5月11日 水曜日 バッタリ! その2
「裏央の家に行きたい」
7時位にバイトが終わり、店を出て少し歩いていると、突然赤坂が立ち止まり、どうしたのかと振り向くといきなりそんなことを言ってきた。
真奈達が驚いていいるが、何よりも驚いているのは、鈴野達だった。
こいつら驚くことが好きなのか?
「別にいいが、お前のマンション正反対の方向だぞ?」
「いい」
「そうか。なら、いくか」
「うん」
頷き俺の隣に並ぶ赤坂。
歩きだそうとして真奈達が止まっているのに気付き、どうしたのかと聞くと、なんか鈴野が叫びだした。
流石はボーカル。
声量は大したもんだ・・・。
だがな。
「街中で大声を出すな」
「ん!」
手を口に当てて言葉を中断させる。
全く、余計なことに喉を使ったりするなよな・・・。
手を離して大人しくなった鈴野、そして真奈達と一緒にアパートまで歩いていく。
途中で赤坂が
「ヘッドフォン、貸して?」
と言ってきたから、首から外してかけてあげた。
スイッチを押すと、少しして目を閉じ、耳当ての部分を指で叩きリズムを取り始めた。
その表情はどことなく楽しそうだ。
目を閉じてよく知らない道を歩けるな?
「ねえ、裏央?」
「ん?」
鈴野に肩を叩かれながら呼ばれ振り向くと真奈たちまでなにか言いたげな感じだった。
聞くと、俺が赤坂に何かしたのかと言われ、何もしてないと言うと信じられないとでも言うような表情をされた。
真奈達は知らないだろうから、聞いてるだけだが。
「裏央?」
「ん?どうした、赤坂?」
呼ばれて赤坂の方を見ると俺が鈴野達と話している間も進んでいたから距離が開き、俺がいないことに気付いたんだろう。
とことこ、と戻ってきて袖をきゅと摘まれる。
頭を撫でて、話の続きは歩きながらってことにして再度アパートに向けて歩を進めた。
今度は離れないように袖を摘みながら左の耳当てに指を当ててリズムを取っている。
右に鈴野が来て話を再開してきた。
「単に丘で会ってマンションまで送っただけだぞ?」
「その時点でもうあり得ないのよ・・・私達でさえ、魅沙ちゃんの家に行ったことないんだから」
「そうですよ。本当にそれだけだったんですか?」
「ホントは何かしたんじゃないの?」
「あら?由香ちゃんもしかして焼き餅?」
「なっ!違うわよ!」
「裏央・・・本当に何もしてないの?」
「そんなに俺が何かする奴に見えるか?」
別に構わんが・・・誰かが音楽を聴いている間くらいは静かにしたらどうなんだ?
それからも色々話ながらアパートに着いて、全員が入るとさすがに窮屈になるから真奈達3人には真奈の部屋に行ってもらった。
部屋に入り奥に行くと、
「おお、帰ったか?」
「おや?またまた女の子を連れてきて」
「どれだけ連れてくるんですか?お兄さんは」
また涼子達がいた。
めっちゃ寛いでるし・・・。
「お前らとりあえず妹の部屋に行ってろ。10秒以内に出て行かないと二度と入らせんぞ?」
俺が言うと3人ともすぐに立ち上がり部屋を出て行った。
「まあ、何もないが座ってくれ。後で真奈たちも呼ぶからさ」
皆思い思いの場所に座り赤坂は俺の袖をまだ摘んでいて一緒にベッドに腰掛けることになった。
適当にテレビを点ける。
「一人暮らしの割に結構片付いてるわね?」
鈴野が部屋を見回して言った。
「部屋が散らかる様なことは殆どしてないしな」
「へぇ~・・・もっと男の子らしい物があるのかと思った」
なんてことを言いながら立ち上がりベッドに近づいてきてしゃがみ下を覗き込んだ。
鈴野は棚の後を漁っており、桐野はテレビのデッキとかをチェックしている。
赤坂はまだ音楽を聞いている。
約1時間後。
「「「何もないのね(わね)(ですね)?」」」
何を求めていたんだろうな、こいつらは?




