俺様野郎
ここは……?
私は病院に居たのでは無いのか。
何故こんな所に独りで居るのか。
ここは何処なのか。
知らない土地で独りになるのは今の私にとって恐怖でしかなかった。
知らない土地だからこそ感じてしまう恐怖。
この森は何処まで続いているのだろう。果てしなく続いているのではないか、と思ってしまう。
「と、とにかく飲み水を探さないと……」
暫く歩くと、見えてきたのは川や池ではなく家だった。それも、お城のような大きくて立派な和風の木造建築の家だった。
「あ…、人影が見える。よかった…!」
しかし近づいてみると人だと思っていたモノは奇妙なこの世のモノとは思えない外見をしている。
(えっ…!ウソウソウソウソ、彼奴らに見つかったらどうすんのコレ…!)
「誰だ!そこに居るのは!」
(思ったそばから見つかった…!ヤバイっ…!…………あれ?)
此方に近づいて来ていたはずの『彼奴ら』は突然姿を消した。
それと同時に命の危険から逃れた安心と、自分の周りに誰も居なくなったと言う不安、恐怖に襲われる。
泣くな。泣くな、私。
大丈夫、大丈夫だから。
必死で自分にそう、言い聞かせてみるが全く効果なし。
涙がどんどん目に溜まっていき、もう溢れそう………と言うところだったが
「お前、まさか………っ!」
という声で一気に引っ込んでしまった。
逃げようにも足が動かない。
さっきの奴らの声だ。今度こそ殺られる。
そう、覚悟した時に『彼』は現れた。
「月光、うるさい。俺の昼寝の邪魔をするな」
彼への第一印象は「誰だ、この俺様野郎は」だった。
「ち、千尋様…!またこんな場所で寝てたのですか!陽和に叱られますよ!?」
「知るかよ。俺はこの場所が好きなんだから」
「はぁ… 千尋様はもう少し他の始祖様を見習うべきだと思います。特に志摩様を」
「志摩ぁ?彼奴はいちいち面倒くさいんだよ。おい、そこの『元』人間。お前、そこで何をしている?」
話の内容から、俺様野郎が千尋。門番が月光だと理解し、何やら言い合っているうちに逃げようと思っていたのに千尋に声をかけられてしまった。
それに私は元人間じゃない。現在進行形で人間だと思っているのだが。人間外になった覚えはないのだが。
「私は人間です。『元』じゃありません。あなた達こそ何なんですか。月光とか言うヤツに限っては兎じゃないですか。兎の擬人化ですか?童顔で可愛いなこの野郎。そこの俺様野郎、一言いいですか。貴方が俺様野郎なのは人の勝手なので構いませんが、そんな狐のコスプレしてたら格好悪いですよ」
おお、一息で言ってしまった。自分スゲェ!
なんて、思っていると月光がワナワナと震えだした。
「貴様…っ!私のことならまだ許せるが千尋様に向かって何を言っている!貴様の命はもう無いと思え」
「え、月光。貴方が私を殺すの?出来るの?大丈夫?手伝いましょうか?」
見た目が可愛すぎて笑いがこみ上げてきてしまう。
笑える状況ではないのに。
すると、質問してきたくせに今まで黙っていた千尋が頷いた。
「ふむ。お前、名は何という?」
「私の名前…?」
名前。私の名前。……………………あれ、思い出せない。自分の名前なのに。それに頭が痛くなってきた。
さっきまでギャーギャー言ってたのになんで…?………あ。またコレだ。意識が遠のいていく。
ああ、また独りになるのかな。
それとも元の世界に戻れるのかな。
………………………………助けて。
誰か、誰か助けて。お願い……………