ある日の昼休み その4
校内放送が終わり、教室の中が生徒のわいわいがやがやという音だけで満たされる。
俺たちの話題はいつしか司彩についてのものになっていた。考えてみれば当然か。カナ、まごめ、蛍はファーストコンタクトから日が浅いもんな。
「ねえあたし気づいたんだけど司彩って、深窓のサボり姫ツカサのことだよね? 儚げなお姫様みたいな見た目で、学力テストは常に学年1位でおまけに運動もできる。けど出席日数ギリギリまで休むサボり魔で有名な、あの」
もう弁当を食べ終わっているまごめが子どもっぽいツインテールをいじりながらそう言う。
「そうだな。それはまさしく司彩のことだ。ただのオタクなのに随分な評価だよな」
「タカト、ボクはちゃんと勉強して学年1位を維持してるし、身体だって鍛えてるんだぞ?」
「勉強といってもテスト前にちょこっとだけだし、鍛えてるってW○iスポーツでだろ!」
「うん。それは否定できない」
たまにいるんだよなぁこういう天才タイプ。小学校、中学校まではわりとそういうやつ多いんだけど、高校でここまでできるやつはそうそういない。
カナやまごめが口ぐちにいいなぁずるいわぁ今度勉強教えろーとか言ってるなか、蛍だけがうつむいてワナワナ震えていた。
理由は何となくわかる。
「神様は、神様はなんて不公平なんだーーーー!」
「いきなりどうしたのほっちゃん!?」
言うなれば蛍は、司彩とは全く逆のタイプ。
毎日きっちり2時間以上勉強し、ランニングや適度な筋トレも行っている。もちろん学力テスト、体力テストの前は普段以上に頑張っている。俺の知る限りで1番のコツコツ努力型の人間だ。
しかしそこまでやっても学力、体育の成績は中の中、人並み止まり。
「そんなに怖い顔でにらまないでよ切通さん」
「ううう……本当にそれだけしかやってないのか?」
「うん、そうだよ。アニメ・ゲーム・マンガとかにかける時間の方が大事だからね」
すっぱり言い切る司彩。なんと残酷な。
こればっかりは仕方のないことではある。どんなキレイごとで隠しても、努力こそが正義で美徳であると謳われているとしても、才能ってのは確かに存在する。いやおうなく立ちはだかってくる。
確かに蛍には勉強や運動の才能がそんなにないかもしれない。
けれど、居合道の才能に関しては、ずば抜けたものがある。それに努力が加わってるもんだからハンパじゃない。ある意味で神様は平等かも知れない。どんな人間にも何かしらの才能が秘められているんだから。
その才能が本人の望んでいるものと必ずしも一致するとは限らないところが如何ともしがたいところではあるが。
「ぐぬぬぬぬ。では、そのナイスバデーな体型は努力の証ではないと?」
俺が1人で才能とは何か、ということについて考えている間にも話は進んでいく。このまま考え続けるとドツボにはまりそうなので今はやめておこう。
「そうだよ。自然にこうなった。どんなに食べても太ったりはしないかな」
「! 私なんて、私なんて少し油断しただけですぐお腹にお肉がつくというのに!」
蛍がだだっ子のように腕をぶんぶん振り回しはじめた。体重関連の話は下手なこと言うとすぐ鬼がやってくるから黙っておこう。俺もいくら食べても太らないな~なんて口が裂けても言えない。
「つーちゃん、それは聞き捨てならないね。食べ物に気をつけてるんじゃない? ポテチやコーラはいっさい摂らないとか」
「むしろポテチとコーラは大好物で最低でも1日1袋と1本はいってるな」
カナは絶句、そのままイスの上で真っ白に燃え尽きてしまった。
「司彩、あたしたち、いや、全女子にケンカを売ったね……! その胸の中には何がつまってるのどうやってそんなに大きくなったの教えてくださいお願いします!」
両手をバンと机の上につき頭をたれるまごめ。必死すぎるその姿に涙を禁じえない。
「わたしにも教えてつーちゃん!」
カナが胸というワードに反応して復活。体重の話題からいつのまにか胸の話題になってるが気にしないでおこう。
「特に何もしてないんだけどな。あ、ヨーグルトは好物で毎日食べてるよ。プレーンで砂糖なしのやつ」
「「それだ」」
指をぱっちんとならし高速でメモをとるカナと、購買に向かって全力ダッシュするまごめ。
この教室は購買と近いため、急げばすぐ戻ってくることができる。ものの数分でまごめがヨーグルトを3つたずさえて戻ってきた。
「はい、カナちゃん、蛍」
「まごちゃんぐっじょぶ!」
さっそくフタをぺりぺりはがしむさぼるカナ。これからは朝の食卓にヨーグルトが現れることでしょう。嫌いじゃないから別にいいんだけどね。
カナの反応とは対照的に、蛍は困り顔をしていた。
「心遣いはありがたいが、遠慮しておく。これ以上、胸が大きくなっては困るんだ」
はいまた蛍が地雷踏んだー前うち来たときも同じこと言ったー。
「そう、だったね。ははは、忘れてた。あたしってば本当おバカさんだよね」
ほら、まごめの目が死んじまった。つられてカナの目も。
「まごちゃん、なんで後から現れたみーくんの幼なじみ2人とも胸がおっきいんだろうね」
「あたしにもわからないよカナちゃん」
「貧乳同盟、結成しちゃいますか」
「しちゃいますか」
「あ、でもよけいむなしくなってきた」
「じゃあやめよう」
「うん。なんでわたしたちがこんな思いしなくちゃいけないんだろうね」
「それはねカナちゃん、世の中に巨乳がいるからだよ。全部巨乳が悪いんだよ」
「その通りだね。よし、貧乳同盟を立ち上げて巨乳を撲滅しよう」
「そうしよう」
身の毛もよだつ、とはまさにこのこと。ループしていることに気づかず似たような会話がリピートされていた。
リピートされるたび蛍や司彩の胸を見つめる目も次第に血走っていく。かわいそうに、蛍はすっかりおびえてしまっていた。司彩はもちろんどこ吹く風でひょうひょうと弁当を食べている。さすがっすアニキ。いやアネキ。




