4月29日 金曜日 2
「お~い。裏央・・・こっちだ」
「何でいるんだよ・・・」
真奈に呼ばれてホールに出てみればいきなり涼子に呼ばれた。
美奈もいるし、ホントどういう訳か葵とゆかまでいる。
ゆかは相変わらず俺をみると顔を顰めるが・・・。
近寄って注文を聞き、ついでに明日のことを伝えた。
「おお、いいなそれは」
「そうね・・・ピクニックなんて久し振り。葵ちゃんと由香ちゃんも行くでしょ?」
「ちなみに真奈は全員で行く気満々だったぞ?」
多分。
ゆかが俺もいるのかと聞いてきたから、想像に任せると言った。
いるってはっきり言ったら行かないとか言い出しそうだし・・・そうなったら、真奈が悲しむ。
キッチンに戻って、注文を伝え真奈に明日のことを伝えると、嬉しそうな顔をした。
聞いたかと思っていたが、何でも行ってすぐに俺を呼べと頼まれたらしい。
「はあ・・・」
溜息しかでないな。
まだ開いてすぐの時間だったからなのか、あまり客は来ずに暇な時間が流れた。
やることも殆ど無くなり、今は真奈、チーフとなぜか店長もいる。
俺はその後数分して呼び出しがあったので、またホールに向かった。
「またお前らか・・・今度はなんだ?」
「ああ、明日のことだが、場所はどこなんだ?」
「学校の裏の丘だよ。でかい木が一本あるだろ?」
「へぇ・・・懐かしいわね。昔はよく遊んだよね」
「そうだなぁ・・・」
「で、注文は?」
「ああ、私はアイスコーヒー」
「わたしはレモンティー」
「コーラ」
「わたしはミルクティーをお願いね?」
涼子、美奈、ゆか、葵の順で言ってきた。
ゆかも注文だけなら言ってくれるが、それ以外は本当に全く話さないんだよな。
俺がいない間は話しているんだろうか・・・。
「そんじゃ、ちょいとお待ちを~」
キッチンに戻り、それぞれの飲み物をグラスに入れて盆に乗せてから持って行く。
その時に一瞬だけゆかの笑っている声が聞こえたが、俺を見て直ぐに外を見始めた。
「お待ち」
テーブルに置いてキッチンに戻る。
客が増え始めたのか、すこしずつ呼び出しの数が増えていった。
時計を見ると11時を指している。
確かに増え始める時間だ。
真奈も忙しなく動いているし・・・俺より小さいからなのかどうかは分からないが、その姿がなぜか小動物の様に見えて微笑ましかった。
さて、俺も行くか。
開店から約1時間後。
先生たちはまだいるけど、他にもお客さんが来始めた。
呼び出しの数が多くなって、さっきまでみたいに話している余裕もなくなり、今はあっちこっちを行ったり来たりしている。
でも、慣れてきているのか、こうして忙しなく動いていることが楽しく思える。
小さい頃から体を動かすのは好きだったけど、それとはまた違うところが楽しい。
裏央がどう思ってるかは分からないけど。
暫く忙しく動き続けて、落ち着いたのは約1時間後のことだった。
キッチンに戻り注文を伝えて、流しのところで待機する。
チーフも今は注文を取りに行っていてここには私一人。
後では料理をつくる音が聞こえる。
明日のお弁当の中身はどうしようかな?
とりあえず裏央のことを考えて野菜を多く使ったサンドウィッチとかが良いかも知れない。
「楽しみだなぁ」
早く明日にならないかな?
明日のことに期待を寄せながら、私は今週最後のバイトをこなしていった。
裏央は相変わらずため口で接客していた。
「さて、帰るか」
「うん」
午後6時。
バイトも終わり、俺たちは並んでアパートに向かって歩き出す。
土日は休みで、明日はピクニック。
ゆかが来るかは分からないが、もし来るなら俺は遅れて行くか、行かないかだな。
折角のピクニックなのに楽しめないんじゃ意味がない。
「裏央はあした食べたい物ある?」
真奈が突然聞いてきた。
「まあ、肉類があまりなければそれでいいが・・・お前が作るのか?」
「そのつもりだけど・・・もしかして、食べたくない?」
なぜか悲しそうな顔で聞いてきた。
「んなわけないだろ?お前の飯が美味いのはすでに知ってるし、たまには自分以外の飯も食いたいと思うさ・・・楽しみにしてるよ」
俺が言うと、真奈は一気に嬉しそうま顔になった。
「そっか。良かった。頑張るから、期待しててね?」
「ああ」
俺は短く返事をして真奈の頭に手を乗せた。
そのままくしゃくしゃとなで回す。
「わ・・・なに?」
「なんとなくだ。なんか、今日忙しなく動いてるお前が小動物に見えてな・・・」
「小動物?私が?」
「ああ」
「でも、それなら・・・言ったら失礼かもだけど、由香さんの方が」
「あいつは間違いなく猫だな」
「猫?」
言いながら手を頭から離すと真奈が小さく声を漏らしたが、特段きにせずに話し始めた。
「ずっと俺のことを警戒しているというか・・・明らかに嫌ってるだろ?猫は怒ったときとかはどこをどうする?それをあいつに当て嵌めてみろ」
「・・・・・怒ったとき・・・・ああ、成る程、確かに」
あまり時間もかけずに答えが出た様だ。
1人で納得している。
「じゃあ、私は?」
「ウサギ」
俺は止まってから横を見て直ぐに言った。
「え?」
あまりに即答したから驚いたようだ。
「なんで?」
「何となくだが、お前寂しがり屋だろ?」
「・・・・・うん///」
恥ずかしいのか赤面して俯きながらも肯定した。
そんな真奈の頭にまた手を乗せて今度はそっとなでる。
「雷に怯えていた時、お前は家族を求めた。当たり前のことかも知れないが、俺にはそれが寂しがっている様に写ったんだ・・・だから、ウサギ」
今は学校でも葵たちがいるから大丈夫だろうが、あの2人は来年に卒業するし、それまでに親しく出来る奴がどれくらい出来るかは分からないが、こいつの人柄なら何とかなるだろう。
「裏央はどこにも行かない?」
「行くところなんてないさ」
「うん・・・ねえ、裏央?」
「なんだ?」
また明日のことを何か聞いてくるのかと思ったが、
「今日、部屋に行ってもいい?」
全く違うことだった。
どうやら、こいつは本当にウサギらしい・・・。




