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 貴方は聖国である御国へ嫁ぐのですよ。

 彼の国は我が国とは違い一夫一妻の御国柄。旦那様だけに愛を捧げなさい。

 女の大事なものは旦那様になる方だけのものと心得なさい。


 小さな頃からずっとそう言われて育てられてきた。

 物心ついた時には言われていた言葉。

 そんな教育は乳母の話では赤子の頃からだというのだから筋金入りといってもいい。

 その言葉通り私は王宮の奥の奥、女性しか入ることのできない先代王妃の宮で育てられた。

 私が会える男性といえば父や同母の兄弟、それと乳母や使用人の子供達だけ。

 それも、私と同じ歳か下の子達しか会うこともできない、まさに『箱入り娘』そのままの人生を生まれて十五年送ってきた。

 だからこそ私の論理感はこの国ではとても珍しいものとして育つことになった。


 私の生まれた地は深い森と岩が目立つだけで他に何もない砂漠が周りを囲んでいる『シャルバシー』

 三大大陸の一つキリバス大陸の中で一番歴史が古く一度は衰退した時代があったと言われてはいる『シャルバン』国の首都が私の生まれ育った場所。

 お爺様がこの地を治める時代、商売で国を再び盛り立てたことで今では商業国家としての地位が確立されている国。

 それが私の愛する祖国。

 他の国からは天然の要塞都市とも呼ばれているほど他国からの侵略は難しい地形で、だからこそ危うい時代も乗り越えられたとも言います。

 陽気で大らかな性格の方が多く、情熱な国民性だと評されているようです。

 しかし他国からの干渉は少なくともまったく皆無なわけでもなく、それに加え森の中や砂漠に生息する魔生物たちが闊歩する危険地帯。

 だからなのかこの国は他国から見ると珍しいと言われる一妻多夫や一夫多妻、多夫多妻が当たり前とした文化が根付いていったと聞きます。

 今よりも防衛が行き届いていなかった時代、そうしなければ生き残ることもできなかったほど御先祖様たちの人数が減ってしまったこと。

 身を守るため、命を未来に繋ぐため。

 どんな気持ちだったのか。

 私には想像することしかできません。

 

 そんな国に生まれながら他国に嫁ぐことが生まれる前から決まっていた私は歪といっても過言ではない育てられ方をして本当の『箱入り娘』として育てられました。

 他国に行く事が決まっている姫とはいってもこの国の歴史をまったく知らないなんて事は言語道断。

 決められた場所しか行くことができない代わりにと私は沢山の知識を学びました。

 この国の今まで辿ってきた歴史も旦那様の御国『聖国ファーミル』の歴史も全てを諳んじれるほどには学ぶ時間があったから。

 礼儀作法もマナーも語学も出来る限りのものを身につけられたのだと自負しています。

 すべては旦那様のために。

 盲目といってもいいほど旦那様のためだけに生きてきました。


 だからこそ自国の歴史と法律が多重婚を認めてはいても自分が唯一の旦那様以外にこの身を任せることは想像することすらできません。


 たった一人のまだ見ぬ旦那様を思い、少しでも旦那様に相応しくなれるようにと自分を磨きながら嫁ぐ日を夢る日々。

 我が国の仕来りで女性は嫁ぐまでは無暗に顔を晒さないというものがあったため未婚の女である私は旦那様になると決まっているとはいえ無暗に他国へと行くことは許されませんでした。

 そのため一度も旦那様にお会いしに行く事も叶わなかったけれどそれでも年に何通か届くお手紙に胸をときめかせてもいた。

 旦那様は一体どんな方なのか、不安がなかったといえば嘘になるけれどそれでもお母様もお父の様も皆が口を揃えて幸せになれるのだと教えてくれていたから嫁ぐことを嫌だと思ったことは一度もなかった。

 物語のような激しい恋は出来ないかもしれない。

 けれど、優しい愛を育むことは出来るものだとそう単純に思い込んでいた。


 だけど嫁ぐための準備が始まる十六の歳を前にその夢は夢のまま終わってしまった。

 旦那様に好いた方ができ私との婚約の解消を申し込まれたと告げられた事で……。

 そう、そこで私は一度死んだのでしょう。

 生きる意味を取り上げられてしまったということを心が受け止められず。


 ……うん。それだけ考えると今世の私の魂はどれだけ貧弱なのでしょう。

 その御蔭というかそのせいというか、思い出さなくていい記憶を思い出してしまいました。


 どこかの星で一人バリバリ働いてたった一人の人とだけ結婚をして何人もの子供たちや孫たちに囲まれた人生を送っていた記憶を……。


 過去世。

 この世界に生まれるよりも前の世界で生きていた人の記憶を。

 前の記憶で言う輪廻転生を果たしてしまうなんて一体どんな因果なのでしょうか。 

 

 色々な事を思い出したことで口調が乱れてしまいそうですが、これは慣れるまで仕方ありませんね。

 今世の……、純粋なアルサウニだけの記憶に前の世の人の記憶が混ざったことで変わってしまった部分もあるでしょうが、前の世の記憶は夢を見た後のようにはっきりしない部分も多いですからそこまでの変化はないでしょう。

 

 自分の事を振り返り、ある程度何があったのかを思い返せたことを確認した私は寝ていた体に異常がないことを確認するため体を起こしました。

 婚約破棄を告げられた時倒れてしまったため、どこかをぶつけてしまわなかったかさっと確認します。

 痛むところも青痣などもまったく見当たらないので誰かが気絶した私を受け止めてくれたのでしょう。

 後できちんとお礼を言っておきましょう。

 それに私が婚約破棄の話を聞いて倒れてからどれだけの時間が経ってしまったのか、前の世と違い細かな時計なんてものはないので誰かに聞かなければいけませんし……。

 後、私が倒れてしまったことで現状どうなっているのかも聞かないといけないですしまずは誰か話ができる方を訪ねるのが早いかしら?

  

「アル様お加減はいかがでしょうか?」


 頭の中に直ぐに会えそうな人々を思い受べて考えていると天幕の外から乳姉妹のサイデアルスの気遣わしげな声が聞こえてきました。


 私が寝ていたベットは一国のお姫様が寝るだけありとても大きくてその周りを薄いベールを何重にも重ね合わせた天幕がサイデアルス……サデアの輪郭を薄らと映しだします。

 だけどサデアはそこから動こうとはしないので天幕の中に入ってくるように告げました。

 前の世の記憶を思い出してしまったため少し違和感も感じますが、生まれて十五年で培った所作の一つなのでそこは割り切るしかないでしょう。


「アル様、もう起きられても大丈夫なのですか?」

「ええ、心配してくれてありがとうサデア。それより私が倒れてからどれくらい過ぎてしまったかしら?」


 天幕の中へと入ってきたサデアが慌てて傍まできて私の体を心配そうに確かめ始めました。

 

「サデア、お医者様もしっかり確認されて大丈夫だて言われてたのにそんなに心配していたらアル様が余計に不安になるって何度言ったらわかるんですか。アル様、体の不調や御気分がすぐれないことはございませんか? 何かあるようなら医者をお呼びしますので直ぐ仰ってくださいね」 

「シスも心配かけてごめんなさい。どこも不調はないからお医者様をお呼びしなくても大丈夫よ」


 サデアに続いて入ってきたシスゲイル、シスがペタペタと体を触って心配しているサデアを引き剥がしてくれました。


「それよりも私が倒れてからどれだけ経ったのかしら?」

「そうですねお嬢様が御倒れになったのは花の刻少し前で今はもう少しすると月の刻に入るくらいなので一つの時が過ぎたくらいでしょうか」 

 

 この世界の時刻の数え方は一日を四つに分けて表現されていて前の世に当てはめるなら0時~6時が星の時、6時~12時が太陽の時、12時~18時が花の時、18時~24時が月の時と分類されます。


 今考えたら所々前の世と類似した部分が目立つのは同じように記憶を持たれた方がいた名残なのでしょうか?

 時の数え方もそうですが今着ている服、アラビアンな物をモチーフにしたといわれても納得します。

 私が嫁ぐ予定の御国はどちらかというとヨーロピアンといいますかフランスといいますか、肌を隠しながらもとても布をふんだんに使った豪華な御衣裳だと記憶していますのでそれに習ってアラビアンでも他の方よりも首元から足まで肌を隠した構造になっていてよかったです。


 年頃の御姉様は私とは違いこの国特有のアラビアンな御衣裳を身に纏っていますが、情熱な性格を表わすかのようにとても扇情的なのです。

 胸元も少しずれてしまえば露わになってしまいそうですし、下も際どい位置まで肌を晒していますし……、とてもメリハリのある御姉様にお似合いの御衣裳も凹凸にそこまで自身のない私にはとても似合わなかったでしょう。

 いえ、だからといって私の胸が全くないというわけではないのですよ?

 ただ、その、御姉様の御体のメリハリが突出してはっきりしているというだけで……。


 その点は違う御国に嫁ぐ事が決まっていてよかったと言えるかも知れません。

 それに肌が白い事も美の条件の一つであると聞き及んでいましたから日焼けには細心の注意を払っていたのでこの国の民にしてはとても肌が白いのです。

 その点を考えても私にはあの御衣裳を着こなせる自信がありませんもの。


「まあ、そんなに時間が経ってしまいましたのね……。なら皆とても心配されてるかしら」

「それは勿論!! 王様も御后様も皆様とても心配されてますよ!! 姉君様や兄君様も御倒れになったアル様の事をとても御心配されて今にもファーミルへの制裁をどうするかと……ってァタッァ!!」


 サデアが何か怖いことを言いかけてましたがそれをシスが頭を殴りつけて止めました。

 張り手なんて可愛いものでなく拳を握りしめてサデアの頭に振り下ろしていましたが大丈夫なんでしょうか?

 

「アル様、皆様とても心配されて気が付かれたらすぐに会いたいと仰っておりますが如何いたしましょう?」

「そう。私も今どんな話し合いが行われたのか知りたいですし御父様に今時間は大丈夫か確認してもらってもいいかしら?」

「はい。では何かありましたらすぐ医者をお呼びしますので、異変がありましたら決して無理なさらないで下さい」

「ええ、サデアもいるしそんなに心配しないで?」


 痛みに呻いていたサデアはいつの間に復活をしたのかシスから距離をとり「そうだそうだ!!」なんていって腕を振り回していますが、それを横目で見たシスの目がとても冷たい気がするんですが気のせいでしょうか?

 その目が『だからこそ心配だ』って訴えてる気がするのは私も起きたばかりで疲れてるんでしょう、きっと。


 シスが部屋から退室し、サデアが何故か御機嫌で天幕を開けて出て行ったかと思ったら他の侍女たちを伴って衣裳部屋から持ってきた沢山の衣裳を広げ始めました。

 いえ、それはいつものことなので良いのですがその衣裳がいつもより露出が多い気がするのですが……。


 明らかに御姉様の御衣裳よりも布の面積が少ない気がするのですが気のせいですよね?

 疲れて今も夢でも見てるの……よ、ね? 

 



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