ある日の昼休み ラスト
「それはどうだろうね。プライベートなことだしキミたちに話す必要はないかな。さあ、そろそろお昼休憩も終わりそうだしおひきとり願おう」
「「「「「う、うわ~ん!」」」」」
5人が5人ともガチ泣きしながら自分の教室へ戻っていく。これで諦めてくれたかな。
しかし司彩のやつも危ない橋を渡ったもんだ。さきほどの受け答えも、これまた付き合ってると思われかねない危険な発言である。
「司彩、おつかれ。気になったんだが、さっきの回答だと誰が聞いても付き合ってるって思われちまうぞ。俺もテンパって何も言えなかったし、とっさにでた言葉としては上出来だけど」
「……ボクとしては付き合ってるってことになった方がいいんだけどね」
「なんだって? もっと大きな声で話してくれ」
「いや、たいしたことじゃないよ。そうだね、このままじゃタカトにも迷惑がかかってしまう。もしボクとタカトが付き合ってるなんて噂が流れたらかたっぱしから否定してくよ」
「俺もそうする。しっかし司彩も思い切ったことを言ったもんだ。春休みに話したときは、なるべく教室で俺に話しかける、ってくらいハードル低かったのに、今じゃ休み時間しゃべりっぱなしだし」
「確かに。ボクはなんでさっきあんなこと言っちゃったんだろう。多分、キミが、浮海さんや高村さん、切通さんと予想以上に仲がよかったから、かな」
「ん? それとこれとどう関係があるんだ?」
「まあキミにはわからないだろうね鈍感王子さん」
「あれ俺今サラッとバカにされました?」
「さあね。もうあと数分で授業はじまるし準備しようか。最初の練習問題、今日はタカトから当てられるんじゃないか?」
「そうだった。先に解いておかないとな」
いそいそと教科書・ノートを取り出し、問題を解こうとしたが、どこからかの視線が気になり、教室を見回すことに。
するとカナが今にも泣きそうな顔で震えており、蛍は思いつめたように真剣な表情をし、まごめにいたってはもう授業がはじまるというのに姿が見えなかった。
しまった。まだ誤解を解いていない。問題より先にまずはこっちを解かなければ。
説明しようと席を立ちかけたとき、無情にもチャイムがなり、先生が教室に入ってくる。こうなったら5時間目が終わってから詳しく説明するしかない。
よろよろと席についたカナや、心ここにあらずな蛍をこづいて小声で、さっきのは芝居で俺と司彩は付き合ってなんかいないと言ったが、2人ともまったく耳には入っていないようだった。
授業がはじまって10分くらいしたところで、げっそりとしたまごめが教室に戻ってきた。
俺の方をチラリと見たかと思えばすぐに目をそらし、意気消沈といった様子で机につっぷす。
各々の予想以上の反応に、動揺する。なんだってお前らはそんなに取り乱しているんだ。
授業に集中しきれないせいか、時間の流れがいつもよりゆるやかなような気がする。
やっと授業が終わり、さあ誤解を解こうというところで右、左、前から一斉に、
「「「本当に司彩と付き合ってるの!?」」」
と問いつめられた。よかった、授業時間のおかげで正気に戻れたようだった。
「そんなわけないだろ。3人とも俺の性格知ってるだろ? ないない」
それを聞き、ガクッと力が抜けイスにへなへなと崩れ落ちるお三方。
「幼なじみ属性大嫌い、2次元大好きみーくんに限ってそれはないよね。冷静に考えればわかるんだけど、つーちゃんがあまりにも自然に言うものだからつい動揺しちゃった」
胸をなでおろしているカナ。
「だよね、にいちゃんが女の子と付き合うなんてそんなハイレベルなことできるはずないもんね」
さらっとバカにしつつうんうんうなずいているまごめ。
「わ、私は最初本当に付き合ってるかと思った。2人とも休み時間いつも一緒にいるし、趣味も合うみたいだし。授業中ずっと考えて、やっぱりそれはミナトの性格的にないかなと思った」
手をわちゃわちゃ動かしながら俺と司彩を交互に見ている蛍。
純粋か。蛍が将来悪い人間にだまされないか心配だ。
昔から俺がどんな人間か知っている3人だからこそ、あっさり誤解が解けた。嬉しいような悲しいような。
司彩の爆弾発言のときのカナ、まごめ、蛍がそれぞれ見せた表情が妙に脳裏に残っている俺であった。
この一件以来、注意深く観察し彼女たちの微妙な変化に気づいていれば、あとからこんなにも悩むことはなかったのだろうか、と今になって思う。




