4月20日 水曜日 4
教室に戻るとちょうどHRが終わったのか担任が出てきた。
「なんだ、おまえら?仲良くサボりか?」
彼女は謝ったが俺は適当に受け流して教室に入ろうとすると、
「ああ、そうだ。おまえの机にあった弁当、あたしが食ったから」
と言ってきた。
「それ、こいつのだから俺は困らん」
「なんだ、そうだったのか?中々美味かったぞ?」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあな」
「失礼します」
うちの担任には相変わらず適当だなと思いながら教室に入り、ヘッドフォンを付けて曲を流し鞄を腕と腰で挟み、弁当箱を彼女に押しつけて学校を後にした。アパートに向かって歩いていると後から肩を叩かれ、振り向くと思った通り彼女がいた。
「なんだ?」
ヘッドフォンを外しながら聞くと、
「いつも一緒なんだ。今更置いて行かれたくはないぞ?」
ということらしい。
一度ため息をついて俺はまた歩みを再開する。
彼女は俺の隣を歩き始めた。
「別に置いて行っているつもりはないんだが?約束をしている訳でもないだろう?」
「それを言われると何も返せないが・・・かれこれ2週間は一緒に登下校をしているんだ。
誘ってくれてもいいんじゃないか?」
「誘うも何もな・・・朝はいつもあんたの方から来るし、今だってあんたの方から来たじゃないか?」
「う・・・それもそうなのだがな?
たまには誘って欲しいと思うものなんだ!」
「んなこと言われてもな・・・」
「大体いつも1人で寂しいとは思わないのか?」
寂しいねえ・・・最期にそう感じたのはいつだったか?
ここ数年は色々なことを感じなくなっている気がするな・・・いや、実際そうなんだろうな?
・・・ならば、俺は今彼女と共にいる時間をどう感じているのだろうか。
私が寂しいと思わないのか聞くと彼は何か考え込んだ。
考えながらもちゃんとアパートに向かって進む彼はある意味器用なのかもしれない。
確かにここは歩道で車などが突っ込んで来たりしない限りは安全だろうけど、そう言う所では尚のこと周りには気を配っておかないと・・・。
「まあ、いいか」
「ん?」
どうやら考えごとは終わったみたいだ。
すると彼は私が予想していなかったことを言った。
「あんた、今日俺の部屋に来るか?」
「・・・・・はい?」
え、どういうこと?
本当に訳が分からない・・・どうして急にそんなことを?
もしかしてさっき私が言ったことを?
え・・・でも、そんな急に言われても!
「別に勝手にしてくれていいぞ?来たくないなら来なくていいし、来たいなら来れば良い。
一応鍵は開けとくよ。
じゃ、俺はちょっと用事あるから」
彼はそう言ってどこかに行った。
「え・・・?あ、ちょっと!」
呼び止めても彼はヘッドフォンを付けていて聞こえていないみたいだ。
どうしたらいいんだろう?
今までこんなこと無かったから本当にどうしたらいいのか分からない。
友達の・・・いや、彼に友達と思われているかどうかも分からないけど・・・どうしたらいいのさーー!
「ああ!もう!待ってくれ!」
私は彼の後を追った。
そろそろ材料が尽きるから近くのスーパーで材料を買い足そうと思いたった今、到着した。
今日は何を作るかな?
と言ってもレパートリーも全く無いしな・・・さて、どうしたものか?
いっそ適当に野菜を炒めてみるか?
なんか色々中和やらなんやら起こって逆に美味い物ができるかも知れん。
「よし、適当に炒めよう」
「私が作りましょうか?」
突然聞こえた声に振り向けばそこには同じアパートに住んでいる女の子がいた。
「お前か。久し振りだな?」
「はい、お久しぶりです。お兄さん」
髪は青く肩もとまでのショートヘア。
目は黒。
背は彼女よりも更に頭半分ほど小さい。
中学3年生。
そしてなぜか俺のことを「お兄さん」と呼ぶ。
だから俺も「妹」と呼ぶ。
呼び方なんてどうでもいいから俺は気にしていないが・・・一応名前は知っているはずなんだがな。
「珍しいな?お前が外に出るなんて」
「人を引き込みりみたいに言わないでくれません?」
「あ~はいはい。悪かった」
女の子は「適当じゃないですか」と頬を膨らませながら材料を勝手に籠に入れていった。
どうやら本当に作るつもりみたいだ。
「それじゃ行きましょうか?」
「ん、おお」
籠を持ってレジに行き会計(俺もち)を済ませて妹外に出ると、息を切らした彼女がいた。
「何してんだ?あんた」
「知り合いですか?」
「ああ、クラスメイトだ。んで、俺らと同じアパートに住んでる」
私がアパートに着くとほぼ同時に彼は出てきた。
隣には私よりも小さい少女がいる。
誰だろう?
「それで、何してんだ?」
「あ・・・えっと、とりあえず追い掛けてきたんだけど」
「そうか。取り合えず帰ろうぜ?」
「あ、ああ」
「はい」
彼はさっきと同じように先に行ってしまい私と少女はを挟む様にして歩き始めた。
その途中、少女とは簡単な自己紹介をしたが、2人がお互いを「お兄さん」「妹」と呼んでいるのに驚いた。
だって彼は家族はいないって言っていたから。
聞こうとも思ったけど、聞けなかった。
理由は分からないけど、怖かったんだ。
「あの」
「え?」
少女に呼ばれて横を見る。
彼は先にいてまたヘッドフォンを付けている。
「何?」
「お兄さんとはどういう関係なんですか?」
「え―――?」
関係?
彼と私はただ席が隣なだけのクラスメイト。
初めて学校で話したのが彼。
初めてサボった時も一緒にいたのは彼。
初めて食堂へ行った時も一緒にいたのは彼。
登下校を一緒にしているのも彼。
「ぁ」
思い出して見ると、いつも彼と一緒だ。
でも、だからって何か関係があるのかと言われれば・・・。
「私も分からない・・・かな?」
としか言えない。
「分からない?」
「うん。確かに学校で関わることが一番多いのは彼だけど・・・だからって何か関係がある訳でもない。だから分からない」
「・・・そうですか。よかった」
「・・・もしかして、君は彼のことが好きなのかい?」
私が聞くと少女はボンとでも音が出たのではないか、と言うほどの勢いで顔が真っ赤になった。
それからあたふたして色々言っている。
もうそれだけで好きだと言っていう様なものだ。
そんな少女を見て私は考える。
今日、食堂でおばあちゃんに彼氏なのかと聞かれた後、私は彼の顔をまともに見ることが出来なかったのはどうしてなのか、と。
あの時、自分でも分かるほど顔に熱が集まっていた。
もしかしたら気付かれていたかも知れない。
でも、なぜそうなったのかが分からない。
もしかして私も彼に―――
「おい、お前らどこまで行く気だ?」
「「え?」」
彼の声によって私と未だ隣であたふたしていた少女は現実に引き戻された。
見てみるとアパートをとっくに通過している。
まさか、気付かないほど深く考え込んでいたとは・・・。
その後少女と慌ててアパートの前まで戻り、私たちはそれぞれの部屋に入って行った。
「まあ、気にしてもしょうが無いな。いつか分かる時が来るだろう」
彼のことも、今日感じた気持ちの正体も。




