11月26日 土曜日 朝 トランプ
昨晩一通り騒いだ後、大人組は何とか部屋に帰し、赤坂はそのまま真奈の部屋で寝ることになった。
鈴野達も自分の部屋に戻り眠り、俺も同じように部屋で眠った。
その際ノワールは壁をすり抜けて俺のベッドの上で丸くなった。
翌朝目を覚まし、歯磨き洗顔を済ませてのろのろと制服に着替えて、朝食を済ませる。
早く言ってもすることもない俺は、時間をどう潰そうか考えていたが、不意にインターホンが鳴り真奈が入ってきた。
確かに鍵は掛けていないが、一声くらい言った方がいいと思うぞ?
まあ、特に何をするでもなく、過ごし、赤坂はどうしたのかと聞くと、まだぐっすり眠っているみたいだ。
あいつ昨日風呂入れずに眠ってるからな・・・今の内に沸かしておくか。
風呂場に行き、準備をしてまた居間に戻る。
時計を見るとまだ7時半。
真奈も今日は昼からだそうで午前は時間がある。
「つまり暇なわけだが、何かするか?」
「・・・トランプでもする?」
というわけで2人でトランプをすることになった。
「じゃあ、神経衰弱しようか?」
「いきなり時間が掛かるやつを選んだな?まあ、いいが」
トランプを繰って適当にばらまいていく。
まあ、ホント適当にやったから間隔が30センチくらい空いている物もあるが・・・。
「あ、ノワールも参加するみたいだから、驚くなよ」
「え、何に?」
「見ていれば分かる」
神経衰弱が始まり約10分後。
「ノワールの勝ちだな」
「はや!」
「そりゃ、一回めくられた物全部覚えてればな・・・。次は何をする?」
「えっと・・・七並べ」
トランプを配り並べていく。
「さて、始めるか」
「次は負けないから!」
と意気込む真奈だったが・・・。
「また負けた」
惨敗だった。
ノワールはジョーカーの使い方が上手かったな。
狙ってかどうかは分からないが、的確に真奈が持っているカードの所にジョーカーを置いていた。
結果、真奈惨敗。
「次は?」
「う~ん・・・」
まだやるみたいで考え込む。
「じゃ、一休さんでもやるか?」
「いっきゅうさん?なにそれ?」
聞いたことがないみたいだ。
「トランプをまずは円形に並べて、そこから順番にカードを中央に置いていくんだ」
「うん」
試しに俺は一枚カードを引いて中央に置いた。
そのカードが示すのはスペードの『3』。
俺はその上に手を置いた。
「え?」
「つまりこういうことだ」
取った3を胸辺りに掲げて言う。
「中央に出たカードが『1』『9』『3』のどれかの場合、それを最後に取った奴がそのカードと、それまでに溜まったカードを貰い、最後は一番多くカードを持っていた者が負け。お手つきをした場合も同様だ。全部もらわないといけない。分かったか?」
「えっと、1と9と3だったら手を置けばいいの?」
「そう。最後でなければそのカードはもらわずに済む。ノワールは危ないからこれは見ておいてくれ」
『み!』
3のカードを戻して、その周辺を混ぜてまた並べる。
先手は真奈に譲り、俺は手を構える。
「・・・どれでもいいんだよね?」
「ああ、どこでもいい。だが、出す前に自分で確認するのはだめだぞ?このゲームの面白みが無くなるからな」
「うん」
頷いて真奈は自分の正面辺りにあるカードを取り、
「えい!」
中央に置いた。
そのカードはハートの『A』。
俺はその上に手を置いた。
「え?1ってそれなの?」
「ああ。トランプには数字では1がないからな。これが1って訳だ。ほれ」
「・・・あ、そっか。私がもらわないといけないのか」
差し出したカードを真奈に渡して、右に置いたのを確認して俺はカードを引いて中央に置いた。
「は「それ6だぞ?」い!・・・え?」
時既に遅く、真奈の手はカードの上に置かれていた。
ゆっくりと手を退けていく真奈。
そこに会ったのはハートの6だ。
「お手つきだから、これもお前のだ」
「うぅ~」
しょげながらAの上に重ねる、真奈。
「形が似てるからな・・・パット見だと数じゃなくて数字に目がいって間違えることがあるんだ。6と9以外にも、2と3を間違えてしまう場合もあるぞ?」
「え?2と3はいくらなんでも間違えないと思うけど・・・」
「ま、続ければ分かるさ」
と俺が言った時、またインターホンが鳴った。
出ようと思ったら、これまた真奈の様に返事も聞かず赤坂が入ってきた。
まだ眠そうだが。
「あ、魅沙ちゃん。おはよう」
「ん~」
「赤坂、もう少しで風呂が沸くからな?」
「うん・・・2人とも何してるの?」
とことこと眠そうな目を擦りながらテーブルに近づいて来て、空いている所に座る。
「トランプだよ。お前もするか?」
こくんと頷いたので、とりあえず真奈にした説明をして一応理解したみたいで、赤坂も参加した。
順番も丁度良かったしな。
「じゃ、赤坂からだな」
ゆっくりとした動作で適当な所のカードを取り中央に置いた。
それはどれにも当て嵌まらなかったからそのままにする。
次いで真奈が置いたカードも同様。
俺も同様で次の赤坂も同じ。
これで今溜まっているのは4枚。
次は真奈だ。
「はい。あ!」
そのカードはダイヤの3だった。
俺も手を置こうとしたが、そんな俺たちよりも後に動いた赤坂がパシイン!と音を立ててカードを弾いた。
驚きながらも俺は手を置く。
「・・・真奈のだな」
「え?・・・あ!そっか!」
その後も一休さんは続き、それぞれのカードの持ち数は以下の通り。
俺:6枚
真奈:38枚
赤坂:0
残りのカードは後10枚。
にしても・・・。
「お前どんだけお反応鈍いんだ?」
「うぅ~・・・2人が早いんだよ!」
いやどう考えても真奈が遅い。
確かに赤坂は早すぎる気はするが・・・。
動くのは決まって一番最後なのに必ず最初に手を置く。
今だ眠そうなのにも関わらず。
まあ、結果を言えばまたしても真奈の惨敗で、赤坂は最後まで一枚ももらうことなく圧勝した。
その後赤坂は風呂に入り、俺たちは上がるのを待っていた。
朝から随分と賑やかだったな。
『み~』
ノワールの間延びした声が部屋に響いた。




