5月11日 水曜日 バッタリ! その1
「今考えてみれば、なんか・・・おもしろい奴だったわね?アタシたちを見ても、騒ぐでもなくサインを頼んだりするでもなくさ」
「そうね・・・自惚れてるわけじゃないけど、街中とかで見つかったら少しは騒がれくらいには、なってるわよね?」
「もっと、練習しないとだめでしょうか?」
「それは勿論だけど・・・多分あいつ、裏央だけなんじゃない?あんな反応するのは・・・それに」
亜紀はそこで言葉を切ってわたしを見た。
沙羅と莉子も続いてわたしを見る。
どうしたのかと思って本に向けていた顔を上げてみんなを見ると何か・・・興味津々て感じだった。
「ねえ、魅沙・・・なにか良いことあった?」
亜紀が聞いてきた。
「・・・交換した」
「交換?何を?」
「メールアドレスと電話番号」
「・・・え?」
亜紀が間抜けな声を出して、その後、
「「「えええええええええ!!」」」
3人が揃って叫んだ。
そして、なにかわたしが男になんとか~とか言ってたけど、わたしはまた本に集中することにした。
今日は裏央もバイトがあるから丘に行っても会えないし・・・どうしてこんなに会いたくなるんだろう?
「・・・・・・・」
分からない・・・。
本を一旦閉じて鞄から携帯を取り出す。
着信履歴をみると、1件だけ入っていた。
仕事関係かなと思って、送り主を見てみる。
「あ、裏央だ」
「え?」
「なに?どうしたの?」
亜紀たちが集まってきた。
別に見られて困る訳でもないと思ってメールを開く。
『思ったんだが、丘じゃなくても、店に来ればすこし話す位はできるぞ?お前らの仕事が落ち着いていればだが』
メールにはそう書いてあった。
確かにそうだけど、そんな人が多い所に行ったら、少なからず注目を集めてしまう。
「行ってみる?あいつのバイトって興味あるし・・・今日はもう何もないしさ」
「で、でも・・・大丈夫でしょうか?」
「あの人なら大丈夫じゃない?多分何も言わないわよ」
みんなは行く気みたいだ。
「アタシたちはオッケーっと・・・それじゃ、魅沙が決めて?」
「え?」
いきなり亜紀に言われてわたしは顔を上げた。
「送られたのは魅沙なんだから決めるのは魅沙よ・・・どうする?」
「・・・・・・いk「はい決定!」え?」
まだ言いかけてたのに・・・。
みんなはさっさと準備を始めていた。
結局裏央に、行くとメールを送って、場所を教えてもらった。
ついでに名前も教えてもらいたかったけど、裏央が教えたくないって言ったから、行ってからのお楽しみということになった。
「裏央」
どんなことしてるのかな?
「今日は行く?」
いつもの様に真奈たちと弁当を食べたりして、昼休みを過ごし午後の授業を受けて帰ろうとしている時に、葵がそう聞いてきた。
多分店に行くかどうかを聞いているんだと思うけど。
「う~ん・・・そんな、毎日行ってもいいの?迷惑になったりしない?」
お店の人も覚えてきたのか、あたし達が行くと絶対裏央か真奈が来る。
忙しい時はやっぱり無理みたいだけど、大体はそうだ・・・。
まあ、そんな時でも裏央は淡々としてるけど・・・真奈はかなり忙しそうにしているのに。
今日はどうなんだろう?
2人とも終わってすぐに店に行ってたから、もしかして忙しいのかな?
「行くだけ行って・・・忙しそうだったら帰る」
「ええ」
結局いくことにして、あたしたちは店に向かった。
商店街を寄り道をしながら進んでいき、裏央に教えてもらった店が見えてきた。
店の前について看板を見ると、そこには『ハッピースマイル』と書かれていて、亜紀達はなぜか笑っていた。
なんでもイメージに合わないそうだ。
店に入ると可愛らしい女の子が出迎えてくれた。
席に案内されて、そこに座り、メニューを見る。
みんな食べたいものが決まって、亜紀がボタンを押し、店員が来るのを待っている間、わたしは本を読んでいた。
足音が聞こえて誰かが来たのが分かる。
「「「あ」」」
みんなが声を上げた。
どうしたのかと思ってわたしも顔を上げようと思ったら、
ポン、と頭に手を置かれた。
この感覚、昨日と同じだ。
顔を上げるとそこには
「よお」
裏央がいた。
「ぁ」
手を離されて少し残念な気持ちになる。
「あんた、結構似合うわね?その格好」
「そうか?由香には笑われたが・・・」
「そんなことないわよ。似合ってるわ」
「良いと思いますよ?」
「まあ、お前らが言うならそうかも知れんが・・・ほれ、注文は?あんま、長く話してるとあいつ怒るんだよ」
「あいつって?」
わたしは気になって聞いてみた。
それからその人のことや、さっき言っていたゆかという人のことなどを教えてもらった。
結局3分くらい話し込んでいたけど、他のお客さんも店員も何も言わなかった。
慣れてるのかな?
「で、注文は?そろそろ「裏央!」・・・来たよ」
何か言っている途中で女の子の声が聞こえた。
見てみるとさっき席に案内してくれた人だった。
「どれだけ時間掛けてるの?注文ははやく取ってよ!」
「今から取ろうとしてたよ・・・」
それからもその場でなんか言い合って・・・違うかな?
女の子の方が一方的に言っていた。
またそれで2分ほど経って、新しいお客さんが来た。
女の子が最後に何か言ってその人たちの所に行くと、なぜか3人でこっち、正確には裏央の所に向かってきていた。
「裏央くん、相変わらずね?それで店長に怒られたりしないの?」
「いつかクビになるわよ?」
「え!裏央、クビになんかなったら嫌だよ!」
「大丈夫だって・・・こんな風に話すのは客が少ない時だけだ。今は少ないだろ?」
言われて見ると確かにお客さんはあまりいなかった。
「ん?・・・あれ、もしかして・・・貴女達!」
見ているとショートヘアの女の子がわたし達をみて声を上げた。
「え、アタシ達のこと?」
「そう!もしかして、sky!?」
「ええ」
「なんでこんな所に?」
「俺が呼んだんだよ」
「は!?」
「まあ、信じられないかも知れないけど、本当のことよ?この娘が来たいって言ったからね」
それかれとりあえず簡単な自己紹介をして、知り合った経緯なんかを話した。
裏央と真奈もバイトが終わったのか、しばらくして制服で出てきた。
「帰ろうぜ?」
裏央の一言でわたしたちは店を出た。




