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 酷い目にあいました。

 婚約が解消された余波がこんなにも早く出てくるなんて……。

 侍女たちの優しい笑顔がとても黒く感じたのは後にも先にもあれだけにしてほしいです。


 旦那様になる方の国に行っても戸惑わないようにと、私がいる宮では使用人の方々にはメイド服を着用していただいていますし、御母様は私に合わせて肌の露出が少ない服を着てくれていましたから忘れそうになりますがこの国の衣裳は際どい物が好まれるのですよね。

 この国を支えて下さる大臣方の御嬢様方の御衣裳も色とりどりの可愛らしい物など多岐にわたりますし、それに比べ私の服は体を隠す仕様……。

 いつもそんなに我慢させていたのでしょうか?

 でもそれにしたって婚約破棄した途端際どすぎる服を進めないでほしいです。

 慣れてる慣れてない以前に恥ずかしくて袖なんて通せません!!


 やんわりとそれでも自分にしてはきっぱりとお断りをしたら今まで着ていた物を着れましたが、部屋を移動する途中も御父様たちがいる御部屋に入った時の皆の反応も残念そうだったのは、それこそ気のせいですよね?!


「ア~ル? どうした? ぼんやりしてどっか痛いの?」

「え? いいえ、大丈夫ですわ一姉様。少し考え事をしていただけです」


 起きた後からこの部屋に来るまでの短い時間で起こったやり取りに意識を向けてしまっていたら、私を抱きしめていた御姉様が心配そうに顔を覗き込んできたので慌てて不定をしました。


 私が倒れたことを知った家族たちはすぐ招集されたようで珍しく全員が奥の宮へと集まり話し合いをしていました。

 

 この国の王である御父様に正妃で在らせられる御母様。

 その子である私と同母の一の姉様と二の兄様、四の兄様。

 そして側妃で在らせられる一の母様にその御子である異母兄の一の兄様に異母姉の二の姉様。

 そして同じく側妃である二の母様とその御子である三の兄様と年子の異母弟。

 同じく側妃の三の母様にその御子である五の兄様と六の兄様。


 私を抜いた総勢十四人が一部屋に集まって意見を飛び交わせていました。

 それに各各に付き従う使用人たちが世話をしているので部屋の人口密度はとても多いです。

 部屋に入った時一斉に見られたのも驚きましたがその視線が残念そうだったのは気のせいだとしておきます。


 部屋の奥に座っていた一の姉様にいち早く捕獲をされ膝の上に座らされたのですが背中に感じる二つの柔らかさに少しだけ自分と比べてしまい落ち込んでしまいました。 


 皆様思い思いに絨毯の上に敷き詰められたクッションなどを使い体を休めていますが、にこやかに話し合いがされているのに目がちっとも笑っていないのでとても怖いですし一体どんな話し合いになっていたのでしょう?

 今から聞くのが少し怖いのですが……。


「アル、体は大丈夫なのか?」

「はい御父様。ゆっくり休めたので今は何の問題もございません。御心配お掛けしました。それに皆様にもご心配をおかけしてしまい申し訳ございませんでした」

 

 一の姉様がお腹の前に腕を回しがっちりと掴んでいるため不作法だと思いながらもその姿勢のまま頭を下げます。

 御母様方も御兄様方も御姉様方も皆様いつものようににっこり笑って下さったので安心していただけたのでしょうか?

 心配をお掛けするのは本意ではないので安心していただけると嬉しいのですが……。


「アル。君がくるまでファーミルへの対応を話してたんだけどアルはどうしたい? 僕のお勧めは国ごと潰すことなんだけど、アルもそう思うよね?」

「ぃえ、それはちょっと、その過激ではないかと……」


 クッションを抱きしめてうつ伏せで寝転び、こちらを見ながら六の兄様がにこにこ笑って尋ねてきますがまったく私は笑えません御兄様。

 何で虫も殺せないような人畜無害な顔してそんな過激な事を提案してくるのですか。

 目が笑っていないところが本気で怖いです。


「今回は向こうが勝手に反故にしようとしているから今ならどんな無理難題でも吹っかけれるよ? アルはどうしたい?」


 侍女にお酒を注いでもらいながら二の御兄様が尋ねてこられますが、二の御兄様の侍女の方はとても扇情的な御衣裳を纏われていますので半身が何も纏っていない御兄様と一緒ですと見てはいけないものを見ている気になってしまうので目のやり場に困ってしまいます。


 他の御兄様方も似たり寄ったりの御衣裳なのですが二の御兄様は、その、何といいますか一番女性の扱いに長けていらっしゃるというかナンパといいますか……。

 まあそんな感じなので一番背徳的に見えてしまうのは仕方ないことだと思うのです。


「婚約破棄は悲しいことですが、私も少し考えてはみたのです。自分がどうしたいのかと。けれど特にこれといって何かをしてほしいとは思いませんでした。今回のことで両国に不和が少しは生まれてしまうのは致し方ないのかもしれないのも承知しておりますが出来ることなら事を荒立てたいと思えないのです」


 今までの性格もありますが、過去世を思い出したことで争い事は出来ることなら全力回避したいのが本音です。

 勿論国の威信などもあることは理解してますが自分が発端で戦争になるなんて冗談じゃありません。

 それこそ全力回避です!!


「それに私、婚約破棄の御話を聞いてすぐ倒れてしまいましたのでその理由も賠償のことも何一つ御話を御伺いしていませんのでまずは何故婚約破棄になってしまったのかを御伺いしたいのです。それでは駄目でしょうか二の御兄様?」

「……駄目じゃないよアル。そうだね状況判断は大事だね」


 私が感情のままファーミル国の事を悪く言えば一も二もなく報復行動に出ていたのでしょう。

 目を合わせたまま見つめ合い納得してもらうために視線を反らさずにいると二の御兄様は一度深いため息をついてそれだけを言うと盃のお酒を煽ってそっぽを向いてしまいました。

 少し唇を尖らせて拗ねた雰囲気を醸し出している姿は大人の男の方に言うには可笑しいかもしれませんが我が兄ながらとても可愛らしいです。

 

「そうだね、まず何故婚約破棄なんて馬鹿な事を言い出したのかっていう理由だけどさっきも言った通り簡単に言うと君の婚約者だった第一王子に好いた者ができたからっていうのが大きいかな」 


 倒れる前にも聞いた事実に胸の奥がどこか疼いた気がするけどそれに蓋をして不思議に思っていた疑問を口にしました。


「ですがその理由だけでは弱いですよね? 三の御兄様。あちらの御国もあまり推奨はしていないとはいえ王であれば子を残すため後宮に側妃を持つことは許されてるはずです。私が嫁いだ後好いた者を第二夫人としてお迎えすればよろしいのではないでしょうか? それとも私の勉強不足で側妃をお迎えすることは出来なくなっていたのでしょうか?」 


 不思議なものですが小さな頃から旦那様だけに嫁ぐのだと言い聞かされてきたとはいえ御母様が何人もいる私には旦那様が妻を何人も迎えようとも当たり前として受け止める気でいました。

 勿論あまりにも性格が破たんしている方でしたら難しいとは思いますが、それでも妻同士でも仲良くなれる努力はするつもりだったのです。


 なのに好いた方が出来たからという婚約破棄。

 まったく意味が分かりません。

 過去世を思い出す前は婚約破棄という事実だけ聞いて絶望してしまいましたがそれだけで国同士の約束事を破棄する理由にはならない筈です。


「いいや、アルの知識は間違ってないよ? 今もあの国には後宮があるし第一王子自身彼方の国の正妃様ではなく側妃様から生まれてるんだから」

「でしたら何故……?」

「何でも『好きでもない人と結婚するなんて可笑しい』で『結婚は本当に好きな者同士が一対一でするもの』らしいよ?」

「……ぇえっと? それは一体どういう?」


 この国の宰相である二の御母様の御父様のもとで学び始めている三の御兄様は滅多な事では御怒りを面に表しませんのに言われた言葉にはどこか毒が含まれていそうなくらい刺々しさが感じられるのですけれど……。

 彼の国は一体どんな理由をつけて断ってきたのですか?!


「元婚約者殿が好いた女性が言った言葉だよ」

「何でもその女性は平民の中で育った先代侯爵の御落胤らしいのに笑ってしまいますわよね? アルもそう思うでしょう?」 


 三の御兄様の言葉の後に鈴が転がるような声音を地で行く二の御姉様がおっとりと仰りますが今日の御兄様も御姉様、皆様言葉に棘がありすぎて全然笑えません!!


 過去世の記憶が戻ったことで今まで同じような言動をされても言葉のまま捉えていてまったく裏に含まれる棘に気が付かなかったですのに何で気が付いてしまうのでしょう?!


 今まで笑って御話されていたらそのまま良い意味で捉えていたことを痛感しました。

 家の御兄様も御姉様も何でこんなに黒いんですか?!

 陽気な御国柄の血はどこに行ってしまわれたのですか!!


 私に説明してくださる御兄様と御姉様以外の皆様が周りで各々話し合いをされているのはいいのですが何で国を責めるだとか商取引の全面禁止だとかっていう御話になるのですか?!

 どうかもっと穏便にお願いします!


「それにその女性自身元婚約者殿以外にも粉をかけているのか有力貴族である上位貴族の嫡子たちにも求婚を今もされているそうで、反応もきっぱりと断ることなくのらりくらりとかわしているみたいだよ?」

「……まぁ。それは何といえば」


 三の兄様の言葉にある言葉が浮かんできて言葉に詰まってしまいました。

 乙女ゲーム・転生・逆ハーレム

 軽く記憶を掘り起こしただけでこんな単語が浮かんできました。

 これは何でしょう?

 

 深く考えるとこれも過去世の記憶の一部だと分かります。

 あまり記憶に引っかからないのでこれは話として聞いていたのでしょうか?

 小さな女の子が楽しそうに話してくださっている記憶がありますね。

 詳しくはないですが乙女ゲームと呼ばれる物の展開の一つにそんな設定があると聞いた記憶が薄らとありますし……、似たようなことが起こっているのでしょうか。 


「家の国と違って結婚概念が一対一でっていう国だから言いたいことは分かるけど、やってることは矛盾してるじゃない? たった一人って言うなら自分だってはっきりさせないのは相手に誠実じゃないでしょ~?」


 私を抱き込んだ一の姉様がつまらなさそうに三の兄様にそう聞くと他の御兄様や御姉様も深く頷いています。

 

「そこら辺はどう思っているのは分からないけど彼方にいってる大使の話では学園で出会った少女に面白いほど上位貴族かつ顔のいい者たちだけと中を深めていって最終的に元婚約者殿と恋仲になったようだよ。まあ元婚約者殿と付き合いだしてもそれまでと同じようにその女性を中心にして行動しているらしい」

「でもよくあっちの王族は許してるよね? その人に惚れたなんだの問題で学園内も荒れたはずなのに何にも対処しないどころか婚約破棄まで言い出すなんて、可笑しいよね?」


 今まで六の兄様の横でお菓子を黙々と食べていた五の兄様が口を開きました。

 でも五の兄様の言っていることも確かです。

 まだまだ過去世のようにすべての子供が学べる世界ではなく学園といえば国が少なからず関わってきます。

 特に貴族が通うような学園であれば国が口を挿むのは必須。

 交換留学しとして招かれている他国の生徒などもいるので下手なことがあってはいけないし、留学している生徒に万が一のことがあれば国際問題に発展する可能性だってあります。


「それなんだけど、大使からの報告や密偵の報告をどう組み合わせても大使たちが言っている魅了の力が働いてるんじゃないかって結論になるんだよ」

「ですがそうは言っても学園だけでなく王宮の者も魅了するなど無理な話ではないのでしょうか? それに魅了だというのなら反発される事はないはずですし、大使はそこまで関わることがないので魅了の力に掛からなかったことは納得できても密偵は学園に潜んでいる者もいるはずです。その者たちや留学している者たちは何の問題もなかったのでしょうか?」


 今の大使は私の侍女の一人の御両親だったと記憶していたので不安が広がります。

 もしもよく分からない魅了の力なんてもので大事な人が悲しむようなことがあると考えるだけで胸が締め付けられます。


「その点は消去の魔道具を携帯しているから問題ない」


 今まで私たち兄弟の話に口を挿むことなく聞いていた御父様の発言に驚きますが、御父様がそう仰るのであれば問題はないのだと安心しました。

 周りの人の泣く姿など私は見たくないですからよかったです。


「アル。私たちは貴方が幸せになってくれることを願っています。勿論国同士の問題もあるし聡く優しい貴方は民の事を一番に考えてしまうでしょう。それが間違っているとは国を担う王族としての観点からは言いませんが家族としてである私たちは貴方の気持ちを尊重したいとも思っているのです」

「御母様……」


 いつになく私を気付かった母の声に胸の中がほっこりと温かくなります。

 ああ、やはり家族っていいものですよ……


「それに私の娘たるものそんなよく分からない人間にいいようにされてその儘などありません!! ええ、ありませんとも!!」

「……御母様?」

「幼き頃より決められたこの婚姻は彼方からの願いを多分に受け成されたもの。それを一時の気の迷いでご破算です? 馬鹿言うんじゃないわよ!! アルが断るならいざ知らずあの暗愚は何様だというのです!! 彼方の国の神も祝福を与えた正式な婚姻、言ってしまえば神に定められた時点であの暗愚はアルの物!! 我が国の女が勝負もせぬまま一方的に婚約破棄などあっていいはずないですわ!!」

「お、お、御母様……?」


 家族の温かさに胸打たれていたらヒートアップしだした御母様の発言が何やら怪しいものへと変化をとげていないですか?

 お、御父様? 御母様の横にいらっしゃるのですから御止めに、って何で私から視線を逸らせるのですか?!


「恋とは常に戦いなのですアル!! 旦那様に好いた方が出来て迎え入れるというのならば祝福し共に旦那様を支える。そんな方であればいわば戦友であり愛すべき家族になるのです。全力で庇護し守るべき存在ですが旦那様を支えることなく己から掻っ攫っていくというのであればそれは敵です!! 慈しむ必要もないただの泥棒です!! そんな泥棒に現を抜かす婚約者殿にも御灸を据えねばなりませんが諸悪の根源たる泥棒に誰に喧嘩を吹っかけたのか知らしめておやりなさい!!」

「お、御母様?!」


 どんどんと熱くなっていく御母様は今では立ち上がり演説を始めてしまいました。

 御父様は当てにならないので誰でもいいからそんな御母様を止めてくれないかと周りを見まわしました。

 ですが、何故他の御母様方はうっとりと御母様を見てるのですか?!

 それに御兄様も御姉様方も拍手していないで止めてください!!


「何でもその娘、報告に上がった話ではその学園で今も好き放題やっているみたいだからちょっと行って売られた喧嘩を買ってきなさい!!」

「……ぇええ~?!」


 私の事を心配していたはずですのに何でそんな事になるんですか御母様?!

 御兄様も御姉様方もどうしてそこで拍手喝さいしてるのですか?!

 お手伝いの皆様もどうしてそこで涙ぐんで共感されてらっしゃるのですか!!?

 



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