の準備をする時間をくれ。そ、その、好きだとか言ったあとにというのも変かもしれないが」

「わかった。でも、来週の月曜日までに自分の中で答えをだすって決めてるんだ」

「ならば私もそのときまでには覚悟をきめておこう」

「情けないよな、自分の気持ちがわからなくて、待っててもらうしかないだなんて」

「私だって昨日までわからなかったぞ。それに、ミナトがヘタレだということはカナやまごめ、それに私だってとっくの昔から知ってる。なんせ幼なじみ、だからな」


 お手上げだ。頭が上がらないな、俺の幼なじみたちには。


「さあミナト、そろそろここからでるとするか。おそらく父上は今離れの方を探している。抜け出すチャンスだ」


 そう言って密着していた身体を離す蛍。暗くてお互いの表情はよく見えないのが幸いだ。多分、俺の顔はゆでだこのごとく真っ赤になっているだろう。

 バレないようにできるだけ早くほてった頭を冷やさなければ、と思っていたそのとき。

 頬に、何か柔らかであたたかいものが触れた。

 これって、まさか。


「ん、どうしたミナトよ、顔が赤いぞ?」


 倉庫からでてこちらを振り返った蛍は開口一番にそう言った。


「それはこっちのセリフだ」

「こ、これは夕陽のせいだ!」

「俺も夕陽のせいで顔が赤く見えるだけだ」


 袴姿の蛍は、橙色の夕陽の中で恥ずかしげな微笑をうかべていた。

 蛍は恥ずかしがりやだからこういう表情は見慣れているはずなのに、今のこの表情はどこか違った印象を受ける。

 見とれていたら蛍に不思議そうな顔をされたので、あわてて目をそらす。

 それから武蔵先生が近くにいないか警戒しつつ玄関へ急ぎ、無事脱出に成功した。


「ふう、一時はどうなるかと思ったけど助かった」

「うむ。カナやまごめが待ってるだろうし、早く帰った方がいい」

「そうだな。じゃあ、俺はこのへんで」

「気をつけて帰るんだぞ」


 やや早足で、俺は切通道場をあとにする。

 顔から火が出そうだ。まさか蛍が恋愛的な意味で俺を好いていてくれていたなんて。


「お~い、ミナト~!」


 名前を呼ばれ振り返ると、こちらに向かって大きく手を振っている蛍が見えた。


「なんだよ~!」


 大声をださなければ届かないような距離のため、俺も負けじと声を張る。


「私が家庭に入れば、将来安泰だぞ~!」


 なんてことを叫んでるんだあいつは!?

 蛍はそう伝えたとたん、逃げるように家の中に戻っていった。

 くっそ、そんなこと言われたら、余計に鼓動が激しくなるじゃないか。

 しかし、何事にも奥手だった蛍がここまで積極的になるだなんて。恋というものはここまで人を変えることができるのか。


 俺は通い慣れた道を歩きながら、まごめ、カナ、蛍のことを考える。3日間連続で3人の想いを告げられたため、頭の中がキャパシティオーバーになる。

 今まで家族のように、親友のように接してきた。あいつらのことはなんでも知っていたはずなのに、本当は何もわかっていなかったのかもしれない。

 これまで見たことのなかった表情をうかべていた3人を思い出しながら、夕陽にてらされた道をゆく。今日も眠れそうにないな。

本日より1日2話更新! 最終話は今週土曜日に投稿予定。

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