11月10日 木曜日 高校生2人
バイトを始めて約2時間後、由香と葵が来て2人の後ろに隠れるように真奈がいた。
テーブルまで案内し、注文決まったら呼べよ・・・と言って、他の客の注文を取りに行く。
それから約3分後。
注文が決まった様で真奈たちの席から呼び出しがあった。
注文を取り行くと、真奈が顔を伏せていた。
何かあったのか聞いても、2人は笑いながら、なんにもないと言うので、そうかとだけ言って注文を取り、キッチンに戻って注文を伝えた。
できた料理を持って行きごゆっくり~と言い、またキッチンへ戻るとチーフから声を掛けられた。
「真奈ちゃん、どうかしたの?ずっと下向いてるけど・・・」
「来た時からずっとだよ」
「何かあったのかしら?」
「それならすぐに言ってくると思うぞ?」
日常になっていたから分かるのが遅くなったが、あいつは1日であったことをよく話す。
楽しいことも、怒ったことも、悲しいことも例外なく離してくれる。
そんなあいつが、今更何も言わないなんてことはないと思うが・・・。
「でも、言われてないんでしょ?」
「今はバイト中だからじゃないか?流石に邪魔になることを分かってるんだろう」
「そうだといいけど・・・」
そこでまた呼び出しがあり、俺が行こうとしたらチーフが先に行った。
取り合えず暇だから皿を洗って拭いていく。
「ノワール、霊体だからと言って泡まみれの水を飲むな」
『み?・・・み!』
「だからって飛び込むな」
お店に来てからも、ずっと顔を上げることはできなかった。
裏央が注文を取りに来てもそれは同じで、見たいのに見れなかった。
「はあ・・・」
「真奈ちゃん」
「え?」
急に名前を呼ばれて顔を上げると咲さんがいた。
どうやらまた何か注文するみたいだ。
「ねえ、真奈ちゃん、裏央君と何かあったの?」
「え?いえ・・・そう言うわけでは」
「由香ちゃん達は何か知ってるの?」
私が言うと今度は由香さん達に聞いた。
由香さん達は迷うことなくさっき学校を出る時にあったことを咲さんに話した。
「成る程ね・・・それで落ち込んでるの?」
「違います。真奈がずっと下を向いていたのは裏央をみるのが恥ずかしかったからです」
「ああ・・・真奈ちゃん、裏央君のこと好きだものね?」
「え!///」
言われた途端収まってきていた顔の熱がまた戻ってきた。
何で知ってるんですかって聞きたくなったけど、見ていればすぐに分かるらしい。
私ってそんなに分かりやすかったんだ・・・。
これからは気を付けよう。
注文はジュースだけにして、料理が来るまでの間雑談をして、また裏央が来た。
「お待ち~」
由香さん、葵さんの前に料理を置いて行き、最後に私の前に置いて、
「真奈、何か俺に言うことあるのか?」
すぐに戻ると思っていたら突然裏央がそう言った。
「え?」
思わず顔を上げる。
やっと顔が見れた。
「チーフが何かお前が言いたいことがあるって言ってたんだが」
「え、えっと・・・今じゃなくても良いかな?帰ってから話すよ」
「そうか」
じゃ、と言って裏央はキッチンに戻った。
ごはんを食べて会計を済ませて私たちはそれぞれに帰路についた。
アパートに着いて着替えてからベッドに腰掛けて寛ぎ夜の8時頃にやっと裏央が帰ってきた。
「緊張してきた・・・」
ただ一緒に学園祭を回ろうって言うだけなのに、緊張する。
暫くして、裏央の方から私の部屋に来た。
「お前、今日ナンパされたんだって?由香達から聞いたぞ?」
入って来るなり裏央はそう言った。
「あ、うん。でも、ちゃんと追い払ったよ?葵さんに教えてもらったことが役に立ったの」
少し緊張が解れてきたのかすんなり話すことができた。
「そういう問題か・・・何で言わなかったんだ?」
「え?」
裏央の声がいつもと違っていて少し戸惑う。
「大体お前はもっと自覚を持った方がいいぞ?」
「・・・何の?」
声がいつもと同じになったから安心して聞くと、
「可愛いってことだよ」
「・・・・・・・・・ぇ?」
え、それって・・・どういうこと?
裏央は私が可愛いって言ったけど、それって私を見てくれてたってこと?
あ、駄目だ、また顔に熱が集まってきた。
堪らなくなって私はまた顔を伏せた。
その間裏央は何も言わず私が顔を上げるのを待ってくれていた。
どれくらいそうしていたのか、まだ熱が残っている顔を思い切って上げて、裏央の目を見る。
そうすると心が落ち着いた。
何でだろう?
好きな人の目を見ているならもっと動機が激しくなっても可笑しくはないのに・・・裏央を見ているとすごく落ち着く。
「ねえ、裏央?」
「なんだ?」
大丈夫。
言える。
「私と一緒に学園祭に行かない?」
思っていたよりもすんなりと言葉は出てきた。
「俺でいいのか?」
「裏央じゃないと、や」
「や、て子どもかよ」
「子どもだも~ん。だから保護者がいないと迷子になっちゃうでしょ?」
私の言葉を聞いて、
「はは・・・確かにな」
裏央がはっきりと笑った。
以前見た笑みよりも柔らかい。
その笑顔を見て、私は改めて実感した。
―――この人が好きだ




