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狐と密  作者: 七夜アキ
第1章 独りと1人
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陽和と大和

 千尋のおかげで陽和はるのに茶道を学ぶことになった。しかし、それは地獄の始まりだった。


 陽和は怒っていない。怒っていないのだ。


 だが、その胡散臭うさんくさく、ドス黒いオーラを充満させた笑顔がとてつもなく怖い。


「茶道にも流派があり、本家である表千家おもてせんけ。そして、分家である武者小路千家むしゃこうじせんけ裏千家うらせんけに分かれています。あわせて三千家さんせんけと言いますが、これは常識なので流石に貴方でも分かりますよね」


 何故、最後が疑問系でないのか。


 ひそかに茶道の知識など無かった。


(表千家?裏千家?武者姫路千家?……茶道は茶道なんだからまとめちゃえば楽なのに。昔の人って理解できない)


「今回は表千家の作法に従って、教えますので頭に叩き込んでください」


 ニコッと笑っているが、もう恐怖でしかない。


 この人、実は人喰ひとくい鬼なのではないか。そう錯覚してしまう程だった。






 密にとっての地獄の時間が始まってから数時間後。


 密が待ち望んでいた相手……大和が帰ってきた。


「大和さぁぁぁん!」


 そう言って部屋を飛び出し、月光と話しながら歩いていた大和に飛びつく。


 突然の事で「おっ、と…」と驚きながらも、大和はしっかりと密を受け止めてくれた。


「大和さん助けてください」


「大和は忙しいんです。また今度にしてください」


「月光は関係ない」


 バチバチと火花を散らして睨み合っている密と月光を見て「仲良いなー」と言うと


「どこが!?」

「どこがですか!?」


 と、見事にハモった。


「ははっ、やっぱり仲良いじゃないか」


「……そんな事より大和さん、合気道教えてください」


「お、やる気があるな〜。いいぞー、今からやるか?」


 ニヤリ、と笑いながら関節をポキポキ鳴らす。大和には関節を鳴らす癖があった。


「はい!」と密がそう言おうとした、まさにその時


「密?まさか私の授業を投げ出すような真似はしませんよね?」


 ニコリ。と貼り付けたような黒い笑みの陽和が部屋から出てきた。


「ありゃりゃ、陽和に何か教えてもらってたのか?じゃあ、そっちを優先させなきゃな〜」


「え!?」


 大和なら庇ってくれる、そう信じていたのにいとも簡単に裏切られてしまった。


 裏切られてしまった、と言っても密が勝手にそう思い込んでいただけなのだが。


 だが、思い込んでいただけに受けたダメージが大きい。


「じゃあな、密。姉さんの授業、頑張って受けるんだぞー」


「はーい…………って姉さん!?」


 確かに大和はさっき陽和の事を姉さんと呼んだ。


 まさか、とは思うがこの2人は……


「ん?言ってなかったっけ?俺と陽和は兄弟だぞ。確か………700歳差ぐらいだよな」


 聞いていない。


 ついでに言うと、大和は狼の妖。陽和は狸だった。


「正しくは762年、ね」


「ま、細かいことは気にするな」


 千尋から「人間界の何処かの国には一家につき子どもは1人まで。2人目からは何の援助も無し。と言う政策があったらしいが妖界にそんなものはない。つまり、妖にも兄弟はいるぞ」と聞いていた。


 まさか容姿が異なる兄弟がいるとは聞いていなかったが。


 すると、密の心情を察したのか大和が


「あー、俺たち似てないだろ?よく言われるんだよな。性格も全然違うし」


 と笑いながら教えてくれた。


「妖力でいえば俺の方が強いんだけど、姉さんに勝てた事なんて一度も無いんだわ。姉さんから来る圧力がな〜…」


 大和と陽和は、あははと笑いあっているが陽和の目が笑っていない。


「大和?後で私の部屋にいらっしゃい?」


 そこでようやく大和も気づく。


「ま、待てよ姉さん。ごめん、ごめんって!」


 顔から血の気が引いた大和を無視し、


「密、『多血種たけつしゅ』の事は千尋様から習ったかしら?」


と聞いてくる。


 末恐ろしい妖だと心の中で息を吐く。


「多血種、ですか?」


「えぇ。私と大和みたいに兄弟だけどらそれぞれが違うモノの姿をかたどった妖の事を指すの。厳密に言うと、違う種族の親から生まれた子のことね。多血種は親の階級が上級なら上級。下級なら下級、となるから違う種族の間に産まれた子ということ以外は他の妖と同じよ」


「なるほど。じゃあ、陽和さんと大和さんのご両親は上級妖怪って事ですね」


「えぇ」


 ニコリ、と本物か作ったものなのかわららない笑みで陽和は密を褒めた。


「あら?そう言えば大和は?」


「さっき、向こうの方に走って行ってましたよ」


 密が門の方を指すと


「あら、あの子ったら私から逃げたのね。覚悟は出来ているんでしょうね」


 と、さっきから全く変わっていない表情で陽和は言った。


「さあ、茶道の続きを始めましょうか」


「え、え、え、まだやるんですかー!?」


 密の叫びも虚しく、この後5時間にわたって猛特訓は続いた。






































 気がつくと、月光の姿は見えなくなっていた。



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