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幼なじみ属性が嫌いな男子高校生の1日 前編

 挿絵(By みてみん)



 俺は幼なじみ属性が大嫌いだ。


 おおかたの物語において幼なじみは負け属性である。それはもう見事なまでにポッと出のヒロインに想い人をかっさらわれていく。

 どのヒロインよりも長く主人公と時間を共有してきたのにモノにできず、挙げ句の果てには結ばれた主人公とポッと出ヒロインを、顔では笑って心で泣きながら祝福しちゃったりするのだ。

 つまり、幼なじみ属性には魅力がない。だから多くの作品で当て馬のような不当な扱いを受けるのだ。


 なぜこんなことを語っているのか。それは昨日プレイしたゲームに原因がある。

 昨日プレイした恋愛シュミレーションゲームは最悪だった。ネットで神作神作と騒がれていたためほとんど事前情報ナシで買い、攻略サイトなども見ず進めていたら、最後の最後で謎につつまれていたヒロインが実は幼なじみだったと判明したのだ。

 そのテキストを目にした瞬間、俺は悲鳴をあげながらPCの電源を落とし、ベッドに飛び込んでそのまま寝た。


 恨むぞ制作陣。メインヒロインを幼なじみ属性にするなんて。これが神作と呼ばれているということは幼なじみ属性はある程度人気があるということだ。これで幼なじみブームなんてものが来てしまった日には俺はギャルゲーから離れることになるだろう。

 失意にのまれながら就寝し、今に至る。

 あまり寝た気がしない。まだ起きる時間じゃない、よな。うん、きっとそうだ。ならば二度寝するしかない。寝まくってあの忌まわしきゲームの記憶を脳から消し去らなければ。

 けっとばしていたかけ布団をかぶり直し、再び眠りにつこうとしたそのとき。

 キイ、と俺の部屋のドアを開ける音が聞こえてきた。

 ウソだろ。もうそんな時間なのか。認めない。認めないぞ俺は。


「にいちゃーん、朝だよ~」


 我が義妹の声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。


「う~ん、声かけただけじゃダメか。じゃ、しょうがないよね。起きないにいちゃんが悪いんだから」


 聞こえないよー俺何も聞こえないよー。


「母さん直伝、すくりゅーどらいばー!」

「それ母さんが好きなお酒の名前……ぐはああああ!」


 ベッドから転がり落ち、完全に目が覚める。


「おお、起きた起きた」

「あやうく永遠の眠りにつくとこだったぞ!」

「声かけても起きなかったのが悪いんでしょ。ってかにいちゃん、あたしのパンツ、ガン見してない?」

「してない。この姿勢だと自然に見えるだけだ。まごめの純白パンツなんてこれっぽっちも興味ないから安心しろ」

「なるほど。2発目をくらいたい、と」

「すみませんそれは勘弁してくださグハアアア!」


 高村家は今日も平和である。

 ここでこの凶暴かつ毎日起こしにきてくれるほど義兄想いの我が義妹の紹介でもしておこう。

 名前は高村まごめ。俺の父親とまごめの母親が再婚してもう3年ほどになるが、すっかり妹業(?)が板についてきている。

 それなんてエロゲ? とか言ってくるクラスメートたちは後をたたないが、そのたびにふざけんなという言葉を返している。実際大変なことが多いんだよ。

 まあまごめとその母親とは物心つく前からご近所づきあいをしてたから、色々慣れるのにそんなに時間かからなかったけど。


 そう。ここでお気づきかと思うが、まごめは俺の義妹であるとともに幼なじみでもあるのだ。忌むべき幼なじみ属性もちなのだ。う、何回も幼なじみとか言ってたら気持ち悪くなってきた。

 そんなまごめのトレードマークは肩ほどの長さの黒くてつやつやしたツインテールと、キラリと光る犬みたいな八重歯。小柄な身体に、つり目がちで多分に幼さを残した端正な顔。ご察しのとおり一部男子から絶大な人気をほこっている。

 なんて誰に向かって言ってるんだかわからない紹介をしつつ階段を降り、リビングへ。

 ちょうど母さんが朝食をテーブルに並べているところだった。普段は朝5時出勤、会社に泊まり込み上等な社畜な母さんがこの時間に家にいるなんて珍しい。


「2人ともおはよう。大きな音がしたけど、まごめあんた今日は港人みなとに何の技かけたの?」

「すくりゅーどらいばーだよ~」

「まだまだ鍛錬が足りないわねぇ。真のスクリュードライバーなら2階だけじゃなくこの家全体が揺れるはずよ。週末なんとか時間作れそうだから特訓ね」

「は~い」


 朝っぱらからなんて会話をしてるんだこの親子は。これ以上まごめに強くなられたら俺の身体がもたないんだが。


「港人、あんたも週末つきあいなさい」

「うん、それ絶対俺の身体がぼろぼろになるやつだよね。断固拒否します」

「はぁ、しょうがないわね。父さんに手伝ってもらうことにするわ」


 アーメン。さらば父さんよ。今のうちに祈りを捧げておこう。

 朝食をたいらげたあとは洗面所へ。

 今日も平々凡々な顔面が鏡にうつっている。

 高村くんの顔って形容しがたいよね。見方によってはイケメンに見えなくも……いや、やっぱり気のせいかな? どちらにせよ受け顔なのは変わらないから! とか言ってきた中3のとき同じ班だった木下さん(腐)の言葉を思いだし、なんとも言えない気持ちになる。

 気を取り直して顔を洗い、髪の毛をととのえる等みじたくをして玄関へ移る。

 まごめとともに家をでる準備をしながら、今まで気になったことを聞いてみた。


「まごめ、そのツインテールそろそろやめたらどうだ? 俺たちもうあと数ヶ月で高校2年生だぞ。さすがにイタい。その髪型が許されるのは小さい子か2次元だけだ」

「よけいなお世話なんですけど! にいちゃんこそそれ無造作ヘアーのつもり? ただの寝ぐせにしか見えないんだけど」

「なっ、はっ、おま、マジかそれ早く言えよ!」


 わりとショックだ。そもそも髪に気をつかえってうるさく言ってきたのはまごめなのに!


「だって面白かったんだもん。変な髪型だね~ってカナちゃんとも話してたよ」

「もうヤメテ!」

「さらに言うとチャック開いてるよ? 朝からその縞パンを外でさらけだすつもり? とんだ変態だね。それにこの前、縞パンは2次元だけしか許されないとか豪語してたよね。自分ではいちゃうってどうなのよ。まあ男モノだけど」

「まごめ、俺のライフは限りなく0に近い。それ以上は危険だ」


 なんて玄関口で騒いでたら、外から能天気そうな、のほほん声質を持つ人物がなにやらこちらに向かって話しかけてきていることに気づいた。


「2人ともはやく~。学校遅れちゃうよ~」


 それにいちはやく応えたのはまごめだ。


「あ、カナちゃんごめん、すぐ行くねー」


 俺はそそくさと社会の窓をクローズし、玄関にそなえつけてある鏡で今一度髪型をチェックする。その間にまごめはとっととドアを開けてでていってしまった。


「おはよ~まごちゃん。あれ、みーくんは?」

「おはよー。にいちゃんは縞パンさらけださないように身だしなみととのえ中ー」

「まごめええええ! その言い方には語弊がある!」


 弁解すべく俺もあわてて靴を履き、外に出る。

 ドアを開けたとたんに、突き刺すような朝日が目に入り込んできた。

 目が日の光に慣れてきたところで、まごめの横にいる人物の姿がはっきり見えてくる。

 無難なボブカット。少々間の抜けた穏やかそうな表情をしているが、よく見ると整った顔をしていることがわかる。スタイルはザ・平均といったところ。

 俺たちの家のとなりに住んでいる同級生、浮海彼方うかいかなただ。

 そのふわふわした雰囲気は老若男女問わず人を引きつけて離さない。その雰囲気通り、性格も基本的に温厚で世話好き。


「み、みーくん、朝からそういうのはちょっとどうかと思うよ……」


 顔を手で隠しながら(指の隙間からこちらの下半身をガン見しながら)そんなことを言う。


「違う、誤解だ! 縞模様ってだけでちゃんと男モノだし、単にチャック閉め忘れてただけで!」

「にいちゃんしかもあたしのスカートの中のぞいてきたんだよ!」

「まごめキサマアアアア!」

「みーくん、それはよくないよ! そんなに見たいなら、その、わたしのを」

「あ、ノーサンキューです」

「ええ~」


 なんだこの一連の会話の流れ。客観的に見てもヒドいぞ。当事者じゃなかったら普通にヒいてるよ。道行くおばちゃんたちも冷めた目で……いやあたたかい目だった。それもそれでなんかやだな。

 俺たちはなおもアホっぽい話をしながら、3人並んで通学路を歩く。

 いつも通りの風景だ。幼稚園のころから変わらない風景。


 察しのいいやつはもうわかると思う。そう、このカナという少女も幼なじみなのだ。家がお隣さんという、それはもう生粋の幼なじみ属性持ちだ。

 よくうらやましいと言われるが、ここまでくるともうお互い空気みたいなもんだ。道の角で美少女とぶつかって運命的な出会いをはたす、なんてこともできない。両側をがっちり固められているからな。

 そもそも俺は幼なじみ以前に3次元にそこまで興味はないのだ(空から降ってくる、道の角でぶつかる美少女などとのケースはのぞく)。そう、俺が恋するのは画面の向こうの、幼なじみ属性の子をさしおいて主人公と運命的な出会いをしちゃったりするメインヒロインの子だけだ。


「ねーねーカナちゃん昨日のドラマ見た?」

「見たよ~。まさかあの容疑者が刑事さんの幼なじみだったなんてね~」


 ……うん、気分が悪くなってきた。2人で盛り上がってるようだし先行ってるか。

 そそくさと2人から距離をとり、急ぎ足で進む。

 そこで予想外のことが起きた。T字路を曲がろうとしたところで、人とぶつかってしまったのだ。


「きゃあ!」

「うわっと」


 俺はなんとかふみとどまったが、むこうはしりもちをついてしまったようだ、って、おいおいマジか。

 その人は、女の子だった。しかも売れっ子アイドルと言われても信じちゃいそうなほどの美少女だった。おまけにうちの高校の制服を着ている。

 神様、ありがとう。こんな素晴らしい、まるでアニメや漫画みたいな出会いをプレゼントしてくれて。

 ここでカッコよく「大丈夫? ケガはないかい?」とか言って手をさしのべれば第一段階クリアだ。声が震えないよう気をつけて……。


「だいじょう」

「大丈夫? ケガはない? ごめんねこのバカ兄が迷惑かけちゃって。立てる?」

「あ、はい、大丈夫です」

「よかったよかった。気をつけてね」

「はい!」


 そして去っていく女の子。


「も~ドジなんだから。ケガさせたらどうするの」

「まごめええええ! よくも俺の出会いを! さっきのイベントからラブコメに発展する可能性がなくもなかったかもしれないのに!」

「にいちゃん何いってんの? アニメの見すぎじゃない? 現実見ようよ。もうすぐあたしたちも高2になるんだしさ」

「ぐぬぬ」


 小バカにしたような表情でそう言ってきた。まごめのやつ、家出る前に髪型について言及したことまだ根に持ってるな。何も言い返せない。

 しかしさっきのは惜しかった。さらば非日常。こんなこともう起こらないだろう。ああ、今度は空から女の子が降ってきたりしないかな。

 ガシッ!

 あかん。腕が。二の腕に万力で締めあげられているかのような感覚が唐突に!


「……みーくん、ダメでしょ? あんな女の子に色目つかおうとしちゃ。みーくんにはわたしとまごちゃんがいるじゃない。何が不満なの? 言ってみて」


 振り向いたらいけない。カナの、光を失いすべてを飲み込みそうな瞳をのぞきこんではいけない。


「フマンナドアリマセン。カナトマゴメハスバラシイジョセイデス。ソンナフタリノソバニイラレルジブンハシアワセモノデス」

「よろしい♪」


 危なかった。非常に危なかった。ちくしょう、まだ指先が震えてやがる。

 うかつだった。カナの目の前で女子と接触することは毒沼に自らつっこむことに等しい。

 おかしなことにこいつとは幼稚園のとこから今までほとんど同じクラスなのだ。違ったのは確か小学3年と中学2年のときだったかな。カナが俺の近くに女子をよせつけないせいで(まごめはのぞく)同学年の女子とまともに話したことはほぼ皆無。そのせいで2次元好きになったといっても過言ではない。

 それにしてもカナのこの握力は一体。部活は料理部だったはず。料理って意外と握力使うのかも。

 そこからは特に何もなく、無事登校することができた。

 いつもどおり3人そろって1年3組の教室に入る。

 ちなみに俺は4月生まれ、まごめは3月生まれのため、ほぼ1歳違いだが学年は同じ。

 俺はそそくさと荷物を置いて教室のすみへ。


「おはよう同志よ」

「おはよう港人。今日も美少女2人を連れて登校か。はぜろ」


 こいつの名前は山谷。このクラス唯一のオタ友である。角張ったメガネに長身痩躯のこの男がいる教室のすみこそ俺のオアシス。


「朝からごあいさつだな。違うって。やつらは美少女ではなく幼なじみ。俺の忌むべき幼なじみ属性持ちであって、さらに言うともうほぼ家族、空気みたいなものだ」

「いいじゃないか幼なじみ属性。どの物語においても重要ポストの1つだぞ」

「重要ではあるが必須ではない」

「まあそうだが。しかし僕が言いたいことはそういうことじゃない。昔から家が隣でずっと一緒にいる幼なじみと、義妹になって一緒に住んでいる幼なじみ。そんなものがリアルに存在してたまるか要するにうらやましいはぜろ」

「だから違うって。それより昨日の深夜アニメについてだ」

「そうだったそうだった。あの3話は衝撃的だったな」


 と、こんな感じで空き時間のほとんどは山谷と過ごしている。おかげでカナもまごめも近寄ってこないし俺は存分に趣味の話ができる。

 でもですね。

 昼休み。俺の机にがっちり連結されるカナとまごめの机。

 いつもすまん山谷。そんなうらめしそうな目でこっちを見ないでおくれ。

 これまで何回も昼ご飯は友達と食べたいと言ってきたのだが問答無用であの2人にはさみこまれてしまう。過去に1度4時間目が終わった瞬間ダッシュで逃げたことがあったが、あのときは悲惨だった。後ろから迫る修羅。思い出したくない。


 心の中で山谷に謝りつつ幼なじみーズと昼ご飯を食べる。

 今日は普通に俺もまごめも母さんの弁当だ。母さんの仕事が忙しいときはカナが作ってくれる。とは言っても母さんが忙しいのはほぼ年中なのでカナが作ってくれるときの方が圧倒的に多い。

 え、俺やまごめは料理できるのかって? できないこともないと言っておこう。

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