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蛍とカナと大会 その3

 18時30分くらいに家に着いた。

 土曜日だというのに両親は仕事で家にいない。あの人たちもう10連勤くらいしてるんじゃなかろうか。


「ただいま~」

「にいちゃんおかえり~」

「みーくん、もうすぐ夜ご飯できるからちょっと待っててね~」


 今日もカナが来てくれている。さすがに毎日というわけじゃないし土曜日は来ないときが多いから、ちょっと安心した。今日はなんとなく温かくておいしい料理が食べたかったから。

 努めて平静をよそおいながらシチューを食べ、3人でだらだらとバラエティ番組を見る。


「カナ、いつも飯作ってくれてありがとうな」


 ふとそんな言葉がでる。


「どしたのみーくん。一瞬聞き間違いかと思ったよ~」

「あたしも~。にいちゃんがそんなこと言うの珍しいよね。便乗しちゃおう。カナちゃんいつもありがとー!」

「ちょ、重いってまごちゃん!」

「えーひどいよカナちゃん! 重くなんてないもん! カナちゃんより軽いもん!」

「わたしが重いぶんはきっと胸のぶんだよね」

「あたしとほとんど変わらないはずだからそれはないよカナちゃん。現実見よ?」

「うん、まごちゃんだけデザートなしね」

「ごめんなさいカナちゃんさんそれだけは勘弁してください」

「まごちゃん三つ指はこういうときにつくものじゃないよ……」


 なんてやり取りをしてるんだこいつらは。ちょっとだけ和んじまったじゃないか。

 2人が騒いでいる間に、部屋に戻ろう。これ以上ここにいたら、こいつらに甘えてしまいそうだから。


「あれ、どうしたのみーくん。デザート食べないの?」

「あー、帰りにちょっと食べてきたからもうお腹いっぱいなんだ。俺のぶんはまごめにやってくれ」

「やった! にいちゃんありがとー!」


 ツインテールをぴょんぴょんさせて飛び跳ねるまごめ。無邪気なやつだなぁ。

 喜ぶまごめと心配そうにこちらを見るカナを残して、俺は2階へあがっていった。

 荷物を机の上に置き、ベッドに腰をおろす。

 手に持っていた賞状を広げてまじまじと眺める。

 2位。何度も同じ数字を見てきた。今回も、そう。

 不意に賞状を破り捨てたくなる衝動に襲われ、指に力をこめる。

 思いきりよく破こうと、大きく息を吸ったそのとき。

 力の入れすぎで白くなっている俺の指に、細くて華奢な指が重ねられる。


「みーくん、そんなことしちゃダメだよ」


 俺は、あっさりと指を離した。

 誰かに止めてもらいたかったのかもしれない。あるいは、カナの柔らかな手つきに、張りつめていたものが切れてしまったのかもしれない。

 カナはするりと俺の手元から賞状を抜き取ると、きれいに伸ばしてファイリングしていく。


「なんで俺の賞状ファイルの場所知ってるんだよ」

「わたしがみーくんのことで知らないことがあるとでも?」

「てか、勝手に入ってくんな」

「いやぁみーくんが落ち込んでたから、励ましてあげようかと思ってね~」

「……余計なお世話だ」

「はいはい。昔から意地っ張りさんなんだから」


 静かに俺の右となりに腰をおろすカナ。柔軟剤の香りがひろがり、鼻腔をくすぐる。


「カナ、近い」

「じゃあもっと詰めちゃおうかな」

「なんでだよ」

「こうした方が落ち着くでしょ?」


 何を言っても無駄だと判断した俺は黙り込むほかない。

 触れ合った肩からカナの体温を感じる。

 しばらくお互い何も話さないまま時が流れる。不思議と気まずさは感じなかった。

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