4月29日 金曜日 夜 その2
風呂から上がってみると、真奈はヘッドフォンに手を当てて目を閉じて音楽を聴いており、詩を口ずさんでいた。
その声を聞いていたいと思い、俺は静かにベッドの近くに腰掛けた。
聴いているのは静かな曲だが、なんというか真奈に合っている。
そう感じた。
目を閉じて、俺も口ずさむ。
暫く部屋には俺と真奈の声が響いた。
曲が終わって、俺は目を開いた。
真奈は次の曲に行っており、今度はさっきよりも早いリズムの音楽でヘッドフォンをトントンと指で叩いてリズムを取っている。
聴いたことがない曲だったのか、口ずさんではいなかったが、楽しそうだった。
時刻は9時4分。
真奈が来て2時間が経っていた。
意識していないときは時間ってのは直ぐに流れていくな・・・。
明日の出発時間とか決めないとな。
集合時間と場所も。
テーブルに置いている携帯を取り、葵に、明日の集合場所を決めたいから住んでいる所を教えてくれという内容にゆかには教えるなとメール送り、返信を待つ。
ブブブブ・・・と返信がきたことを伝える携帯を開き、メールを開く。
『住んでいるのはあなた達のバイト先の近くよ?由香ちゃんも近所。
だから、集合場所はハッピースマイルでどう?時間はそっちに合わせるから、決まったらまたメールしてね?由香ちゃんには言ってないけど、明日は一緒にいくからね?』
成る程、近いからあんなに来ていたのか。
携帯を閉じて、真奈に呼びかけるが、未だ音楽を聴くのに夢中なのか聞こえていない。
「・・・・あ・・・」
俺は真奈からヘッドフォンを取った。
いきなりのことに驚き、目を開いた真奈と俺の目が合う。
「・・・りりりりり、裏央!////いつからいたの!////」
なぜどもる?
「5分位前からだな・・・で、明日のことだが、待ち合わせ場所はバイト先に決まった」
「え?あ、ピクニックの?」
「そうだ。時間はこっちに合わせるみたいだから・・・何時にする?あまり早い必要はないと思うが」
そんなに急いで行くものでもないし、ゆっくり楽しめた方が良いだろう。
「店が開くのは10時だから・・・10時半くらいでいいんじゃない?」
「んじゃ、決まり。涼子達には後で伝えよう」
「うん」
俺は葵に集合時間が決まったことのメールを送った。
直ぐに返信が来て簡単に
『了解です』
と書かれていた。
それから弁当のことなどを話し合って過ごし、時刻が10時を回った頃、部屋の扉が開き涼子と美奈が入ってきた。
そして遅れて妹も・・・。
どうやら、涼子達から聞いて急ぎ戻ってきたらしい。
なぜ真奈がいるのかという疑問が出たが明日の打ち合わせと適当に誤魔化し、集合時間やらを説明していく。
特に反対意見が出ることもなく話しは進み、涼子達はそれぞれの部屋に戻っていった。
急に先生たちが来た時はびっくりした。
せめてノックくらいして欲しい。
どうして、私がいるのかと聞かれたが裏央が誤魔化してくれた。
それから明日のことを話して先生達は部屋に帰っていった。
「俺はもう寝るが、お前はどうする?泊まるんだろ?」
心中で安堵の息をついていると裏央にそう聞かれた。
「あ、それなら私も寝る・・・テーブル動かしてもいい?」
動かさなくても大丈夫かも知れないけど、もし寝返りを打ったりして、テーブルの方だったら確実に頭をぶつけてしまう。
そう思って聞いたんだけど、
「必要ないぞ?」
と裏央は言った。
「ベッドはお前が使っていい。俺はソファで寝るからな」
「え、そんな・・・だって、この部屋は裏央のだし、悪いよ」
「俺は構わない。電気消すぞ?」
パチッとスイッチを押して電気を消して急に暗くなったから裏央が見えなくなったけど、ソファが軋む音がしたから、横になったんだと思う。
私も、こうなったらおとなしく従った方がいいかなと思ってベッドに入り、
「お休み、裏央」
と言って目を閉じた。
「ああ、お休み、真奈」
裏央の返事を聞きながら。
「っ!」
暫くして、眠りが浅かったのか物音で目が覚めた。
風が強いのか窓ががたがたと鳴っている。
雷が鳴っていないだけましだけど・・・それでも夜にこういう音を聞くのは怖い。
一度意識してしまうと、目を閉じても中々眠れなくて、30分くらい経っても眠れなかった。
枕を抱えて起き上がりベッドから出て、裏央の所に行って、
「裏央・・・裏央、起きて?」
呼びかけながら体を軽く揺する。
「ん・・・ん?真名か?」
裏央は直ぐに目を覚ましてくれた。
「うん」
「どうした?」
「物音が怖くて、寝られなくなったから、一緒に寝てもいい?」
「・・・・・・・」
「裏央?」
珍しく返事がなくて、もう一度名前を呼ぶ。
「はあ・・・狭くてもいいのか?」
「うん。裏央が近くにいると安心できるから」
雷の時もそうだったけど、裏央に抱きしめられていると怖くなくなった。
「分かったよ」
裏央は起き上がって、先に私にベッドに入るように言った。
おとなしく先に入り、隣に裏央が入ってくる。
肩と肩が触れあって、なんだかそれだけで安心できた。
「もう少しそっちに寄れないのか?」
「離れるからやだ」
「・・・はあ。じゃあ、いっそのこともっとくっつくか?」
「え?どうやって?」
「こうやって」
「ひゃ!!///」
裏央がいきなり腕を回してきた。
それで一気にお互いの体が密着する。
「こ、これは・・・恥ずかしい////」
「じゃ、離れるか?」
「・・・ううん。このままがいい///」
心臓がすごいドキドキして、聞こえてるんじゃないかった思う。
「・・・・・」
「ぁ」
裏央が頭を撫でてきた。
気持ちいい。
「ま、こわいことなんか何もないからな?ゆっくり眠れ」
「うん・・・ありがとう。おやすみ、りお」
「ああ」
目を閉じると眠気がゆっくりと広がって、私はすぐに眠りに付いた。
全く・・・少しは自分のことを考えて欲しいもんだな。
今日見ていて気付いたが、こいつは結構可愛い顔立ちをしている。
それに気付くとな・・・まあ、いいか。
「たく、無防備に寝やがって」
どうなっても知らねぇぞ?




