11月28日 月曜日 少女と猫と蜘蛛
学園祭はなんの問題も無く終わり、後夜祭も大いに盛り上がった。
今日は学園祭の代休で、俺たちはゆっくりしている。
鈴野達も、少し時間があるようで、今日は同様にのんびりと過ごしている。
特に何をするでもなく、何故か俺の部屋に集合している。
まあ、なにもしないんじゃなくて出来ないんだけどな・・・。
「すぅ~・・・すぅ~・・・」
真奈を始めみんな昨日までの疲れがまだ残っているのか、熟睡しているからな。
炬燵効果でもあるんだろうが・・・。
ちなみに炬燵に入ってるのはskyメンバーと妹、涼子と美奈で、俺のベッドでは真奈と麻里が仲良く並んでおり、ノワールは二人の中間の布団の上で丸くなっている。
朝はみんなはしゃいでいたが、さっきも言った通り、疲れがまだ残っている様で、すこし騒ぐと眠ってしまった。
適当に空いたスペースに超しかけて赤坂が持ってきていた小説を読みながら、過ごす。
それは一匹の猫と蜘蛛、そして一人の少女の話だった。
あらすじはこうだ。
『ある日、日本のどこかに一匹の猫と蜘蛛が生まれた。
唯、その猫と蜘蛛には他とは違う点があった。
猫は尻尾が二又に別れており、蜘蛛は世界に存在するどんな蜘蛛よりも大きい。
そんな他とは違う点を持つ、その点を除けば一切関係の無いような二匹は、やがて一軒の家に辿り着いた。
そして、そこには一人の少女が住んでいた。
これはそんな少女と猫と蜘蛛の、日常を描いた物語である』
こんな感じだが、蜘蛛がいる日常ってどんな日常だろうな?
最初はそう思ったが、読んでみると俺は意外と面白かった。
その少女も、他の奴らとは違う点があった。
生物と話せるという点が。
人間は勿論、猫や犬、虫など、生物として分類されるモノなら、どんな種族が相手でも話せるという。
あらすじは終わり、本編が始まると、いきなりこんな台詞から始まった。
「「くも吉(ねこ助)!覚悟ーー!」」
おそらくくも吉とは蜘蛛の名前、ねこ助は猫の名前だろう。
どうやら、この二匹は言葉を話すようだ。
この二匹のケンカは日常茶飯事の様で主人公である少女は、毎日放置しているらしい。
そして、一通りケンカが終わると散らかった家の中を掃除しているようだ。
補足しておくと、少女は肩より少ししたまでのばした茶髪に、優しそうな印象を与える目をしており、学校には行っていないそうで、日々バイトに精を出しているらしい。
小学校5年生の頃に事故で死んでしまったのが原因で、親戚の者が面倒を見ようと言ったが、その頃には既に確固たる自我が生まれており、それらを全て断ったそうだ。
家事なども、物心ついた時から手伝いをしており、なんの問題も無く自分のことは自分で出来るようになっていたから、親戚もそれで納得したとか。
小学校を卒業した後は中学には行かず、近くのコンビニでバイトをして、そこの余った弁当を貰って、腹を満たしていたらしい。
そればかりではいけないということもちゃんと分かっていたから、3日に1回くらい自炊もして。
そして、時は過ぎ、16歳になった時、バイトから帰ってきたら家の前で猫と蜘蛛が睨みあっていた所を発見し、どういう訳から一緒に過ごすことになった。
今まさに猫と蜘蛛が衝突する。
と言った場面で
「ご飯出来たよー」
と少女が二匹に声を掛ける。
「「あ、はーい」」
すると二匹はピタリと停止して、少女の下へと向かっていく。
「2人ともよく飽きないわね?もう半年くらいだっけ?」
少女は降りてきた二匹にそう問いかける。
「確かにそれ位かな。なんかこいつ見てると無性に戦いたくなってくるんだ」
そう言ったのは猫の方だ。
「ああ、俺も。なんでだろうな?」
蜘蛛も同意する。
「ふ~ん・・・まあ、良いけどね?怪我とかはしないでよ?2人とも大事な家族なんだから。
いただきま~す」
少女はそう言って一足先に食事を開始する。
「分かってるよ。僕たちだって、なにも互いを痛めつけたいとか思ってケンカしてる訳じゃないんだ」
「そうそう。ただ見てると自然と苛ついてくるっていうか」
「血が騒ぐっていうか」
「まあ、なにも被害でたりしてないから、いいけどね?」
こんな風に少女と猫と蜘蛛の日常は続いていくと言う、俺としては興味のある話だった。
これはどうやら一番最初の巻みたいで、続きがいくつかあるみたいだ。
まあ、赤坂がもしまた持ってきたら、その時は読ませてもらおう。
「ん・・・?あれ、寝ちゃったんだ・・・」
本を閉じると同時に真奈が目を覚ました。
「りお・・・私どれくらい寝てたの?」
まだまだ眠そうな顔をして、聞いてくる。
「2~3時間位だな。よく眠れたか?」
「うん・・・多分。でも、まだ眠い~」
「寝てて良いぞ?適当な時間に起こしてやるから」
「わかった~・・・おやすみ~」
パタリとまた布団に倒れ込んで、すぐに真奈は眠った。
また規則正しい寝息が聞こえてくる。
俺は静かな部屋の中で、そういえば明日はバイトだな、と特段どうでもいいことを考えていた。




