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波乱のバレンタインデー その2

 俺たちの通う長名おさな高校はごくごくフツーの県立高校である。生徒数そこそこ、レベルも県内で真ん中くらいと何の面白みもない。唯一気になるのは名前くらいだ。どことなく幼なじみを彷彿とさせるのでやめてほしい。

 もちろん共学のためバレンタインデーたる今日は男子がそわそわ、女子がもじもじして普段とは違った雰囲気になる。ま、俺には関係ない話なんだけど。

 教室に入って荷物を置き、見慣れたひょろメガネに声をかける。


「山谷おはよう」

「帰れ裏切り者」

「いきなりどうした。お前に裏切られたら俺は学校で誰と深夜アニメについて語り合えばいいというのか」

「知るか。どうせ今年もキサマは超絶美少女たちからチョコもらうんだろファ○ク」

「それもしかしてまごめとカナのことか?」

「他に誰がいるんだ」

「やつらは確かに顔面が整っているかもしれない。そこらへんのアイドルよかかわいいのは認めよう。だが中身はどうだろうか。まごめは服脱ぎっぱなしとかガサツでテストの点数も赤点ギリギリのおバカさん、カナはかまってちゃんで面倒くさいし、なにより狂戦士バーサーカーだぞ?」

「おい港人、う、う、う」

「う?」

「うしろ!」


 振り返ってはならない。本能がそう告げる。これは間違いなく命に関わるやつだ。


「ガサツで、おバカさんで、悪かったわねぇ」


 ツインテールが逆立ち、八重歯がキラリと光っている、ような気がする。


「へえ。みーくん、そんな風に、オモッテタンダ」


 地獄の門が開いた。もうおしまいだ。


「自分、もう助からないですかね。何とかなりませんかね」

「「むり」」

「山谷、俺の屍、拾っといてくれ」

「リア充死すべし」

「……ふう。今日も、空があお」


 ここから次の授業までの記憶がすっぽりと抜けていたのは言うまでもない。

 それからクラス内外で義理チョコ交換会やばらまき系女子によるチョコ爆撃と恒例行事が行われた。

 校庭のすみをご覧ください。あそこに見えるのはガチ告白。ガチ告白でございま~す、なんてね。

 人間観察をしていたらすぐに放課後になってしまった。ショータイムのはじまりである。いざゲームショップへ!


「で、お前ら部活はどうしたんだ」


 学校の玄関に向かう途中、当然のように俺のあとについてきた2人にそう聞いてみた。


「あたしのとこは色々あってね……。部長がお昼休みに本命チョコ渡そうとしたんだけど遠回しに断られてハートブレイク。有志による部長をなぐさめよう会が開催されるそうで、部員がほとんどなくなっちゃって練習どころじゃないってわけ」


 表情だけでなく、ツインテールも心なしかくすんで見える。


「お、おう。そりゃまたなんとも。カナはどうしたんだ。料理部部ならみんなでチョコ作ったりとかあるだろ」

「わたしのとこは逆に4人いる部員が全員本命チョコ渡せてオーケーもらえたから、これからデートなんだって」

「マジか。そんなこともあるんだな。まごめのとこときれいに対比になってて、なんというか、世の無常さを感じるな。そうだ、カナは誰かに本命チョ」

「それ以上言ったらみーくんの口をふさぎます」

「その手に隠してるものは何なんだこわすぎるだろすみませんでした何でもありません」

「よろしい」


 こういうイベントの日はどうにも幼なじみたちの地雷を踏みやすい。注意しなければ。注意したところで回避できないものは回避できないんだけどね。誰か俺に優しくてめったに怒らないおだやかなメイドさんをください。

 そんなことを考えながら何気なく靴を取りだそうとしたのがいけなかった。


「!?」


 嘘だろ。あまりの衝撃に数秒間フリーズする。

 その様子を不審に思ったのか、まごめとカナが俺の手元をのぞきこんできた。


「なっ!」


 目を白黒させ、手が小刻みに震えているまごめ。


「え?」


 困惑して自分の靴を落とすカナ。2人とも動揺しすぎだろ。

 まあそれも仕方ないか。なんせ俺の靴箱にまごめからでも、カナからでもないチョコが入ってたんだから。俺が1番驚いてるわ。

 四角い、小さめの黒い箱。赤いリボンが結ばれたそれには差出人等は書いてなかった。ただ一言「親愛なる港人へ」と書かれた紙がくっついていただけだ。

 誰からだろう。全く心当たりがない。しかし何だこの胸の高鳴りは。くっ、俺もただの多感な男子高校生ということか。2次元愛はどうした、しっかりしろ!

 そんな状態だったからか、わきからそろそろと獲物を狙うハンターのごとく近づく2つの影に気づかなかった。

 とっさに胸ポケットの中にチョコをつっこむ。さっきまで俺のチョコを持った手があった場所を2つの手がすさまじい速さで通過する。無駄に早業な俺たち。カルタ大会とかで優勝を狙えそうな勢いだ。


「にいちゃん、それは危険だよ! 時限爆弾かもしれない! あたしが解除してあげるから早くこっちに!」

「それはさすがに無理があるだろ!」

「ふふふ、みーくんをたぶらかそうとする女狐は誰だろうなぁ。わたし、知りたいなぁ」

「その藁人形とかお札とか物騒だからお願いしまって!」

「「ごちゃごちゃ言ってないでとにかくそれを渡せえ!」」


 勢いよく突っ込んでくるまごめとカナ。心なしか背後に白虎と朱雀が見える。俺も負けじと玄武をだそうとしたけど無理でした。どうやってあのオーラっぽいのだしてんだ。


「回避ぃ!」


 とっさにしゃがんだためまごめとカナがごっつんこ。ピヨり状態である。チャンス。

 しゃがんだ体勢からクラウチングスタートへ移行。恐怖心からか普段よりもはるかに速いスピードで通学路を駆け抜ける。帰宅部ナメんなよ!

 トップスピードを保ったままゲームショップの裏手に到着することに成功した。しばらく動けそうにない。

 呼吸を整え、胸ポケットに入れてあったチョコを取り出す。つぶれてなくてよかった。

 はやる気持ちをおさえて慎重にリボンを解いていく。どんなチョコだろう。差出人の名前も書いてあるかな。


「っうぉう!?」


 箱を開けた瞬間、バネによって一口大のチョコが飛び出してきた。

 ビヨーンビヨーンとはねるそれをぼうぜんと見つめる。なかなかユニークなチョコですね、うん。

 中には案の定、手紙が入っていた。

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