11月12日 土曜日 夕焼けと夜空
準備をしながら、真奈は崎間と岡部に昔の俺のことを聞いていた。
そんなの聞いても楽しくないと思うが・・・それよりも、よく口を動かしながら裁縫ができるな。
他の女子達は殆どが縫うのに必死な様子で手元ばかり見ているが、真奈・崎間・岡部は手元を全く見ていない。
にも関わらず縫う速度は他の女子達よりも格段に早い。
ま、話しかけると却って気が散って危なそうだからこのままにして置いた方がいいな。
早く終わるに超したことはない。
俺は裁縫なんか出来ないから看板を造ったりしている。
ボードに「メイド喫茶」とでかく書いて、後は希望があった模様なんかを付け足していく。
手伝ってくれている女子が数人いるが、口しか動いていない。
邪魔だな。
他の女子も迷惑そうにしてるし・・・。
「お前ら手伝わないなら服の方を手伝いに行けよ」
そう言うと2人は驚いた様子で俺を見た。
他の女子も同様に。
その後2人が来たくて来た訳じゃないとかなんとか色々言っていたが、
「なら帰れ」
と言うと、文句を言いながら苛ついた様子で帰って行った。
「たく。ガキじゃあるまいし」
作業を再開し、周りの音を遮断する為にヘッドフォンを付ける。
聞くのはskyのデビュー曲である「遙かな空」。
今あいつらは3曲ほど発表しているが、俺はこれが一番好きだ。
デビューしたばかりだから七日、どこか必死さがあって良い。
鈴野達も自分が演奏したいようにしているからな。
他の2つも良いが、やっぱりこれが一番良い。
ちなみに準備中、ノワールは俺の頭の上で寝ていた。
霊になってもよく寝るのは変わらないみたいだ。
昼に差し掛かった頃、一旦休憩することになり俺は昼飯を買いにコンビニへ行こうと思い、教室を出たが、後ろから足音が聞こえて見ると真奈・崎間・岡部だった。
3人も昼飯を買いに行くらしい。
「お前らは弁当を用意してると思ってたんだが?今日準備をするのは決めてたことなんだろ?」
「いやな?ホンマは午前中で終わるつもりやったんやけど作業が順調にすすんどるから一気にやろうと思ったんよ」
「佐久間くんも作業が早いし、もうすぐ看板は終わるでしょ?」
「いや、もう終わってる」
「「は?」」
「だから、看板はもう終わってるぞ?」
崎間と岡部は俺の言ってることが信じられないと言った様子で、ここで待ってろと言って教室に戻った。
「裏央ってやる時はやるよね?」
「地がでてるぞ?」
「今は2人だから大丈夫」
「ノワールもいるけどな?」
言うと右肩に乗っているノワールが一声鳴いた。
2人が戻ってきて何であんなに早く終わったのかと聞いてきたが、
「やりたいようにやったら終わった」
と言うと、何故か納得された。
崎間が言うには昔から俺に何かやらせるとすぐに終わっていたらしい。
その頃は多分、その作業が楽しかったんだろうな。
まだまだガキだった訳だし。
「図工の時なんかも、あっちゅう間に終わってたんやで?覚えとらんか?」
「全くな。それよりもさっさとコンビニ行こうぜ?腹減ってんだ」
「そうね。行きましょ」
岡部に続いて俺達も外へと向かう。
その途中に上から生徒が来たから、多分3年も準備をしているんだろうな。
由香達のクラスはホットドッグの屋台をやるんだっけ?
それくらいなら食っても大丈夫か?
コンビニのやつで試してみるか。
コンビニに着いて、裏央はサラダとホットドッグを買った。
ちょっと意外だった。
その後百ちゃんと岡部さんはそれぞれ肉まんとピザまんを買った。
私はサンドウィッチとおにぎりを1つずつ。
学校に帰って教室の適当な所に4人で固まって座り、雑談をしながらごはんを食べる。
「にしても、佐久間はえらく無表情やな?昔はあんなに笑っとったのに」
「確か中学生の頃には、既に無表情になっていなかった?」
言いながら裏央の方を見る岡部さんに裏央はさあな、と返してホットドッグを取り出した。
「・・・・・・・・」
けど、見ているだけで食べようとしない。
やっぱりダメなのかな?
と思っていると一口食べて、飲み込んでから
「これくらいなら大丈夫だな」
と言って残りも食べ始めた。
私は引き続き百ちゃん達に昔の裏央のことを教えてもらいながら、ごはんを食べた。
今の裏央からは想像できないことばかりだったな・・・。
毎日笑顔だったみたいだし。
「なんだ?」
「いや」
今はこんなに無愛想なのにね?
でも、今はたまに笑うからこそ、良いのかも知れないな・・・。
もっと笑って欲しいけど。
夕方6時になった頃、衣装が完成し、女子みんなでハイタッチをした。
裏央はあけた窓の桟に座り外を見ている。
左足の太もも辺りで手が動いているから、多分そこにはノワールがいるのだろう。
声を掛けようと思ったけど、もう少し見ていたくなって、そっと見ていた。
百ちゃん達も同じみたいだ。
夕焼け空と暗くなった空が背景となっていて、どこか神秘的な雰囲気を醸し出している。
なにか、そこだけが別の空間になったみたいな気さえする。
気がつくと私は携帯のカメラで裏央を撮っていた。
パシャと音が鳴り、裏央が画面に収まったのを確認して保存する。
「ん?帰るのか?」
その音で裏央が私たちの方を見てそう聞いた。
少し慌てながら肯定するろ裏央は桟から降りて窓を閉めた。
「じゃ、帰るか」
そう言って先に教室を出て行く裏央。
「あ、待て!それじゃ、みんな、またな?おい、裏央!」
返事も聞かずに私は駆けだして裏央を追った。
学園祭までもう少し。




