4月21日 木曜日 1
頭が痛え・・・。
風邪を引いたとかじゃなくて物理的なことが原因で。
たく、出席簿の、しかも角で叩きやがって・・・まあ、遅刻した俺が悪いんだが。
余裕があると思って二度寝したのがいけなかったか。
にしても。
「まだ痛え・・・どんだけの力で殴ったんだよ、あの野郎」
女だが。
「遅刻した君が悪いのだろう?甘んじて受けるべきだ」
彼女は隣で呆れている。
ま、それは無視だ。
問題は、今日の昼飯をどうするか?
朝は二度寝してしまって時間なんか無かったから作れなかったし、かといってまたコッペパンを食うのもな・・・金だってあまり無い。
いや、コッペパンくらい買うことは出来るが出来るだけ使いたくないしな。
どうすっかな~・・・。
まあ、寝て考えるか。
んな器用なことできねえぞ、俺。
「・・・・・・」
痛みで少しおかしくなったか?
保健室で氷もらって来るか。
俺は席を立って教室を出て行こうとしたが、彼女に止められた。
「おい、どこに行くんだ?もう授業が始まるぞ?」
「保健室だよ。痛くて頭が正常に働かないんだ。ついでにサボるから。じゃ」
「は?おい、君!」
無視無視。
保健室に着くと同時に2限開始のチャイムが鳴った。
ノックもなしに中に入ると机にむかって仕事をしている保険医がいる。
保険医は扉がスライドする音に気付きこちらを振り向く。
「あら?もう授業は始まっているわよ?」
髪は黒のロング。
瞳も黒。
背は今は俺よりはでかい。
「分かってるよ。氷もらったすぐにサボる」
「そう。自由に取りなさい?」
「ああ」
袋の中に氷を入れて布に包んで頭の頂上部に当てる。
これで少しはましになるといいがな。
あいつ見た目細いくせにやたら力があるし。
氷を当てながらベッドに向かって倒れ込む。
「あ~・・・あのアマ。あんた、あいつとは幼なじみなんだろ?なんとか出来ないのか?」
「できないことは無いが、それだと君がここにこなくなってしまうでしょ?」
「なんだよ?来た方がいいのか?」
「ええ。少なくとも、わたしは君が気に入っているからね?そういえば、君が来たのは久し振りじゃない?」
確かにそうだな。
遅刻しなければここに来ることはまず無いし、普段からそんなに怪我をする訳でもないからな。
怪我をしたいとも思わないが・・・。
「最近、何か楽しいことでもあった?」
「なんだ、いきなり?」
「涼子から聞いたのよ。最近、君が転校してきた子とよく一緒にいるってね」
涼子というのは担任の名前だ。
ちなみに保険医の名前は美奈。
小学校からの腐れ縁らしい。
2人とも今年で24になるが独身で、男性教師からはしょっちゅうアプローチを受けているそうだ。
全部断っているみたいだが・・・。
教師からだけでなく、生徒からも人気がある。
ここに来たいが為にわざと怪我をする奴や、叩かれたくてわざと遅刻する奴・・・。
実際今日も叩かれた俺を見て、恨めそうな視線を送ってくる奴がいたからな。
どちらも美人だが、そこまでする必要があるのか?
「単に隣ってだけだぞ?」
「でも、ご飯を一緒に食べたり、一緒にサボったりするくらいの仲ではあるんでしょ?」
「なんでそこまで知ってるんだ?」
「涼子情報」
人差し指をぴし、と俺に向けながら言ってくる。
「・・・暇なのか?」
「違うわ、超暇なの。君が毎日来てくれれば良いんだけどね?」
「別にいいが?」
俺が言うときょとんとする美奈。
なんか前に名字に先生を付けて呼んだら、名前で呼べって言われた。
初めて来たのは1年の2学期だから、丁度1年前くらいか・・・その時には既に俺のことを知っていたみたいだ。
「ま、あいつの授業の時はここでサボる。それでもいいならだがな?」
「いいよ!むしろ、お願いしたいくらい!」
何がそんなに嬉しいんだか・・・。
確か今日は4限があいつの授業だったな。
教科は現代文。
うん、どうせ寝るな。
「とりあえず、3限が終わったらまた来るよ。今は寝させてくれると助かる」
「うん!おやすみ!」
眠る寸前、名前を呼ばれた気がした。




