4月20日 水曜日 3
『あんたなんかがいるから!』
『あんたの所為で!あたしは!』
『お前なんか生まれてこなければよかったんだ!』
全くだ。
俺なんか生まれてこなければよかった。
生まれたとして俺としてでは無く、別の誰かとしての意思を持って生まれてくればよかった。
それにしても、久し振りだ・・・家族の声を聞いたのは。
すっかり忘れていると思っていたが、以外と覚えているもんだな。
そう言えば夢は記憶を整理するために見る物だって、どこかで聞いたことがあったな。
今回の場合それは当て嵌まるだろう。
「もう6限が始まっているな」
携帯を取り出して時間を確認すると、既に6限が始まっていた。
結構寝ていたみたいだ。
それは別にどうでもいいとして、
「くぅ~・・・くぅ~・・・」
こいつは何をしているんだ?
隣では彼女が俺の肩に頭を乗せて寝ていた。
『ほら、今日は――――の好きな唐揚げよ?』
『ホント!?やったーー!』
『――――は本当に母さんの唐揚げが好きなんだな?』
『うん!』
『太るわよ?』
『む、大丈夫だもん!ちゃんと体動かしてるし!』
お母さん、お父さん、お姉ちゃん・・・。
みんながいなくなって、私はずっと悲しかったけど、今だけは悲しくないよ?
だから、心配しないでください。
今だけは・・・本当に悲しくないから。
それどころかとっても暖かいから。
「・・・お父さん・・・お母さん・・・お姉ちゃん・・・」
「起きたか?」
「え?あ、ああ・・・」
そうだ、私、彼の肩を借りて寝てたんだっけ?
彼女は家族を求めるように、言葉を発した。
多分彼女も家族の夢を見ていたのだろう。
だが、呼ぶ声が優しい響きをしていたことから、俺が見たような夢ではなく、良い夢だったのだろう。
「さて・・・俺はもう行くからな?」
立ち上がって伸びをしてから彼女に言うと、
「行くって・・・どこにだ?」
と聞いてきた。
「適当にぶらつく。あんたは勝手にしな」
それだけ言って俺は小腹が減ったから食堂へと向かった。
コッペパンでいいか。
あれくらいなら我慢できるし・・・。
少し歩いていると、後から足音が聞こえた。
まあ、彼女だろうな?
勝手にしろと言ったのは俺だから特に何も言わない。
「なあ、どこに向かっているんだ?」
「食堂」
「こんな時間に開いているのか?」
「基本どの時間でも開いてるよ」
「そうなのか?便利だな」
さっき寝ていた所から食堂までの道にある教室は殆どが空き教室で、部室として使われている為この時間は誰もいないから、こうして話していても問題ない。
「君は部活には入っていないのか?」
「それを今更聞くのか?いつも何もせずに帰ってるだろ」
「そう言えばそうだな。いつも真っ先に教室を出ている」
彼女は朝は一緒に行こうと俺を呼び出し、放課後になれば俺同様すぐに帰路に着いているから、この質問は今更過ぎる。
「そういうあんたは部活には入らないのか?」
「入ろうと思っている部活はいくつかあるのだが・・・」
「迷ってるって訳か」
「まあ、そういうことだ」
それから少しして食堂に到着し、彼女は初めて来た食堂を見て少しテンションが上がっていた。
「ここが食堂か~」
カウンターに向かうとおばちゃんがいたから、俺は予定通り余っていたコッペパンを買った。
「また、サボってるのかい?」
「精々週に2、3回程度だろ?大体授業なんか足りなかった睡眠時間を補うもんだからいいんだよ」
「そうかいそうかい。所であっちの子は?あんたの彼女かい?」
おばちゃんは彼女の方を見てそう言った。
彼女は券売機の前で何か悩んでいた。
「んなわけないだろ?」
「それもそうか・・・」
「じゃ」
「毎度あり~」
それだけ言って彼女の元まで行き何をしているのか聞くと、買うかどうか悩んでいるようだった。
「買えばいいだろ?昼飯も結局食ってないんだし」
「そうなのだが・・・財布は教室にあるのでな?」
「ああ、成る程」
俺はコッペパンの袋を開けて1口囓る。
「(くぅ~・・・)う、聞こえたか?///」
租借しながら頷くと余計に顔を赤くして俯く彼女。
「ほら?」
「え?なんだ?」
「好きなの買っていいぞ?1品くらいなら問題ないしな」
「だが・・・わ!とと・・・」
受けとろうとしない彼女に向かって軽く財布を投げると慌ててキャッチする。
彼女はその後も何か言おうとしたが、
「いいからさっさとしろ」
と言うと今度は大人しく従い、財布から金を取り出して唐揚げ定食の券を買って、おつりを財布に入れてから俺に返してきた。
「すまない。後で返すよ」
「いい。初端から返してもらおうとは思っていないからな。ほら、さっさと買ってこい?」
「あ、ああ。行ってくる」
カウンターに向かう彼女を見送って俺は適当な席に着きコッペパンをまた囓る。
半分ほど食べた所で彼女が唐揚げ定食を持って俺の正面の席に着いた。
その時彼女は俺の顔を見てすぐに俯かせた。
心なしか顔が赤い気がするが、まあいいか。
彼からお金を借りて買った券を持ってカウンターに向かい、おばあちゃんに券を出すとすぐに出してくれて、
「あんた、あの子の彼女なのかい?」
突然そんなことを聞かれた。
「え!?///い、いいえ!違います違います!///」
「おや、そうなのかい?あの子が誰かと一緒に、しかも女の子一緒にいる所なんて初めて見たから、装だと思ったんだけどねぇ・・・」
お盆を取ろうと伸ばしていた手を体の前で自分でも振りすぎでは無いかと思う位に振る。
何故こんなに慌てているのだろうか?
顔も多分真っ赤になってる。
どうしたんだ、私は?
「そ、それじゃあ!ありがとうございました!///」
お盆を取って、一瞬戸惑ったが結局彼の所に向かうことした。
席に着いて彼を見るとおばあちゃん聞かれた言葉を思い出して、また顔に熱が集まった。
堪らず下を向いてしまう。
それから数分間、私は顔を上げることが出来なかった。
「おい、早く食べないと冷めるぞ?」
「・・・・・・///」
「おい、聞いているのか?」
「聞いている///」
「なら、はやく食え?もうすぐ6限が終わる」
「何?もうそんな時間か?」
「ああ・・・ほれ」
彼は携帯を取り出して私に見せてきた。
右上に表示されている時間を見ると確かに後10分程で終わる時間になっている。
「ホントだ・・・食べられるかな?」
10弱じゃ、この量は厳しい。
ちゃんと時間を確認しておけば良かった・・・。
仕方ない、詰め込むか。
「おい、大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶ・・・だ」
急いで食べたから、味わう暇が全然無かった。
くそ~・・・。
「じゃ、すこし休憩したら戻ってこいよ?」
彼はいきなりそう言って席を立った。
「私は道が分からないんだが?」
「・・・あのなあ、もう2週間経つんだぞ?いい加減覚えていてもいいだろ?」
「ここには君に付いてきたし、今日が初めてなんだ。道なんて覚えてない」
「はあ・・・それならさっさとそれ、返してこい。入り口の所で待っててやるから」
呆れた様にため息をついて彼は入り口の所に行き壁に寄り掛かった。
それから私はお盆を返して彼の所に行こうとしたらまたおばあちゃんに声を掛けられた。
「あの子のこと、よろしくね?」
「・・・えっと・・・はい!」
最後にもう一度お礼を言って今度こそ彼の元へと向かった。




