4月21日 木曜日 2
2限が終わって保健室に行くと、彼は寝ていた。
痛い部分を冷やしていたのか、枕の横には氷が入っていたであろう袋。
保険医は何か仕事があるのか今はいない。
つまり・・・2人きり。
だめだ、意識すると恥ずかしくなる。
とりあえず起こそう。
「おい、君。とっくに2限は終わってるぞ?」
体を揺すってしばらく彼は目を覚ました。
「・・・あんたか。・・・美奈は・・・いないな。紙に書いておくか」
みな?
誰だろう?
彼は机まで行って適当な紙に何か書いて、見つけやすい位置に置いた。
それからさっさと保健室を出て行く。
「あ~・・・ねみぃ・・・」
「さっきまで寝ていたじゃないか」
「それでも眠いんだよ」
「それならまだ寝ていきなよ?」
突然後か声が聞こえて振り向くと綺麗な女性が立っていた。
この人がみなだろうか?
綺麗な黒髪・・・羨ましい。
「そうしたのは山々だが・・・」
「させないからな?」
「だそうだ」
「それは残念。その子は?」
みな先生は私の方を見ながら聞いてきた。
「ほら、さっきあんたが言ってたろ?転校生の・・・そういやあんたの名前知らないな。
なんて言うんだ?」
「え?言ったら呼んでくれるのか!?」
「当たり前だろ?それで、名前は?」
「あ・・・真奈。真実の『真』に奈良の『奈』で真奈」
「そうか。んじゃ、行くぞ、真奈」
「っ////」
呼ばれた途端心臓が跳ねた。
堪らず顔を俯かせてしまった。
想像してたのと全然違う。
心臓がどうにかなりそうだ。
顔も絶対赤くなってる。
「おい、どうした?」
ずい、と彼が顔を覗き込んできた。
「きゃぁあああああ!!////」
ドン!
「ぐお!」
私はその場から逃げ出すように走り出した。
無理無理無理!
今は絶対彼の顔を見れない。
恥ずかしい!
教室に着いて鞄を引っ掴みまたすぐに出て行く。
そのまま走ってアパートまで帰った。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
玄関にへたり込む。
あんな・・・あんなに顔を近づけられたら直視なんて出来る訳がない。
ただでさえ、名前を呼ばれて心臓が可笑しくなりそうなのに。
「まだ・・・ドキドキしてる///」
走ったって言うのも勿論あるけど、それ以上に名前を呼ばれたことによる動悸の方が大きい。
胸に手を当てれば、本当に破裂でもするんじゃないかってくらい暴れてる。
「・・・・・・」
ゆっくり深呼吸して、やっと少し落ち着いた。
「ふう・・・」
どうしよう。
勢いで帰って来ちゃったけど、今からまた行ってもとっくに授業は始まってるし。
でも何も言わず帰って来ちゃったし、せめて先生には言わないと駄目だろう。
「はあ・・・すぐに出れば丁度終わる位かな?」
制服を整えて私はまた学校へ向かった。
学校に着いて教室に向かうと先生を見つけ、それと同時にチャイムが鳴った。
「先生」
「ん?おお、遠藤か。どうした?」
「すいません。3限目の授業、勝手にサボってしまいました」
「なんだ、またあいつか?」
「っ///」
また心臓が跳ねた。
「え、えっと///」
「どうした?顔が赤いぞ?」
先生はニヤニヤしながら言ってきた。
絶対にからかってる。
「まあ、いい。あいつはまだ保健室だから、どうせ授業は欠課だ」
「え?どうしてですか?」
「さっき、美奈から連絡があってな?今は気絶中みたいだ・・・お前何かしたのか?」
「いえ、何も・・・あ!」
「したんだな?」
きっと去り際にどついたことだ。
力加減が出来なかったから結構なダメージがあっても可笑しくない。
まさか、気絶する程なんて・・・
「嫌われたかな?」
不安になる。
「・・・お前、あいつのこと好きなのか?」
先生が普段とは違う真剣な顔をして聞いてきた。
「え?」
好きなのか?と聞かれれば、
「分かりません」
としか言えない。
先生はまだ真剣な顔だ。
「本当に分からないんです。彼のことをどう思っているのか・・・」
「そうか・・・まあ、今はそれでもいいだろう。だがあいつを狙うなら気を付けろ?
ライバルは多いぞ?」
「え、彼ってそんなに人気があるんですか?」
普段の様子を見ても全然そんな風には見えないけど・・・誰とも話してないし。
私の場合は私から話しかけてるから、話してくれてるだけで・・・。
そういえば今朝、先生が彼の頭を出席簿で叩いた時、普段あまり笑わない先生が笑っていた気がした。
さっきのみな先生も、普段がどうなのかは分からないけど、彼をただの生徒として見ている様な気はしなかったな・・・。
「もしかして、先生・・・」
「ほら、早く教室に入れ。欠課扱いにするぞ?」
「あ、入ります!」
流石に連続で欠課扱いされる訳にはいかない。
昨日だって午後は2限続けてサボってしまったんだから。
私は急ぎ教室に戻った。
「こういう時、教師ってのは大変だよ・・・」
入る寸前聞こえたこの言葉がどういう意味だったのか分からないまま。




