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炎の時代の物語  作者: qwertyu
クーデター編
1/45

プロローグ

プロローグ

 ゆらゆらと淡く陽炎が立ち昇る飛行場のタラップ。


 そこから伸びる花道を挟むようにしてズラリと二列、一糸乱れぬ見事な隊列で軍服を身に纏った集団が全員敬礼の姿勢で自分を出迎えている。


 固唾を飲んで昇降口を見守る彼らの視界にジョセフィンが姿を現すと、割れんばかりの拍手と歓声が一斉に湧き起った。


 ジョセフィンはまるで天上人のような眼差しでじっと階下を見下ろすと、上品な仕草でサッと右手を上げ、小さく微笑みながら彼らの声に応えてやる。

 階下の歓声がひときわ大きくなり、熱狂の様相を呈してくる。


 本来であれば、今頃は無遠慮な報道カメラのフラッシュに囲まれて辟易しているところであろうが、今回の訪問はお忍びということもあってさすがにそれはない。

 そのことがいつもよりも三割り増しでジョセフィンの愛想を良くしていた。


 たっぷり時間を取って歓声に応えてやると、躁狂がひとしきり落ち着いたところで、ジョセフィンは下で待たせているリムジンに乗り込むべく、SPに促されてゆっくり階下へとその一歩を踏み出した。


 タイトスカートのスリットから覗く、かつては合州国で最もセクシーだとまで称された自慢の脚線美。

 もちろんそれを包み込む服のチョイスにも抜かりはない。

 その中でも特に目を引くのが、まるで血液を染めぬいたかのように真っ赤なハイヒール。

 ファッション大国フランツの誇る第一級の職人が手作りした、最高級の一品である。


 このように常に何かしら赤い装飾品を身に纏っていることから、ジョセフィンは合州国民より「赤い貴婦人」と呼ばれている。

 そんな自分を象徴する今日の「赤」が、コツコツと優雅なワルツを奏でているこのハイヒールだった。


 まるでメトロノームに合わせているかのようだと社交界でも絶賛される、伸びやかで規則正しいその歩調。

 それでいて機械的なところは全くなく、見る者の目を否応なく吸い寄せる貴婦人の名に全く恥じることのない優雅でよどみない足取り。


 正に完璧なエレガンテ。


 これこそが、ジョセフィンが名門の家庭に生まれ育ち、幼いころから社交の英才教育を受けてきた生粋のセレブリティの証である。


 ――だがしかし、突如としてその心地良いリズムが掻き消えた。


 「ぎゃっ!」


 淑女にあるまじき叫び声とともに、ジョセフィンの左足が己の意志に反して次の段を踏みしめることを拒絶してしまったからだ。


 空を掻く足を慌てて引っ込めるべく懸命に奮闘したが、既に上半身は慣性によって大きく傾いでいて、もはや自力での姿勢制御は難しい状態であった。


 一度狂ったバランスと混乱した思考は三半規管の機能をも麻痺させ、大きくゆらいだそのスタイルの良い肢体は地面に向けて真っ逆さまに離陸テイクオフしていく――。


 「ひぃっ!」


 宙に舞うその刹那、ぶるっと身体が震え上がり、体中の血液が全て逆流してしまったかのような悪寒がつま先から背筋にかけて一気に駆け抜けていく。


 心臓の音がかつてないほど体中に木霊し、普段は意識したこともない『死』という単語が急に現実味を帯びて、一瞬先に自分を襲うだろう最悪な未来が、まるで過去に経験した光景であるかのようにコマ送りで脳裏にフラッシュバックしていく。


 この場にジョセフィン一人だけであったならば、このまま重力に引かれて地面まで一直線に転げ落ち、ずらりと並んで敬礼している出迎え達の前でこの上なく悲惨な醜態を晒してしまう事態は避けられなかっただろう。

 しかし……


 「――危ない!」


 不幸中の幸いか、そばに控えていたSPたちがとっさに落下するジョセフィンの両腕を左右から掴んで引っ張り上げてくれたことで、その大惨事は未然に防がれる。

 さすがは合州国でも指折りの腕利きたちだけのことはある。不測の事態にもかかわらず見事な反応であった。


 「大丈夫ですか? ミセス・ローレンス」


 「え、ええ。ありがとう……助かったわ」


 命の危険に見舞われたことによる激しい混乱、そしてそれによって引き起こされた深い憔悴にひたりながらも、ジョセフィンは努めて冷静を装いながら笑顔を作って見せた。


 (――っ、一体……どうして?)


 深呼吸をして息を整えると、自らに降りかかった不幸の原因を解明すべく後ろを振り返って確認してみる。


 「あっ……」


 原因はすぐに判明した。

 ちょうどジョセフィンが体勢を崩した辺りに小さな証拠が残されていたからだ。


 目にも眩しい鮮烈な赤色の破片。


 見間違えるはずがない。

 追うようにして自分の足元に視線を戻すと、右足の踵に存在していたはずのヒールが根本から綺麗に折れてなくなっていた。


 破片を拾い上げたSPからそれを受け取ると、おもむろに自分の靴を脱いでその両者を継ぎ合わせてみる。

 真っ赤な破片と靴の踵部分が、まるでシンデレラにあつらえられたガラスの靴のごとく隙間なくぴったりと重なりあう。


 そしてそれこそが、本来分かたれざる両者が元はたった一つの存在であったことの何よりの証拠だった。


 とはいえ、軽く繋ぎ目を当てたくらいで靴が元通りになるはずもない。

 そして、大勢の前で醜態を演じてしまった果てしなく気まずいこの状況も……。


 「………………………」


 辺りがシーンと静まり返っている。

 空気が重すぎて、息が苦しい。


 「…………行くわよ!」


 ジョセフィンはその場のしらけた空気をごまかすために努めて大声で叫ぶと、SPの肩を借りて再び階段を降り始める。

 我に返った軍人たちはまるで何も起こらなかったかのように歓声を上げてくれたが、彼らのその思いやりが今のジョセフィンには余計に痛く感じた。


 彼らの好意に対して怒りをぶつけるのも大人気ないし、かといって愛想笑いでごまかすのも威厳に欠ける。


 迷いに迷った挙句、結局ジョセフィンに出来たことは、自分を出迎えるためだけにわざわざそこに集まってくれていた軍人たちに声一つかけることもしないまま、いそいそと用意された車に乗り込んで一目散にこの場を立ち去ること。


 ――ただそれだけだった。


 ◆◆◆


 空港から車で飛ばすこと小一時間。

 軍の基地以外何もないこの島で、更に兵士の居住区にもなっていない辺鄙な島外れに構えられた豪邸。


 ――そこにジョセフィンの目的とする青年はいた。


 豊かな自然に囲まれた手入れの行き届いたプール付きの広い庭に、ビバリーヒルズのセレブたちの邸宅もかくやと思われるほどの豪奢な建物。

 本来であれば羨ましくて思わずため息が出てしまうほど荘厳な佇まいであるが、ジョセフィンはここが世界で最も豪華な捕虜収容所であることを知っている。


 建物に入ると、部下に案内されるがままに大きいシャンデリアがかけられた豪華なエントランスを抜け、階段を登り、ゴミ一つ落ちていない長い廊下を抜けて突き当たりの部屋へと通される。


 部屋の中には、花瓶に入った見事なバラが飾り付けられた大きな円卓が一つ。

 その卓を囲むように椅子が整然と配置されていて、一見会議室のように見えなくもない。


 だが、そこがあくまでも捕虜と面会するための部屋であることを示すかのように、巨大なガラスの壁によってその部屋の中央を分断され、二つの区画に分け隔てられている。


 一見真円に見える円卓も、よく見ればバラバラに存在している二つの半円形のテーブルがガラスの壁越しに向かい合わせに配置されたものだった。


 両者を隔てるその透明な壁は、事前にSPから受けた説明によると厚さ3センチの最新式防弾ガラスを6層重ねるようにして設置してあるもので、その強度たるや至近距離から発射されたバズーカ砲数発の直撃にも余裕で耐えうるものであるとのこと。


 当然ながらそんな分厚い壁ではお互いの声を十分に通すはずもなく、二つの部屋の物音はおのおのに設置されたマイクとスピーカーによって相手に伝えられるようになっている。


 面会するのにそんな大掛かりな仕掛けが必要なほどの危険人物――。


 ()()がさきほどから自分とは円卓を挟んで対角線上に座して、まるで値踏みするかのように静かにじっとこちらを見ている。


 見たところ十代後半から二十代前半くらいの東洋人の青年。


 耳元まで隠れる黒い髪、成人男性にしては華奢ともいえる身体つき、黄色人種にしては白すぎる肌の色、一種の儚さすら感じる彼の雰囲気は、一見したところそれほど警戒しなければならないほどの危険性は感じない。


 椅子に座しているのではっきりとは言えないが、身長の方もおそらく170台前半であるジョセフィンとそれほど変わらない程度しかないだろう。


 ――それらは概ね事前に手渡された資料の通りだと言っていい。


 唯一それと相違点があるとすれば、彼の目元がレシプロ機のパイロットが装着するようなレトロチックなフライトゴーグルで完全に覆い隠されてしまっていて、おそらくは秀麗であろうその眉目が直接目視できないということだろうか。


 いかなる意図を持って彼がそんなものを装着しているのかは見当がつかない。


 だがそんな彼の奇抜な格好は抜きにしても、こうして直に相対してみて改めて感じさせられるのは、やはり彼は普通の人間ではないということだ。


 ジョセフィンとて伊達に「赤い貴婦人」などと呼ばれているわけではない。

 毎日のジム通いによるエクササイズと週一のエステ通いを欠かさないその美貌は、ステイツ全土を熱狂の渦に巻き込んだ全盛期ほどではないにしろ、五十代半ばにして外見年齢三十代後半から四十代前半と美容誌で絶賛されるほどの若々しさを維持している。


 しかし、そんなジョセフィンすらこの青年の前ではすっかり霞んでしまう。


 もし全く事情を知らない人が見たら、自分と彼がほぼ同じ歳なのだといったい何人が信じてくれることだろうか。


 (これが本物の能力者……)


 ジョセフィンは本能的に湧き起こる羨望、嫉妬、そしてそれ以上のなにものにも代え難い恐怖に思わず身震いした。


 年老いることのない肉体と優れた身体能力。そして人知を超えた超常の力……。


 種としての進化の袋小路に陥っている人類の中に現れた突然変異。

 進化した新しいヒト。


 ――それが能力者と呼ばれる者たちだ。


 目の前の青年はその特筆すべき頭脳や運動能力はともかく、能力者としては最低ランクの実力しか持たないと聞いている。


 だがそれでも彼は普通の人間とは明らかに違う。


 そう、例え見た目は同じでも、彼ら能力者は自分たち人間とはもはや遺伝子レベルで違う生命体なのだ。

 彼らはいわば自分たちの上位存在。すなわち自分たちホモサピエンスにとってみれば生物の頂上に君臨している己の地位を脅かす侵略者。


 だからこそ、その進化から取り残されたジョセフィンたちからしてみれば、決して後塵を拝すことが許されない不倶戴天の敵であり、なんとしても自分たちの支配下におさめなければならない猛獣に等しい存在でもある。


 地球の主としての座を絶対に死守ぜねばならぬ打倒すべき相手――そのような連中を代表する者、それが目の前の青年なのだ。


 加えて彼が属しているのは合州国と現在進行形で敵対している国家なのだから、その危険度は更に跳ね上がる。


 (もう一人の彼女は……ここにはいないみたいね)


 目線だけを動かして部屋の隅々まで確認すると、密かにほくそ笑む。

 この部屋にいるのが彼だけなのは、ジョセフィンたちにとっては極めて都合がいい。

 余計な邪魔者がいなければ、いざという時に力押しという選択肢も選べるからだ。


 青年はそんなこちらの心中を知ってか知らずか、ジョセフィンがこの部屋に入室してからこっち、ずっと沈黙を保っている。


 ゴーグルに隠れてその目線がどこに向けられているのかを断定することはできない。

 だが、ジョセフィンはその長い政治生活で培った経験から、青年から発せられている空間を破り取るようなピリピリとした感覚が、今自分が彼にしているのと同じく、目の前にいる相手を冷静にじっくりと油断なく観察している視線によるものだと察知していた。


 「………………」


 「………………」


 両者の間に、見えざる緊張の糸が張力の限界までピンと張りめぐらされていく。


 ――しかし、それが突然たわんだ。


 最初に力を緩めたのは青年の方だった。


 「初めまして、レディ。私の自己紹介は……まあ不要でしょうから省かせてもらいましょうか。あなたの方は……ふむ、どうやらいつも相談に来る連邦捜査局《FBI》の方達とは少々雰囲気が違うようですね。どちらも堅いということでは共通していますが、彼等が形式張っているのに対し、あなたの方はどちらかというと格式張っている。察するに上流階級。そしてここに来るからにはおそらくは政治家――といったところでしょうか?」


 ――図星だった。


 分かっていたこととはいえ、恐ろしいまでの観察眼。


 驚きを声に出すことこそしなかったが、青年の鋭すぎる指摘にジョセフィンは背中にザワつくようなむず痒さを覚えていた。


 あの異様にプライドが高いFBIの連中がそれを遥か彼方へとかなぐり捨てて、わざわざ絶海の孤島にまで足を運んでは困ったときの駆け込み寺としてこの安楽椅子探偵にアドバイスを求めているその理由わけがジョセフィンにも良く解る気がした。


 「……ともあれ、こんな僻地にまで遠路はるばるよく来てくれたと、本来なら握手でも交わして熱烈に歓迎すべきところなのでしょうが、この無粋な壁のせいでそれがままならないこと、どうかご容赦下さい」


 口調も言っていることも至極もっともらしいのだが、初対面の政治家相手に挨拶をしているのにもかかわらず、彼は椅子から立ち上がろうともしない。

 そればかりか、足を組んでテーブルに頬杖をついたままというひどく横柄な態度。


 そして、ゴーグルに隠された目元を代弁するかのようにわずかに歪められた皮肉気な口元――。


 それだけでも、この青年が自分に対して決して友好的な感情を抱いているわけではないことを察するに余りある。


 しかし、こんなことで尻込みしてはいられない。

 彼がここに幽閉されている背景を考えればそれも当然のことであるし、この程度の障害は最初から織り込み済みだった。

 それに自分には、どんな私情を押し殺してでも成し遂げなければならない使命がある。


 ジョセフィンは青年の態度に憤慨している自分の部下たちを軽く手で制すると、優雅な仕草で金髪をかきあげ、ガラスの壁を挟んで青年の真向かいにあたる椅子に腰をおろした。そして青年に向かって一度ニコリと微笑みかけると、そのまま流れるような自然な口調で自己紹介を始める。


 「こちらこそ初めまして。お察しの通り、私は合州国上院議員を務めさせていただいているジョセフィン・ローレンスと申します。どうかお見知りおきを」


 一度言葉を切って、軽く会釈する。


 「本日は人類史上最高の天才と謳われたあなたにお目にかかることができて大変光栄に思っています。私の方こそ敬愛すべきあなたに対し、仕方が無いとはいえこのような壁越し、スピーカー越しの挨拶、お許し頂きたく存じます」


 「これはこれはご丁寧に、どうも」


 ジョセフィンの挨拶に満足したのか、青年からはにこやかな笑顔と如才のない返事が返ってくる。

 さきほどまでの皮肉気な態度がまるで嘘であるかのようだった。


 とりあえず第一関門は無事に突破できたようだと、心のなかでほっと安堵の溜息をつきかける――が、ここでふと我に返ると、決して心を緩めてはいけないとジョセフィンは改めて己の慢心を戒めた。


 ゴーグルで視線が遮られているせいもあるが、とにかく彼の考えていることが読めない。


 慇懃無礼な態度をとったかと思えば、一転して急に愛想がよくなったりと、彼のその挙措はまるでこちらの思惑を全て承知の上で心を揺さぶりかけにきているかのようだ。


 いや、実際そうなのだろう。


 ジョセフィンは目の前でニコニコ微笑んでいるだけのこの青年から、今まで相手にしたどんな老獪な政治家のプレッシャーよりも底知れない得体の知れなさを感じていた。


 これではどちらが虜囚の身なんだか分かったものではない。


 パッと見は虫も殺せなそうなただの線の細い優男。

 信じがたくはあるが、しかしこの青年が合州国の指定する最高ランク、SS級の危険指定人物三人の内の筆頭なのである。


 SSランクに指定されているのは全員が帝国の抱える能力者であるが、他の二人とは違い、この青年が特別危険視されているのはその能力ではなく、人類の科学技術の発展を数百年は余裕で押し早めたとも言われるその異常なまでの頭脳だ。


 世界最高峰の研究者たちから、「アインシュタインとニュートンとニールス・ボーアを足して、しかも3で割らない」とまで評され、更には「人類史上最も宇宙の真理に近いところにいる人物」とまで言わしめたその神才。しかし、そんな彼の叡智の恩恵を独占している国は、残念ながら合州国われわれではない。


 天才の頭脳から溢れる知恵の泉を汲むことを許されている全世界でただ一つの幸運な国、それは世間一般に帝国と呼ばれる新興国家だ。


 だが、それこそがジョセフィンたちにとっては死活レベルでの大問題になっている。


 今でこそ両国間でとりあえずの休戦状態という形になっているが、三十年ほど昔、合州国太平洋艦隊が帝国首都へ向けて侵攻したことに端を発して、後に「第二次太平洋戦争」と呼ばれる合州国・日本連合軍と帝国――『魔法帝国神無』とが真正面からガチンコでぶつかりあう大戦争が勃発した。


 列強国同士の武力衝突としては実に第二次世界大戦以来という歴史的な戦いだった。


 だが、魔法帝国を名乗る相手との戦争だったのにもかかわらず、意外なことにこの戦争の結果に能力者たちの超常能力は一切関わっていない。


 その勝敗の決め手になったのは進んだ科学の力。そしてそれは当時の軍事界では全く無名だった一人の青年によってもたらされた。


 その人物こそが、今ジョセフィンの目の前にいるこの優男なのである。


 当時の資料や証言を当たるに、合州国政府及び統合作戦本部は、帝国側に彼という図抜けた天才が存在していたこと自体はしっかりと把握していたようだった。

 工作員の進言により彼に対してそれなりの引き抜き工作が行われた形跡もある。


 しかし時の政府や軍上層部を含めて、その工作員以外の者があまり積極的ではなかったこともあり、残念ながらその交渉は不調に終わってしまったらしい。


 引き抜きに失敗した工作員はというと、帰国してすぐに「この自分の失敗が、きっとこの先合州国にとって取り返しのつかない災厄を招いてしてしまうだろう」という不吉に予言めいた書き置きを残し、自宅で首を吊って自らその命を断ってしまった。


 ところが、今思えば極めて愚かしいことであるが、工作員の命を賭したその進言すら時の政府はあまり重要だとは受け止めていなかった。


 つまり、合州国は完全に青年の存在を眼中に置いていなかったのだ。


 合州国にも世界に誇れる優れた才能を持つ研究者はたくさんいたし、軍事力に関しても『一国で世界を相手取って戦っても勝てる』とまで言われていた。

 質・量ともに世界最高の戦力を内に抱えていたことによる肥大化した自尊心もそれを後押ししていたのかもしれない。


 帝国に対する懸念事項と言えば能力者の持つ未知数の超能力の方だったが、それとて戦術上の脅威とは成り得ても、戦略的な視点で見れば脅威とはなり得ないと統合作戦本部は結論づけていた。


 能力者の射程範囲外である海上から、艦隊による帝都への長距離一斉飽和攻撃。

 これであっさり片がつくと考えられていたからである。


 加えて、建国当初の帝国は国と言いつつも旧中央区役所を中心とした半径30キロ圏内という極小の国土しか持っていなかった。


 そのため、横須賀の日本国国防隊所属の一個艦隊と横須賀・横田基地の在日合州国軍が本気をだしさえすればそれに抗し得るだけの兵力も資源も軍事力もないだろうと、それどころかそこに合州国第3、第7艦隊が加わる以上、制空権も制海権も磐石で、自分たちの行動を阻みうるものは何もないだろう……と、そう高を括っていたのだ。


 のんきなことに、彼等は自分たちが綺麗だと見上げているキラ星が、実は北斗七星の傍らで一際輝く呪い星だったという事実に、誰一人として気付いていなかった。


 たった一人、己の命を断った工作員を除いては……。


 しかして勢い込んで開戦した結果、青年がとある企業と極秘開発していた、たった三機の戦闘機と一隻の潜水艦、四機の軍事衛星による別次元ともいえる圧倒的な力によって連合軍はいいように駆逐、蹂躙され、合州国は太平洋艦隊を形成する第3・第7艦隊が戦闘開始からたったの数時間で壊滅的打撃を受るという信じられない敗戦を喫してしまった。


 帝国軍の反撃によりあっという間にハワイが奪われ、いよいよ合州国本土西海岸にまで攻撃を加えられるところまで追い詰められた結果、合州国は国際的な非難を承知の上でついに禁断の「核」のカードを切ることを決定した。


 しかし、結論から言うとこれは下策中の下策であった。


 その核攻撃は帝国に欠片ほどのダメージも与えることは出来なかったばかりか、合州国の国土から飛び立つことすらなく打ち上げた瞬間その場で大爆発を起こしてしまったのだ。


 おそらくそのショックが直接の原因だろうと言われているが、ここに至ってついに合州国大統領およびその同盟国である日本国首相は帝国に白旗を揚げた。


 無条件降伏である。


 そしてこれは、歴史上初めて真正面からの戦争で星条旗が叩き折られた瞬間でもあった。


 当然のことながら、この結果は全世界に大きな衝撃をもたらした。


 世界経済の一位と四位(日本は元々二位だったが、帝国が日本から離脱してしまったため四位に転落していた)の実力と順位相応の軍事力を持つ国家が、力を合わせて猫の額ほどの領地しか持たない弱小の新興国家に敗北を喫してしまったのだから無理もないことであろう。


 「現代戦争は数ではなく質」


 これは奇しくもかつての湾岸戦争でサダム王国に対して合州国軍が示した教訓を、帝国の手によってそっくりそのままやり返されてしまったようなものだった。


 この歴史的大敗北により、合州国はアジア戦略上の要であるグアム島やハワイ諸島、サモア諸島などを含む太平洋上の全ての属領、そして天然資源の主要供給地であるアラスカ全土を。日本国は全ての島と東北と関東全域及び中部地方、そして四国と北海道を失った。これによってEEZと領海を合わせた国別順位で魔法帝国神無はフランツ共和国に次ぐ世界二位へと躍進し、反対にそれまで世界一位と六位に君臨していた合州国と日本はそれぞれ大きく順位を落とすはめになってしまった。


 加えて両国とも天文学的数字に昇る賠償金の支払いが課せられ、帝国の脅威は能力者の超常能力だけではないという教訓を骨の髄まで叩き込まれることになったのだ。


 ジョセフィンはそんな三十年前の愚かな政治家たちと同じ轍を踏むつもりはない。


 だから例え今、彼がどんなに気を抜いたそぶりを見せたとしても、決して油断する気はなかった。

 一見爽やかなその笑顔の裏で、どんな悪魔がほくそ笑んでいるか分からないのだ。

 まして彼は自分よりも遥かに高い知能を持つ相手。それを己の望む方向へと誘導していかなければいけないのだから、これから先一瞬たりとも気を抜くことなど許されようはずがない。


 気づくと、知らず知らずの内に握り込んでいた拳が、じっとりと汗でにじんでいた。


 脚を組み替え、小さく深呼吸して気を落ち着けると、ジョセフィンは一気に勝負に出る。


 「本日、私はあなたに一つご提案があってここまでやってまいりました」


 「提案?」


 「はい、提案です。それも、九段下密約に関わる……」


 「……なに?」


 それを聞いて、青年は怪訝な表情で眉をひそめた。


 ――九段下密約。


 失策続きだった三十年前の合州国政府首脳部だったが、たった一つだけいい仕事をしたと後世から評価されていることがある。

 それは帝国と三十年間の休戦条約を結ぶにあたって、裏で一つの取引を結んだことだ。


 いわゆる九段下密約と呼ばれるそれは、合州国が渋りに渋ったアラスカ割譲を認める代わりに帝国に応じさせたもので、その内容は休戦期間にあたる三十年間、帝国最高の頭脳である青年の身柄を合州国こちらで預かり受けるというものだった。


 もちろん預かるといっても、その身の安全と待遇は完全に保証し、かつ彼に対して助言を求めてもいいのは犯罪捜査へのアドバイスなど科学技術に関係ない類の質問に限られるという限定的条件の元でである。


 野党からは、「技術を吸収できないのであれば、アラスカを失った上に巨額の資金を使ってまで彼を養う意味などないではないか」という激しい批判の声も上がったのだが、「彼をあのまま放置しておいては、こちらがいくら追いかけてもそれ以上の速さで逃げる帝国との技術力の差が開く一方だ」との大統領の英断で推し進められたという。


 そして三十年が経過した今、その政治判断は正しかったことが証明されている。


 帝国に追いつくために国一丸で技術向上に取り組んだ結果、帝国の技術に追いついたとまではいわないが、それでも数を揃えれば何とか対抗できるというところまではこぎつけることに成功していたからだ。


 「御存知の通り、まもなくかの九段下密約で交わされた三十年の期限がやってまいります。ですが、私どもとしてはあなたにその期限後もこの国にとどまって頂けないかと考えているのです。つまり、合州国政府はあなたを我々の新たな同胞として迎え入れる用意がある……ということです。無論、それにあたってはあなたに対して我々が用意できる最大限の地位と待遇はお約束させて頂くつもりです」


 「要するに、私に合州国へ亡命しろ……と?」


 「有り体に言えば、そうです」


 ジョセフィンは力強く頷いた。


 「もちろん今この部屋にはおられないようですが、あなたの護衛の女性の方もご一緒に」


 青年の懸案事項をあらかじめ埋めておくことも忘れない。


 「……あなたは、俺たちに同胞を裏切れと、そうおっしゃるんですか?」


 表情をピクリとも変えないまま、青年の声音が1オクターブ下がった。

 そのただならぬ気配を察して、ジョセフィンの脇に控えた黒服達が一斉に主を庇うそぶりをみせる。

 だが、ジョセフィンは機先を制して部下を黙らせると、まるで何もなかったかのようにニッコリと微笑んで青年に向き直った。


 「裏切れだなんて、それはとんでもない誤解です。もちろんどのような理由があろうとも、向こうから見れば結果的にはあなたが裏切り者扱いされることは否定いたしません。ですが、物事には何事にも順序というものがありますでしょう?」


 「順序……ね……。ふむ。なるほど」


 さすが天才と言うべきか、彼はジョセフィンが言葉の端に含ませた意味にすぐ気づいたようだった。


 「もう既におおよそのことは察せられているようですが……。そうです。要するに先に裏切ったのは、あなたの方ではなく帝国むこうの方だということです」


 言うと、ジョセフィンは後ろに控えている部下に目線で促す。


 その意図は裏方の間で瞬く間に伝達され、二つに分かたれた面会室の青年側の入り口が開くと、一人の黒服が一流のウエイターのようによく訓練された仕草で青年の前に進み出ていく。


 うやうやしく一礼したあとで、黒服は一枚のガラスプレートを青年に差し出した。


 そのプレートは一枚の書簡を保護するために二枚の強化ガラスで挟みこむように造られたもので、つまりジョセフィン達にとってその中に挟まっている紙切れ一枚がそれだけ重要な価値をもっているということの証でもあった。


 「その書簡には帝国皇帝の名で合州国大統領に宛てて、あなたが先の大戦における国際的な戦争犯罪人であり帝国にとってもその存在を看過できぬ犯罪者であるから、貴国の判断と法律に基づいて自由に処刑してもらって構わない……という旨の内容が記されています」


 「……そのようですね」


 ゴーグルによって目元が隠されているのではっきりとは分からないが、少なくてもジョセフィンが見た限りでは、青年の挙措に動揺の影は見られなかった。


 「先の大戦での帝国の勝利、そして長きに渡る休戦と平和。それらはあなたの存在と犠牲なしには有り得ませんでした。なのに、その英雄であるあなたに対する帝国ぼこくからのこのような仕打ち。もちろん全て理解できるなどと驕るわけではありませんが、その胸中の無念のほどはお察し致します」


 まるで迷い人を導く神父のようなおごそかな口調で告げると、ジョセフィンは更に言葉を重ねる。


 「しかし、我々合州国は違います。不幸なことに我々は先の大戦ではあなたの敵でした。しかし敵であったればこそ、あなたという唯一無二の人材の価値を知っている。その素晴らしさも、そして恐ろしさも……」


 「………………」


 「合州国は帝国とは違う。決してあなたを裏切りません」


 「裏切らない……ですか?」


 そう呟いた青年は、ジョセフィンを観察するようにじっとりとした気配を向けてくる。

 疑っているのだ。


 「言っておきますが、あなたにお渡ししたその書簡は我々の外務省が中立国立ち会いのもとで入手した紛れもない本物です。もちろん母国に裏切られたことを信じたくないというあなたのご心中は察するに余りありますが……」


 「いや、これ自体は本物でしょうね。ただ……」


 書簡を観察していた青年はジョセフィンの弁解を遮るように言うと、指先で書簡が納められているガラスケースを軽く弾いた。


 「問題なのは、これを発行したのがいったい誰なのか……ということです」


 「誰とは? それは……どういうことですか?」


 反射的に強く聞き返してしまう。


 「私にはあなたが、その書簡が皇帝陛下以外の人物によって発行されたとおっしゃっているように聞こえたのですが……」


 「聞こえたんじゃなくて、そう言ってるんですよ。数馬君――帝国皇帝がこれを発行することはありえません」


 「どうしてです? 信じていた人から裏切られたということを信じたくないあなたの気持ちはお察しします。ですが、人の心というのは変わるもの。ましてあなたがここに来てから三十年もの月日が経っているのです。それは皇帝陛下が心変わりをするのにも十分な時間だと思いますが?」


 「いや、それでもありえない」


 青年のきっぱりとした口調に、ジョセフィンは思わずむっとした。


 「その書簡に捺されているのは紛れもなく皇帝の印です。ならば、それを発行したのも当然ながら皇帝陛下のはず。なのにどうして陛下がそれを発行することがあり得ないのですか?」


 むきになったのは、青年の指摘が正鵠を射ていたからだ。

 真実をつかれて内心ギクリとしながらも、ジョセフィンはそれを杞憂だと自分に言い聞かせることでなんとか平静を装おうとする。


 彼がここに収容されてから三十年。ネット環境や電話などの通信機器はもちろん、新聞やテレビ、ラジオに手紙、カレンダーの日付に至るまで、彼に与えられる外部情報は完全に遮断シャットアウトされている。


 人伝いに情報を仕入れようにも、この島には軍関係者しか存在せず、またその人選も忠誠心に厚い者を厳選しており、そこからの情報漏洩も考えられない。


 唯一彼が手にすることが出来る情報媒体は本のみだが、それとてスタッフの厳重な検閲の元であるし、彼が目にすることが出来るのは、最も新しい物でも三十年前に発行された作品までだ。

 つまり、彼が()()を知っているはずがないのだ。


 仮にこの場を騙しとおせたとて、いずれ彼は真実を知る日が来る日は来る。

 そうなれば帝国に戻りたいと言い出すに決まっている。

 なればこそ、この青年が真実を知った後、今更帝国に戻るなどと言い出せぬよう自らの意思で帝国と敵対させ、その上で自らの意思で帝国から離脱したのだという明確な言質を取っておきたい――。


 それが今のジョセフィンの狙いであった。


 だから次の瞬間、彼の口から告げられた言葉は、ジョセフィンの予想を大きく覆すショッキングなものであった。


 「ならば私の方こそ教えて欲しいものですね」


 皮肉交じりの口調で問い返すと、青年は口元に薄ら笑いを浮かべた。


 「もう十三年近くも行方知れずの皇帝に、本国のやつらは一体どうやって皇帝印を捺させることができたんでしょうかね?」


 「………………!!」


 驚きのあまり、息を吐くべきタイミングで思わず吸い込んでしまい、ジョセフィンは「ひぐぅっ」と素っ頓狂な声をあげると、小さくむせ返りながら涙目で青年を見つめた。


 「……ど、どうしてあなたがそれを!」


 思わず口走ってしまってから、ジョセフィンはハッと我に返る。

 言葉を覆い隠そうとするように慌てて口元を手で隠したが、もはや全てが手遅れであった。


 「………………」


 「………………」


 嫌な沈黙が部屋に満ち渡った。


 交渉のこの段階で嘘がばれてしまうとは大失態である。なんとか取り繕おうと都合の良い言い訳を頭の中でぐるぐると考えるのだが、どうにもうまい言葉が出てこない。


 そもそも、どうしてこの青年がその事実を知り得たのかが分からないまま下手に嘘を重ねたとしても、逆効果に終わる可能性の方が高い。


 (どうして? なぜなの?)


 何度も頭の中で反芻する。


 帝国皇帝御影数馬が突然失踪したのは今から十三年前。三十年前からここに幽閉されているこの青年には、どうやってもそのことを知り得るはずがない。


 (まさか能力で? いえ、彼にも護衛の女性にもそんな力があるだなんて報告は聞いていない……)


 しかし、その謎はすぐに明らかになった。他ならぬ青年自身の口から。


 「ここに幽閉された後に失踪した数馬くんのことを私が知っているのがそんなに不思議ですか?」


 揶揄交じりに尋ねた彼は、くっくっと人の悪い笑みを浮かべていた。


 「なに、簡単なことです。私が三十年間ここにいる必要があったように、数馬くんにもなすべきことがあった。そして私はそのことを知っていた――ただそれだけのことですよ」


 「なっ!」


 ジョセフィンはまるで雷に撃たれたかのように、ハッと顔を上げた。

 謎かけのようなヒントだったが、ジョセフィンの明晰な脳みそははっきりと青年の意図するところを汲み取ることが出来た。


 「まさか! 皇帝陛下の失踪は突発的なものではなく、あなたがここに来る前からあらかじめ計画されていたということ?」


 「ご名答!」


 小憎らしい笑みを浮かべながら、青年は大仰に拍手をしてジョセフィンの推理をたたえてくれる。

 しかし、当然ながら言い当てた喜びなどありはしない。


 ジョセフィンは自分の背中にどっと敗北感がのしかかってくるのを感じていた。


 (くっ……どうすれば……)


 高速で考えを巡らせる。ここで非を認めてしまったら全ての策が水の泡と化してしまう。何としても逆転の一手を見つけ出さねばいけなかった。

 しかし、どうすればいいのかが分からない。


 (まさか、彼があのことを知っていたなんて……)


 ジョセフィンは脳内で舌打ちした。が、同時に、今のセリフに言葉ではなんとも言い現せない微妙な違和感を覚えていた。


 (えっ? 知っていた? 後から知ったのではなく、あらかじめ()()()()()?)


 ――と、不意にジョセフィンの脳裏に、轟く雷鳴の如き一筋の天啓が閃いた。


 (そうだ!)


 無言のまま力強く拳を握り締める。

 窮地に追い込まれているのは事実だが、幸いなことにまだジョセフィンの論理は完全には破綻していない。


 (彼が既知の情報を基に反論してきたのであれば、現在の情報を基に反論したのではないのであれば……まだ立て直せる!)


 小さな光明ではあったが、海千山千の政治の世界で生きてきた自分にとっては、その程度のとっかかりがあれば即座に論理を組み立て直すことなど造作もないことだった。


 棺桶に片足を突っ込み、死に体になって冷たく凍りかけていたジョセフィンの心に、再び炎が灯りはじめる。

 ふつふつと湧き上がる興奮を青年に悟られないよう、ジョセフィンは一度小さく息を吸って呼吸を整えた。


 「……なるほど。あなたが皇帝陛下の失踪について既にご存知だったとは夢にも思っていませんでした。あまりに予想外でしたので、恥ずかしながら私も驚きのあまり少々取り乱してしまったようです。しかし、だからといって我々があなたを裏切っているとは思わないでください。確かに私の説明に不足があったことは認めます。それについては幾重にもお詫び申し上げたいと思っています」


 言葉と同時に、深々と頭を下げてみせる。


 「ですが、聞いてください。十三年前、帝国から全世界に向けて皇帝陛下が失踪したという公式な声明が発せられたのは確かな事実です。しかし、その声明に対する我々合州国の見解はそれとは異なるのです」


 「というと?」


 「正直申し上げて、私たちはあなたの口から陛下の失踪が計画的であったと知らされるまで、その失踪騒ぎ自体が帝国の何らかの策略ではないかと疑っていました。もちろん我が国の上層部でも本当に失踪している。あるいは政敵に暗殺されてもう存命していないなど、あらゆる可能性が取り沙汰されましたが、それにしても帝政を採っている国家が、いかなる理由があったとしても十三年もの間帝位を空けておくなどということがあるはずがない。ならば、皇帝陛下は必ず帝都にいる……そういう意見が大勢を占めたからです」


 ここまで一気に捲し立ててから、ちらりと青年の反応を伺う。

 真面目な表情で頷いているようだが、相変わらず何を考えているのかさっぱり読めなかった。


 どうあれ、ここは勢いでおさなければいけないところだった。ジョセフィンは更に語気を強める。


 「これは必ずしも我々合州国だけに限った考えではありません。おそらく他の常任理事国をはじめとする列強諸国……大華国、ロクシア、インディ、EEU各国なども同じ疑問をいだいていると思われます」


 これは紛れもない事実だ。


 「そしてその真偽に関わらず、一番の問題は、例え皇帝陛下が発行したのでないとしても帝国があなたに対する処刑命令を公的に出しているという現実。つまり、酷なようですが、あなたたちにはもはや帰るべき国は存在していないのです」


 「なるほど。確かにそれは困りましたね……」


 本当に分かっているのかどうか、まるで他人事のように平然と呟く青年をいぶかしく感じて思わず眉をひそめる。しかし、何を考えているのか分からない彼の心情を推し量るよりも、今はとにかく話を推し進めるべき時であった。


 「ですが幸いなことに、私たちであればあなた方に居場所を提供することが出来ます。それも今以上の生活レベルで、何の拘束もなくです」


 「おやおや、えらく太っ腹な話ですね」


 「それだけ我々合州国はあなた方のことを評価している……と、そう思っていただければ幸いです」


 「なるほどね。確かにいい話だ……」


 青年は首肯しながら小さく呟いた。


 予想以上の好感触にジョセフィンも思わず破顔しかける。


 しかし次の瞬間、青年の口から飛び出してきた言葉にその顔は瞬時にして凍りついてしまう。


 「……でも、折角のお話ですが、お断りさせて頂きます」


 「…………えっ?」


 青年の言葉から受けた衝撃で、一瞬目の前が真っ暗になった。


 「どっ、どっ……」


 どうして! と叫びたいのに、声がうまく出てこない。

 予想された回答とのあまりに落差に、とっさに頭の方がついてこなかったのだ。


 「どうしてかって?」


 言葉がでないまま、青年の問いかけに何度もコクコクと頷く。


 「あなたは先ほど合州国は俺を裏切らないと言った」


 「ええ」


 青年の意図が分からないまま、ジョセフィンは首肯する。


 「そしてこうも言いました。『まもなく、かの九段下密約で交わされた三十年の期限がやってまいります』……と」


 その一言に、ジョセフィンの心臓がドキリと高鳴った。


 「……それが何か?」


 ヨロヨロとその場に崩れ落ちてしまいそうなほどの動揺を必死に押し隠して、やっとそれだけの言葉を搾り出す。


 「ここまで言われてもまだ分かりませんか? それとも、下手な返答をして藪の蛇をつつくのが怖いから、あえて気づかないフリをしているのですか?」


 「………………」


 彼の指摘が的を射すぎていて、返す言葉もない。


 そうである可能性は極めて低いとは思うが、彼の言わんとするところに心当たりはある。

 だがもしそれが青年の意図するものでなかった場合、回答に間違うばかりか、黙っていればバレない裏切りを自ら暴露することになってしまう。

 この問いかけ自体が彼のハッタリという可能性すら否定できない今の状況では、貝のように口を閉ざす以外の方法が見当たらなかった。


 「ご返答は……頂けないみたいですね。でもまあ、それはいいです」


 黙して語らないことに関して、追求という名の激しい爆撃がやって来ることを予想していたジョセフィンは、意外なくらいあっさりと引き下がった青年を拍子抜けしたようにみつめ直した。


 ジョセフィンの視線に気がつくと、彼はまるで菩薩のようにやわらかく口元をほころばせる。

 ホワッと暖かな空気が両者の間に流れたかのように思えた。

 しかし、それはあまりにもこちらに都合のいい勘違いだった。


 ジョセフィンが本当の崖っぷちに立たされるのはこれからだったのだ。


 「……ところで、もう三日も前に三十年の期限がやってきているはずの九段下密約が、まだ今も続いているようにおっしゃった理由を納得いくように説明して頂きたいのですが……」


 まるで英国紳士が紅茶に角砂糖を入れるような、そんな自然な感じでポトリと、攻撃する気配を全く見せないままにさりげなく投下されたその爆弾は、壊滅寸前でギリギリ踏みとどまっていたジョセフィン軍の脳内司令部を見事に直撃した。


 「そっ、そそ、そ……んな…………」


 ジョセフィンはまるで後頭部を鈍器で強打されたような衝撃に、軽く目眩を覚えていた。

 先ほどのやりとりから、もしかして彼がそのことに気づいているのではないかという疑念は薄々感じ取っていた。

 しかし、本人の口からその言葉を直に聞いていてなお信じることができない。


 この三十年、彼には正確な日付を悟らせるような情報は一切与えていない。カレンダーなんてもちろん無いし、そもそもこの屋敷には電子媒体、紙媒体を含めて、ここ三十年の情報を有するものは一切持ち込まれていないはずなのだ。


 「そんな! いったいどうやって!」


 その問いかけは悲鳴に近かった。


 「単純な話ですよ」


 青年は穏やかに微笑んだ。


 「一年三六五日が三十回、その間にうるう年が七回だからプラス七日で合計一万九百五十七日。そして俺が合州国に引き渡されてから今日がちょうど一万九百六十日目――つまり三日前が密約の期限である三十年の節目だったというわけです」


 「まさか! 毎日指折り数えていたとでもいうの? 一万日以上も?」


 言葉にするのは容易いが、それを実行するのは容易なことではない。

 三十年間毎日続けることもそうだが、人間の記憶力は存外頼りないものだ。経過した日数を間違えずに記憶し続けることこそあり得ない。


 毎日メモを取って記録していたという可能性も考えられるが、この屋敷から出るゴミは紙切れ一片に到るまで厳しくチェックされているし、そのメモ用紙を屋敷のどこかに隠していたとしても、ヘルパーとして屋敷の清掃にあたっているスタッフが間違いなくそれを発見しているはずだった。


 (ならばいったいどうやって?)


 思案にくれるジョセフィンだったが、テレビでやっているイリュージョンショーなどと同じく、種明かしをされてしまえばそれは案外あっけないものだった。


 彼は人差し指で自分のこめかみを軽く叩いてみせる。


 「俺は一度見聞きしたものは絶対に忘れませんからね。カレンダーの日付程度のことは指折り数えるなんて面倒なことをするまでもない。そのことを考えるだけで頭から自然と答えが出てくるんですよ」


 「か、完全記憶能力……」


 ジョセフィンはへなへなと力なくうなだれた。


 彼の科学者として突出した能力に目を奪われて、すっかり失念していた。

 この青年が一度認識したものは絶対に忘れない完全記憶能力の持ち主だということは、事前に目を通した資料であらかじめ知っていた。だが悲しい哉、多少頭の回転が早くても常人並の記憶力しか持たないジョセフィンには、その能力がそんな用途にまで応用できるものだとは考えも及ばなかったのだ。


 「……というわけで、九段下密約に従って速やかに俺の身柄を帝国に引き渡してもらいたいのですが」


 そんなことを言われても、はいそうですかと簡単に従える筈がない。


 「考え直しなさい! いまさら国に戻っても、反逆者の汚名を着せられて処刑されるだけなのですよ!」


 「それはあなたが心配することじゃないですね」


 青年の返事はそっけない。


 「そうかもしれません。ですが、それでもあなたを帝国に帰すことは出来ない」


 「……どうしても、ですか?」


 「ええ。申し訳ないけれど、力に訴えてでもあなたをこの国に留めさせてもらうわ」


 ここに至って遂にジョセフィンは覚悟を決めた。

 うしろに控えていた部下たちに合図して、速やかに青年の身柄を確保するように命じる。


 この青年もそれなりに武術を嗜むらしいが、能力者としては最低ランクに過ぎない以上、こちらの能力者が数でかかればどうとでもなるはずだった。


 問題はこちらではない。

 ジョセフィンの部下たちも合州国が誇る能力者部隊の精鋭だ。とはいえ、皇帝が彼のために直々に選んだという彼の護衛の女性は桁違いの力を持っている。


 正直なところジョセフィンの部下では彼女の相手をするには力不足だろう。


 だがこの場で青年の身柄さえ押さえてしまえば、彼の身を人質にすることで護衛の方は何とでもなるはずである。

 だから護衛の女性がいない今こそが最後のチャンスと言ってもいい。彼女が戻ってきてしまえば、自分たちにはもう完全に打つ手がなくなってしまう。

 ここから先は、もう時間との勝負だった。


 「やれやれ……」


 自分に襲いかかってくる男たちを見て、青年は首を振りながら小さく嘆息する。

 彼はまるで襲撃者たちなど眼中にないように自分の胸元に向かって視線を落とすと、落ち着いた声音でその少女に呼びかけた。


 「リルル、出番だ」


 青年の声に応えるかのように、彼の懐がもそりと動きだす。


 「えっ? 何っ?」


 呟いた次の瞬間、ジョセフィンは思わず目を見張った。


 ジャケットの懐から、ひょっこりとブロンドの髪の少女が顔を出したからだ。

 いや、少女というのも語弊がある。

 なぜなら彼女の身長はおよそ15センチ。しかも背中には天使を彷彿とさせる純白の翼が生えていて、その容姿たるや、いわゆるファンタジー映画や小説で言うところの妖精そっくりなものだったからだ。


 彼女はなぜか海軍の水兵が着る制服を濃紺色に染めたようなシャツに、同色で合わせたプリーツのミニスカート。更に同色のハイソックスに黒いローファーを履き、首からは白いスカーフを巻いているという合州国人にとっては馴染みのない奇抜な格好(後に部下の一人からそれが代表的なジャパニーズスクールガールコスチュームであったことを知らされるのだが)をしていた。

 そしてあっけに取られているジョセフィンたちをよそに、華麗に宙を舞って青年を守るかのごとく部下たちの前に立ちはだかると、ちょっと触っただけで折れてしまいそうなその小さな腕を、可憐な仕草でサッと一振りする。


 ゴポッ……ゴポッ、ゴポポポ――ッ!


 不意に何もないはずの空間から水の柱が複数立ち上がり、一箇所に集まって巨大な蛇のようにとぐろを巻いたかと思うと、次の瞬間にはもうそれは枝分かれしてうねりながら男たちめがけて襲い掛かっていた。


 撃ち出された水の鞭は狙いすましたかのように部下たちの顎を痛打し、脳を揺らされた男たちは立つこともままならずその場にドサリと崩れ落ちた。


 「水使い!」


 ジョセフィンは思わず叫んでいた。


 水を自在に操る能力、それは目の前の青年の力ではない。

 皇帝が直々に選んだという彼の護衛の女性の能力とされているものだった。

 彼女は自分がこの場にいないと見せかけて、召喚した妖精を使って青年を護っていたのだ。


 完全にジョセフィンの計算違いだった。


 部下たちの中で意識のある者はよろけながらも何とか立ち上がろうとしていた。しかし足が完全に笑っていて、とても戦える状態でないのは素人目にも明らかだ。


 「折角手加減して貰えたんだからその辺にしておいたらどうですか? あなたたちは能力者になるのにただでさえ命を削ってるっていうのに、それ以上命の無駄遣いをしてどうしようっていうんです?」


 青年は半ばあきれたように必死でもがく部下たちを眺めやっていたが、そんな彼の言葉には合州国の能力者に対する痛烈な皮肉が込められていた。


 ジョセフィンの部下を始めとする合州国の能力者たちには、帝国の抱えるそれとは違い、大きな制約がある。


 能力者になった後の寿命が僅か五年ほどしかないのだ。


 超常の力と引き換えとはいえ、寿命が大幅に削られてしまっては割に合わない。


 そんなことはジョセフィンにだって部下たちにだって分かっている。しかもそんな大きいリスクを背負って能力者になったとしても、必ずしも国家に役立つ能力が発現してくれるとは限らない。


 こんな表現を使いたくはないが、下手をすれば能力者に「なり損」なこともあるのだ。

 逆にどんなに優れた能力者でも五年で確実にいなくなってしまう。

 これは明らかにシステム上破綻している。


 しかし、現に帝国という能力者たちの国家がある以上、それに対抗するためには誰かが進んで犠牲になるしかない。しかも国防の中枢を担う部隊である以上、素性のしっかりとした者を選ばないとならない。子飼いの能力者に国の内側から反逆されようものなら打つ手がなくなってしまうからだ。


 そのため、能力者を増やせば増やすほど、軍の優秀な人材の命が消費されていってしまうというジレンマをも同時に抱えているのだ。


 「さて……と。そろそろここをお暇させてもらうとしましょうか」


 告げると、青年は静かに席から立ち上がった。


 ――と同時に、妖精の少女が水の刃を使って建物の壁を斬りつける。


 壁の内側には対能力者用防御板が仕込んであった筈なのだが、信じ難いことにそれはあっさりと一刀両断されてしまう。

 しかし、ジョセフィンが真に驚いたのはこの直後だった。


 「えっ、どうして?!」


 ガラリと崩れ落ちた壁の向こうには、いつからそこにあったのか? そしてそもそもどうやってここにそれを持ち込むことができたのか? 蒼銀色に輝く美しい形状をした戦闘機が一機静かに鎮座していたからだ。


 一体どういう仕組みになっているのだろうか、その機体は明らかに起動している。にも関わらず、この至近距離でも一切のエンジン音を聞き取ることができない。


 「この機体は……『轟炎』? いえ、まさか……『神無』?!」


 「ほう……よく知ってますね。そう、こいつは神無型戦闘機の弐番機『雪崩』ですよ。今は二人乗りに換装してありますけどね」


 「これが……」


 そのあまりのフォルムの美しさに状況を忘れて思わず嘆息してしまう。


 この機体こそが現在の帝国主力戦闘機『燈火』のプロトタイプにして、三十年前の戦争においてたった三機で合州国空軍を壊滅に追いやったという伝説の機体。


 そして帝国の名をその型名に冠した史上初の能力者専用戦闘機……。


 ジョセフィンが静止する間もなく青年は素早くコックピットに駆け寄ると、慣れた手つきでパネルを操作してハッチを開いた。

 ジョセフィンからわずかに見える後部座席には既に誰かが乗っているようだった。

 状況から考えて間違いなく彼の護衛の女性だろう。


 「最後に一つ忠告しておきましょうか」


 身軽な動きで操縦席に飛び乗った青年は手早く準備を済ませると、機体から顔を出してジョセフィンに向き直った。


 「もしこれからも合州国が私たちに余計な干渉を繰り返すつもりなら、あなたは栄えある合州国史上初の女性大統領という肩書きだけでなく、合州国史上最後の大統領という不名誉な形でも歴史に名を残すことになる。そのことをくれぐれも肝に命じておいてください。マダム・プレジデント」


 「なっ!」


 青年は口元に悪戯っぽい笑みを浮かべながら軽く敬礼してみせると、ジョセフィンの返事を待たずにハッチを閉じ、そのまま機体の離陸動作に入ってしまった。

 『雪崩』は助走もなしに垂直離脱で軽やかに宙に舞うと、急速発進して瞬く間に空の彼方へと飛び去っていってしまう。


 「まさか、私の正体がばれていたなんて……」


 ジョセフィンはその場で深くため息をついた。

 この俗世と完全に切り離された孤島にあんな戦闘機を持ち込むことが出来たくらいだ。考えてみればそれに関しては今更驚くべきことでもないのかもしれない。


 それにいつまでも呆けてはいられない。

 ジョセフィンにはまだ一つ大きな仕事が残っているのだ。

 彼をこちら側に引き込むことが出来なかった以上、敵の手に渡る前に速やかに始末しなくてはならない。


 携帯端末を取り出すと、素早くメモリから目的の番号を選択する。


 「――私です。ええ、急な話ですがアレの起動は可能ですか? そうですか。ちょうどいい。それを至急太平洋上を通過する目標へ向けてください。座標はすぐにこちらの基地の部下から送らせます。ええ、よろしく」


 電話を切ると、心を落ち着かせるために小さく深呼吸する。


 「まさかアレを使うことになるなんてね……」


 交渉が不調に終わったことが残念でならない。

 ジョセフィンが指示したのは、対能力者専用戦闘機用迎撃ミサイルの使用だった。


 能力者の肉体は通常の人間よりも遥かに強靭に出来ている。これが何を意味するかというと、能力者の方が常人に比べて戦闘機に乗った時のGにより耐えられるということだ。


 三十年前の戦争で取ったデータでは神無の平均飛行速度はマッハ6。ちなみに当時の合州国軍の配備していた艦対空、空対空ミサイルの攻撃速度はマッハ4。つまり仮にこちらの戦闘機がロックオンしても(速すぎてできなかったが)、神無の逃げる速さの方が上回っていたために余裕で振り切られてしまうのだ。


 しかし今回のミサイルは違う。神無がどこへ逃げようが、そしてどんなに速かろうが、どこまでも追いかけ、そして目標を確実に撃破する。

 これこそが合州国が前の敗戦を教訓に三十年かけて作り上げた、対帝国用の切り札の一つである。


 ジョセフィンは席に座ったまま、じっと青年たちが飛び去って行った方角に目をやりながら部下からの報告を待った。

 五、六分ほど経過しただろうか。ドアがノックされ、黒服の男が入ってきた。彼はジョセフィンの耳元に顔を寄せると、小声で報告を上げてくる。


 「そう、ご苦労様。下がっていいわ」


 満足そうな主の言葉に、男は一礼すると音もなく部屋を退出していく。


 「いい男だったのに、残念ね。大人しく合州国に来ていれば私の娘の婿に迎えてあげても良かったのだけど……」


 十字を切って青年たちの冥福を祈ると、ゆっくりと立ち上がる。

 すでにその瞳は遠い未来をみつめており、もう青年たちへの感傷は頭の片隅にも存在しない。

 ジョセフィンは片方が破損したままの赤いヒールでゆっくりと歩き出した。


 「三十年にも渡る長い長い冬もそろそろ終わりかしらね」


 去り際に空を見上げると、ぽつりとそう呟いた。


 いよいよ、合州国の……そして人類の逆襲が始まる。


 ジョセフィンはそう信じて疑っていなかった。

 


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