蛍とカナと大会 その1
さて、カナ、まごめ、蛍、司彩と同じクラスになって早数週間。毎日毎日なにかとトラブルが尽きないがなんとか生き延びている。
今日は6月中旬の某日。
「さあミナト、道場へ行くぞ」
「お~う」
手早く帰る準備をととのえ、模擬刀や道着がそろっているのを確認し、校門へ向かう。
「気づかれないように息をひそめるんだぞ。居合道における八方心眼のように周囲に目を向けるんだ」
俺たちは今、校門近くの茂みを抜き足差し足で移動していた。
「なあ蛍、いつまでこんなこと続けるんだ。別にいいじゃないか、アイツらと一緒でも。どうせ道場で会うやつも何人かいるんだし」
アイツら、というのはホタル親衛隊の隊員のことである。蛍の下校時間を見計らって様々な場所で待ち伏せしているようだが、カナに教えてもらったいくつかの脱出経路のおかげでカチ合わずにすんでいる。カナが神出鬼没な理由がわかったような気がした。
ホタル親衛隊とは転校初日から発足した、現在着々と隊員数を増やしている新進気鋭の集団だ。隊員の中にはわざわざ切通道場に入門して居合道をはじめる者まで現れている。徹底っぷりがすごい。門下生が増えたーって武蔵先生も喜んでた。男っぽい話し方に基本的にはサバサバした性格ゆえか女子人気もあり、隊員の男女比は半々くらいだそうだ。
「シッ、もう少し小さい声で! 私が人見知りなのは知っているだろう。それになんだ、せっかく同じ学校に転入してもクラスじゃあんまり話せないしな。こんなときにしかゆっくり話せないじゃないか」
「ほうほう、蛍さんはそんなに俺とおしゃべりがしたいと」
「うん!? え、いや、あの、その」
「なーんてね、わかってるって。大会とか奉納演武のとき、ペアで息のあった型演武をするには普段のコミュニケーションが大事だもんな」
「うむ。そうだ。私が言いたかったのはそういうことだ」
「なんでそこで手刀をわき腹にねじこんでくるんだ!」
「知らない!」
なんてやり取りを行いつつも足を止めず、なんとか今日も見つからずに校外に出ることに成功。
ちなみにこんなめんどくさいことをしているのは居合の稽古がある水、金曜日だけで、それ以外の曜日は普通に帰っている。親衛隊の面々も蛍に迷惑をかけないように活動日を水金に絞っているそうな。
「蛍、お前の口から言ってやればいいじゃないか。迷惑だからつきまとうのはやめてくれって」
俺がそう言うと蛍は困ったような、でもどこか嬉しそうな表情でこう答えた。
「でも、彼ら彼女らは私を慕ってくれているわけだから、そう無下にもできないじゃないか。だから一ヶ月に1度は親衛隊? の人たちと帰ろうと思う」
律儀なやつだよホント。そういうところは昔から全然変わってない。
「蛍のその性格、これからも苦労するぞ」
「そうかな?」
「そうだとも。ただ、俺は嫌いじゃないけどな」
「もしかしてミナトのそれは褒め言葉か?」
「ち、ちがわい」
「ふふふ、お前も大概だな」
くっそ、柄にもないこと言うんじゃなかった。
それからも学校のこと、居合道のことについて話しながら、尾行されないようやや迂回するルートで蛍の家、切通道場を目指す。
「来週の土曜日、ついに大会だな」
「うむ。日頃の鍛錬の成果を披露するときだ。順位などにとらわれず、のびのびと刀を振ろう」
「そうしたいのは山々なんだけど、どうしても得点、結果が気になっちゃうんだよなぁ」
「まだまだ修行が足りないな、ミナト。そんなことではいつまでたっても私の順位を抜けないぞ」
「うっせ」
そうなのだ。俺は万年2位どまり。1位はもちろん蛍だ。
居合道の大会はそんなに大規模なものではない。俺たちの年齢、段位では全国大会にはでられないため地方大会のみの参加になるのだが、参加人数の多い初段、二段の部でもそれぞれせいぜい20人強くらいだ。
こう言うと倍率が低そうな感じがするのだが、年齢制限がないため社会人がちらほら参加している。長く居合道を続けていても仕事の関係でなかなか昇段審査が受けられず初段止まり、という人たちよりも高い得点を取るのは至難のわざだ。さっき万年2位と言ったが、そういう人たちに負けて何回か3位、4位になったことがある。
1位を維持し続けている蛍がいかにすごいか。
司彩の才能の話のとき、蛍は言った。神様は不公平だと。
その通りだと俺も思う。俺は蛍と小さい頃から切磋琢磨しながら、同じくらいたくさん稽古してきた。
でも、今まで1度たりとも蛍より高い点数をとれたことがない。
わかってるんだ。才能で負けてるなら、努力で埋めるしかないことぐらい。だが、俺が稽古量を増やしたら、蛍はもっと増やす。そうやってイタチごっこを続けて、お互いちょうどいい練習量に落ち着いたところで、やはり勝てない。
もうすぐ俺と蛍は昇段して二段になる。
二段には今までより上手い人がわんさかいて、いくら蛍とて1位を取ることは難しいだろう。
つまり、来週の大会が初段として参加できる最後の大会で、俺が1位をとれる可能性がある唯一の機会なのだ。
ここ1ヶ月、俺は自宅でも自主稽古をし、自分の演武を録画して改善点を探して修正し、より力強い振りができるよう木刀に重りをつけて素振りし、普段以上に鍛錬を重ねた。
その成果を大会でだしきり、1位をとってみせる。
密かに決意を固めながら、切通道場の門をくぐる。




