11月25日 金曜日 夜 裏央
赤坂からのメールには『夜7時、木の下』と短い文章が書かれていた。
適当に時間を潰して、学校から出て、ゆっくりと歩きながら丘に向かい、着いたは良いがまだ6時半。
木を背を預けて、あと30分何をして過ごそうかと思っていると赤坂がゆっくりと丘を登ってきた。
どうやら一人の様だ。
「早かったな?」
「楽しみだったから」
「鈴野達は?」
「先にアパートに帰った。多分7時頃には着くと思う」
言いながら隣に来て、ちょこんと座る。
お互い何も言わずに、ノワールは赤坂の膝の上で丸くなっている。
赤坂はノワールの背中をゆっくりと撫でて、たまに街の方を見たり空を見たりを繰り返している。
俺は何もせず目を閉じて赤坂が話を始めるのを待っている。
空は既に暗くなっている。
そういえばもうすぐ冬が来るのか・・・今年は色々賑やかになるのかもな・・・。
「ねえ、裏央」
「なんだ?」
ぼんやりと考えていると赤坂がこちらを真っ直ぐ見ていた。
「裏央は好きな人いる?」
「・・・・・・」
その問いに少し考え込む。
1番最初に出てきたのは真奈だったが、だからと言って好きとは限らない。
単に一番接している時間が長いからかも知れないしな・・・。
そういえば、あいつと会ってもう半年以上経っているのか・・・結構早いな、時間が流れるのは。
そこからは次から次へと色んな奴と会ったな。
ファミレスで店長、チーフと会い、由香、葵と会い、この丘で赤坂達と出会って、
なんだかんだで由香は同じファミレスでバイトを始め、赤坂達はアパートに住むことになって。
海水浴に行ったらノワールに会って。
ホント、色々あったな・・・。
「分からない・・・ただ」
「ただ?」
「嫌いな奴はいないな」
「・・・・・・ん」
こちらを見たままの赤坂の頭を撫でる。
少し驚いたみたいだが、気持ちが良いのか頭を擦り寄せてきた。
俺も本当に猫を撫でている様な気がしてきて、暫くそうしていた。
「ん~・・・りおぉ~」
まんま猫だな。
「お前のことも嫌いじゃないさ・・・だが、好きな奴と言われると本当に分からない。これまで誰かを好きになったことはないからな。・・・赤坂?」
言っても反応がないので見てみると
「すぅ~・・・すぅ~・・・」
熟睡していた。
『み~』
ノワールが俺の肩に飛び乗り一声。
左手で頭を撫で、立ち上がり、赤坂を背負う。
「帰るか」
『み!』
丘をゆっくりと下っていき、街に出てアパートへの道を歩く。
ま、周りの視線は集めてしまったが、どうでもいい。
いつもよりも長い時間を掛けてアパートに帰り着くと、真奈の部屋が賑やかだった。
インターホンを押して待つと、真奈が出てくる。
「裏央!あ、魅沙ちゃんも一緒だったんだ?寝てるの?」
「ああ。鈴野達も来てるのか?」
「うん。裏央も入って?」
「ああ」
中に入ると、俺達以外全員が揃っていた。
大人組は酒が入っているのかなにやらはしゃいでいる。
その近くで鈴野達はトランプをしていた。
多分このまま騒いでいたらこの部屋で全員寝るだろうな。
「ごはん食べる?」
「いいのか?」
「うん。少し待っててね?」
「ああ、頼む」
真奈は台所に行き、料理を作り始めた。
「お前ら何してんだ?」
「あら、裏央。久し振りね?」
赤坂をベッドに寝かせて鈴野達の所に向かい聞くと、鈴野がそう返してきた。
とりあえず今しているババ抜きが終わるまで待って、次の神経衰弱から俺も加わった。
まあ、そんな時間の掛かるゲームをしている間に飯ができたから一旦中止になったが。
「いただきます」
「召し上がれ」
「夫婦?」
何言っているんだ?鈴野は。
「ああああ亜紀ちゃん!何言ってるの!////」
「あら?真奈、顔真っ赤よ?」
「初々しいわね」
「そうですね」
「う~~~///からかわないでよ!////」
賑やかだな・・・全く。
『み~』
「ん?お前も食うか?」
『み!』
「ほれ」
焼き魚を小さく取って口元に持って行くと、それをノワールは食べた。
その一口で満足したのか、ノワールはベッドに行き、赤坂の隣で丸くなった。
ベッドの近くでは大人組が賑やかに騒いでおり、テレビの近くでは真奈が鈴野達にからかわれていた。
「・・・・・・俺はこの場所は好きだよ」




