4月30日 土曜日 ピクニック その1
朝起きても俺が離さなかったのか、真奈が離れなかったのかは分からないが、くっついたままだった。
真奈を起こさないようにそっとベッドを出て、洗面と歯磨きをして朝飯の準備を始める。
暫くして、枕を抱いたまま真奈が起きてきた。
座らせて飯を持っていき、食べて部屋に送り返して完全に目が覚めるまで待って、今日の確認をして俺がアパートを出たのが、1時間ほど前のこと。
時刻は8時ちょいすぎ。
集合時間まではまだまだある。
なのに・・・
「なんでもう居るんだよ」
「あんたこそ、なんでいんの?」
由香がすでに周辺をぶらついていた。
ここは昨日来た公園で、適当に時間をつぶそうと思って来たらこいつがいたんだよな・・・。
「もしかしてあんたも参加するの?」
「んなわけ無いだろ?大体自分を嫌ってる奴が参加する奴がいるか?
お前だって俺が居たら来ないだろ?」
「当たり前でしょ」
「というわけで、俺はとっとと退散する」
「どこにでも行きなさいっての」
その由香の言葉を聞きながら公園を後にした。
先に行っておくかな・・・メール、メールっと。
適当に内容と俺がいくことと伝えないようにと書いて送信して携帯を閉じる。
少しし携帯が震えて見てみると電話だった。
「どうした?」
『どうして言っちゃ駄目なの?』
「俺がいるって知ったらあいつは来ないぞ?」
『え~・・・』
「分かっただろ?まあ、散歩してたとか言えばなんとか誤魔化せるだろ」
『・・・分かった。でも絶対いてよ?』
「ああ」
そう言って電話を切り俺は丘に向かった。
ゆっくり歩いたからか1時間半ほど掛かって俺は丘に到着した。
木の下に座って目を閉じ、眠りに着く。
ゲシ!
「いって!」
突然の衝撃に目を覚まし見てみると片足を上げたままの由香が居た。
後には真奈たちもいて、困ったような笑顔を浮かべてこっちを見ている。
いや違った。
涼子だけは楽しそうな顔してる。
「また会ったな?」
「なんでいんの?」
「散歩してたらいつの間にかここまで来てたんだ」
言うと怪訝な顔で俺を見てくる。
「本当に?」
「嘘つく理由なんか無いだろ?」
「・・・・・」
「由香ちゃん・・・いいじゃない別に。裏央くんだって別にいいでしょ?」
「こいつがいいならな?」
「あたし?」
みんなに見られて、由香は仕方なくと言った風に頷いた。
「それじゃ、ごはん食べましょ?沢山作ってきたので」
真奈はそう言いながら持ってきたブルーシートを広げた。
その上に皿と重箱を置いて準備完了の様だ。
俺はまだ木の下で寛いでいた。
街の方をみるといつもとは違う風景が見えた。
人が行き交う商店街も少し上からみるだけで大分違う。
「裏央」
不意に名を呼ばれてみると真奈がサンドウィッチを皿にのせて持ってきていた。
野菜が多く使われた物で、もしかしたら俺のことを考えて作ってくれたのかも知れない。
「サンキュ」
皿を受け取って食べ始めると真奈が隣に座った。
今日の真奈の格好は薄い長袖にストールとホットパンツ?っていうのか、そんな感じの服で動きやすそうだった。
まあ、木登りの為だろうが。
一口囓り咀嚼する。
「お、美味い」
「ホント?」
「ああ。どこがどうとかは分からんが、美味い」
「えへへ・・・よかった」
隣で笑顔になる真奈。
なんか涼子と美奈が
「やっぱり料理くらいできないと」
とか言っていた。
葵はこちらを見て微笑んでおり何を思っているのか計れない。
由香はそんな葵と話しながら楽しそうに食っている。
入学した時はこんなことをすることになるなんて思っても見なかったが、案外悪くないな。
これからはちょくちょく来るか。
誰も来ないからゆっくりできるし・・・。
「裏央・・・由香さんには言わないの?本当は散歩じゃないって」
「楽しんでるならそれでいいだろ?」
「そうだけど・・・」
「それよりお前も食えよ?折角作ってきたんだから」
「うん」
真奈はシートに戻り自分の分を皿にのせてやっと食べ始めた。
ブブブブ・・・。
携帯が鳴り表示を見ると店長だった。
「なんだ?」
『悪いがこれから出れないか?2人ほど急用でこれなくなってな?』
「ああ、分かった。30分くらい掛かるがいいか?」
『来てくれるだけでも助かるんだ・・・構わないよ。悪いな?』
「いいさ。じゃあな?」
『ああ』
通話を切ってこちらを見ている真奈たちにバイトが入ったことを説明した。
また真奈が悲しそうな顔をしていたから、頭を軽く叩いて一応謝ってから俺は店に向かった。
下り坂を走って行くのは危ないかとも思ったが、急がなければならないこの状況でそんなことは言っていられないからな。
一気に坂を下って道に出てそこから速度を上げていく。
その甲斐あってか思っていたよりも早く店に着いた。
中に入るとチーフが居たから挨拶だけして着替えてキッチンに行くと丁度料理ができた所だった。
「これ、何卓だ?」
「6卓だよ?あれ、きみ今日休みじゃ・・・あ、助っ人?」
「そういうこと。持って行くぞ?」
「うん。よろしく」
ホールに出て料理を持って行き、別の所からの注文などを受けてキッチンに戻り伝える。
「おお、来てくれたか」
店長が出てきてまた謝られたが気にするなと言って、呼び出しがあるまで待機。
適当に話していると呼び出しが掛かったのでまたホールに行き注文を取る。
この店の客もいくから慣れて来たのか、俺がため口で接客することに何も言わない奴が多くなった。
「お前、相変わらずだな?」
「別にいいだろ?」
「まあな」
何人かはこうして話しかけてくるようにもなった。
昼が近いからか客が多くなってきて、2時くらいまで結構忙しかった。
それからは客足も落ち着いてきて、店長が今の人数でも十分回せるようになったから帰っても良いと言ってきたが、俺はどうせだから最後までやると言って断った。
そして、時刻が5時を回った時、また呼び出しがあって出て行くと、
「あ、裏央!」
真奈達が居た。
意外なことに由香もいる。
無理矢理連れてこられた画が普通に想像できるが・・・。
「来たのか?」
「こいつがお前といたいって言ってな?」
涼子はそう言いながら真奈を見た。
「そうなのか?」
「だって・・・寂しかったから」
「裏央君の前だと、真奈ちゃんキャラが変わるわね?」
そうだろうか?
「ま、とりあえず注文は?つってもお前ら腹減ってないだろ?」
「ポテト」
「はいよ」
言われたメニューを打ち込んでいく。
「・・・何も言わないの?」
「そしたらまた怒るだろ。ま、あん時は悪かったよ。じゃ、少々お待ちを~」
自分でも分かる程やる気のない声でそう言ってキッチンに戻り、あまり時間も掛からずできたポテトを持って行く。
すると少し変化が。
「由香は帰ったのか?」
そう、由香が居なくなっていた。
「ええ。はいこれ」
「ん?」
ポテトを真ん中に置いて葵から差し出された紙を受け取る。
見ると番号とアドレスが書いてあった。
裏を見ると真ん中に
『あたしもごめん』
とだけ書かれていた。
「なあ、葵?」
「なに?」
「あいつって不器用なのか?」
「そうかも知れないわね?」
葵はくすくすと笑っていた。
真奈も心なしか安堵したような顔をして俺を見ていた。




