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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

スーパーパンツタイム!!

作者: 海蛇

 大変なことが起きてしまった。

私のパンツがない。

水泳の授業が終わり、戻ってきたらこれである。意味が解らない。

ブラジャーはある。だがパンツだけがない。


 他の子はどうなの? 私だけなの? と思いながら左右を見る。


「んー? どうしたんエリナちゃん? なんやエロい目つきやで?」

「どさくさに人の胸見るなよこのムッツリー」


 からかわれてしまった。どうやら私はエロい眼で見ていたらしい。そう思われたらしい。

哀しい。いっぱい悲しい。


「二人とも、パンツある?」

「はぁ? 何言ぅとるん? パンツなんて――」

「お前なーいくらあたしがうっかり屋だからってパンツまでは忘れ――」

二人、けらけらと笑いながらロッカーを見やり……青ざめた顔でこちらを見る。

「のうなってもた……」

「やべぇぞパンツがいなくなった」

大事件発生の瞬間だった。


 その後騒ぎが大きくなって解ったのだけれど、クラス丸々一つ分。約三十枚のパンツが行方知れずとなったらしい。

確かに水泳の授業中、ロッカールームは無防備だったのだろうけれど……あまりの出来事に驚きを禁じえない。

後から来て事態を察知した体育教師の青木先生は念のため、と自分のパンツも確認していたが、先生のパンツだけは無事だった。

紐のちょっと大胆な奴。先生が悔しげな顔をしていたのを忘れない。



「しかしちょっと怖いな。全員分のパンツが一度になくなるなんて。やっぱ変質者の仕業なのかねー?」

「あー、なんかスカートの中がスースーするわぁ……」

結局、全員ノーパンのまま放課後まで過ごす事に。今は教室。

休み時間だけれど、やっぱり無くなったパンツの話で持ちきりだった。

女子校だからそこまで恥ずかしくも無いけれど、かなりアブノーマルな状態に陥っている気がする。

「でも、顔も見ずにパンツだけ盗んで何が楽しいんだろうね……」

つくづく意味が解らない。

そりゃ盗んだのが男ならパンツを使って色々やるのかもしれないけど、今一その辺り想像が働かないのもある。

美人のパンツとかならまだしも、クラス全員となると当然当たり外れがあるのだ。

女の子のパンツなら何でもOKとかの超絶雑食な人でもなければ地雷を掴むようなものなのでは、と思ってしまう。


「やっぱあれか? パンツに埋もれて死にたいとかそういう願望持ってる変質者なんじゃ」

「パンツやないと欲情できない変態さんかもしれんでー? 女の子やのうて女の子の履いたパンツやないとダメなん」

あまりにも難易度が高すぎる。せめて彼氏いない暦=年齢の私にも理解できる程度に納まって欲しい。

「……なんか、犯人解っても顔は知りたくないなあ」

万一にでも顔を知る機会があったとしても、それは他の人にプレゼントしてあげたい。

「変質者の顔なんて見たくないよなあ。どうせ脂ぎったおっさんなんだろうけどさー」

「ごっつい顔してるかもしれんでー? こう、一度見たら忘れられんようなものごっつクドイ顔なん!」

二人のイメージする変質者像も中々にすごそうで、できれば見たくない。

「でも、もし変質者がすごい可愛い女の子だったらどうする?」

そんな流れだったので、逆にその顔が可愛い子ならどうするのかな、なんて気になってしまった。聞いてしまった。

「弱み使ってお持ち帰りだな」

「その場で襲ってしまうかもしれんなあ」

おのれガチレズども。


「大体可愛い女の子っつったって、パンツ盗んで何やってるんだよ?」

「女の子同士でパンツ盗んでスーハーするん? それとも、ネットで売りさばいたりとか?」

更に逆襲されてしまう。そんな事聞かれても困るのに。

「え、えーっと……普段いじめられてる可愛い女の子が、いじめてくるクラスメイトに逆襲しようと……?」

思いつきで物語をぶち上げてみる。

「マジかよ私らいじめっ子だったのか。確かに攻めだけどさあ」

「確かに可愛い女の子ならいじめたいかもしれんなあ。ベッドの中で」

おのれドSども。


「でも、可愛い女の子なら確かにいるよな。石井さんとか」

「石井さん可愛(かわえ)ぇよなあ。小柄でお人形さんみたいで。髪もキラッキラやし」

何故かこの方向で話が続いてしまう。もうパンツのことなんてどうでもいいらしい。

「石井さんのパンツなら欲しがる奴がいても不思議じゃないな」

「石井さんのパンツなら高く売れるやろなあ」

そうかと思えばパンツの話に戻る。流れが速すぎてついていくのがしんどかった。

「でもなんでパンツなんだろうなー? ブラじゃダメなのか?」

「パンツやないと許せない何かがあるんとちゃうのん? それも女子高生の」

嫌過ぎるこだわりだった。

「どんな犯人なんだろうね……」

「うーん……やっぱ、校内の誰かの仕業って考えるのが妥当じゃね?」

「ウチもそう思うわー。学校の外からやとカメラ映ってまうし、あんま旨みなさそやしー」

三人、腕を組んでうんうん考える。

「……スースーするね」

「スースーするな」

「さっきからスースーやわ……」

結論、出ない。三人集まっても私達は文殊のようにはなれないらしい。



 放課後。事件は更に拡大した。

なんと、全校生徒のパンツがなくなったのだ。意味が解らない。

元々パンツがなくなっていた私達はまったく気付かなかったのだけれど、五時限目が終わる直前、生徒達が履いているパンツが突然消え去ったのだという。

つまり『変質者によってパンツを盗まれる事件』だと思っていたのが『謎の力によってパンツが消え去る事件』になってしまった。

しかも全校で同期的に。そしてやっぱり、先生方のパンツは無事だったらしい。

流石にこの事態を学校も重く見たのか、放課後になる頃には警察の車が校内に入ってきて、近隣の住民まで顔を出してくる始末。

私やなんかは家が近いからいいけど、流石にノーパンで電車やバスに乗ったら痴漢大歓喜になること請け合いなので、先生方が近くのコンビニやスーパーに全校生徒分のパンツを買いに走っている。

とんでもないことになってしまった。埼玉の片田舎の女子校で起きた世にも珍しいパンツ消失事件。

警察の人たちの指示により、私達は今、校内に待機させられている。


「はー、参っちゃったね」

「困っちゃったな」

「まさか全校生徒分なくなるなんて思いもしーひんかったわぁ」

どうしたもんだか、と、三人、食堂でのんびりくつろいでいた。

スカートの中がスースーするのにもいい加減慣れてきた。

慣れるとこれはこれで、椅子のひんやりとした感覚が直に伝わってきて気持ち良いかもしれない。

……などと思いながら、なんとなしにニュースに眼を向ける。


『大変な事態になりました。本日十一時ごろ、都内で突然、複数の少女の下着が消え去る事件が発生しましたが、警察当局の調べにより、高等学校などで同じ被害にあった件数が二百五十件にも上るとの報告が上がっており、全国的にも同様の被害が出ているとの話が各市町村教育委員会からの――』


「……」

「……」

「……」

三人、沈黙してしまう。

「なんか、一気にスケール上がったね」

「全国レベルの下着ドロか……レベル高ぇな」

「どんだけパンツ好きなんやろなあ……」

もう三人とも呆れて苦笑いしかできない。いくらなんでもそれはないだろ、と。

「きっと女子高生の下着集めるのに命がけで魔法使っちゃうんだぜ」

「女子高生のパンツの為に世界すら敵に回してしまうんやな。ある意味主人公気質やでー」

だけどそんな主人公見たくなかった。

「このままこの調子で世界中からパンツがなくなったらどうなるのかな……?」

なんとなく、今のままならその内本当にそうなるんじゃ? 実は話題になってないだけで既にそうなってるんじゃ? なんて、変な方向で期待してしまう。

「そりゃお前、ノーパンがブームになるんじゃね?」

「案外気持ちええもんなあ、スースーしてて落ち着かんかったけど今はかえってこの方がええわぁ」

よかった、仲間が二人も居た。私だけが変態になった訳じゃなかった。


「でも、どうやって全国レベルで一斉にパンツ盗んでるのかな……いや、消え去ったって言うから盗んでるのかも解らないけど」

疑問は増えていくばかりだけれど、解決の糸口は全くつかめそうにない。

でも話題にはなるので構わず口には出していくスタイル。

「実は全国各地に女子高生のパンツを盗む事を目的として設立された悪の組織がだな……」

悪の組織レベル高過ぎる……

「異世界から召喚された勇者が世界を救う見返りに女子高生のパンツを求めたとかそういうんとちゃうん?」

異世界の勇者様ロクでもない過ぎる……

「いっそ悪の組織のボスが異世界の勇者ってことにしよう」

「パンツ欲しさに闇に落ちてしまったんやな。前作主人公の見とうなかったその後の姿やわぁ」

パンツを欲する勇者自体が見たくない姿な気がする。

勿論闇に落ちた後も見たくないけれど。

「おのれ大魔王エリナ! ()の勇者を堕落させるとは、許せん!」

「エリナちゃんがパンツドロの黒幕やったかー」

何故か私が黒幕扱いされていた! 大魔王って!?

「……二人とも楽しそうだねえ」

「えー、そんな事ないぜ?」

「せやで? そろそろネタが尽きてきてん。エリナちゃんも色々語ってええんよ?」

流石にそろそろ話が続かなくなってきて、苦肉の策だったらしい。

そんなになるまでこんな話題続けなくても良いのに、とは思うけれど、気になる事は気になるのでスルーできない私もいる。

「コホン。それじゃ、私が一つ、パンツにまつわるおもしろい小話を――」


『緊急速報です! 埼玉県警の警察官が先ほど、ダンプカーでパンツを大量に運んでいた怪しげな男に職務質問し、男がこれに答えず逃げ出した為、緊急逮捕しました』


――私の最高に面白い小話はこの瞬間、なかったことになった。埼玉県警優秀すぎる。


『取調べの結果、この男は付近に住む無職・石井タカシ(25歳)と判明、「異世界にきたものの倒すべき魔王が居らず、世間の世知辛さに負け、ついパンツに埋もれて死にたくなってやってしまった」などと供述し、犯行を認めた模様』


「意味わかんないね」

「意味わからねぇな」

「変態さんの考えることは解らんわぁ」


『その他、自らを「異世界からきた元勇者で現在は悪の組織の幹部」「近くの女子校に幼少時に生き別れた妹がいる」「パンツはこの世界に来た時に貰ったチートを使って集めた」などと供述しており、事実関係の確認を急いで――』


「こんなお兄さん持って大変だね……」

「どこの石井さんか知らんがかわいそうだな」

「よりにもよって生き別れた(あん)ちゃんが下着ドロやなんてなあ……」

多分この瞬間、この事件の犯人の妹は誰よりも同情された石井さんになったに違いない。

全国レベルで同情されるはず。笑いモノにされるかもしれないけれど。


「……うん?」

「石井さん?」

「埼玉って……近くの女子校て……」



 まさか!? という声が食堂に響いたのは、ほんの数秒後だった。

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