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俺と私  作者: 大仏さん
12/50

4月21日 木曜日 5


一旦解散した後、少しの間止まっていた雷が鳴った。

真奈の学校でのあの恐がり様はかなりのものだ・・・1人で大丈夫だろうか?


「と、考える暇があるなら向かうか」


部屋を出て隣の部屋に行き、インターホンを鳴らす。


ピンポーンと気の抜ける音が鳴って待っていたが、一向に出てこないから入った。

奥に入り見てみるとベッドに隠れている真奈を見つけた。

盛り上がってるからな・・・すぐに分かる。


外が見えないようにする為かカーテンは閉まっていた。


やはり怖いのだろう。


ベッドに近づき布団の上から軽く叩く。


「おい、真奈。大丈夫か?」


「・・・りお?」


聞こえた声は震えていた。


「ああ。ほら、出てこい。腐るぞ?」


「いや。雷、怖いもん」


「大丈夫だ。怖いなら俺がいるから」


俺なんかがいても意味は無いが、1人よりは断然いいだろう。


1人だと気を紛らわすことができないからな・・・休みの日なんかはかなり暇だった。

妹も休みの日だけは活発になるし。


しかも決まって月曜の朝に帰ってくる。


まあ、今はどうでもいいか。


「ほんとうに?どこにもいかない?」


布団から顔を少しだけ出して涙目で尋ねてくる真奈。


言葉からも予想できたが、普段は無理にあの言葉遣いなのかも知れない。

今は子どもみたいになっているし。


今の真奈はたぶん家族にだけ見せる真奈なんだろうな・・・。


「行かないさ。だから出て(ピシャァアン!)「きゃあ!」あ、たく・・・」


途中で雷が鳴りまた引っ込む真奈。


このまま会話するのも面倒だから布団を剥ぎ取った。


「あ!やだ!返して!」


「・・・怖くねえって。深呼吸しろ」


布団を取り替えそうと手を伸ばす真奈にそう言うと、


「え?うん・・・すぅ~・・・はぁ~・・・(カッ!)っ!」


深呼吸してまた途中で雷が鳴った。

その所為でベッドに蹲る真奈。


いい加減うぜえな・・・雷。


「う・・・ぅう・・・おとうさぁん・・・・おかあ、さん・・・おねえちゃん・・・怖いよぉ・・・」


「・・・・・・」


震える声で家族を呼ぶ真奈。


その姿は本当に子どもの様で、何故だか守らなければと思った。


頭から布団を掛けて胸の前で合わせ、顔だけが出るようにする。


「ぇ?」


「そのまま後ろ向け」


「・・・どう、して?」


「いいから」


ゆっくりと後ろを向く真奈。


そして、後からそっと抱きしめた。


俺はどうしてこんなことをしたのだろう?と思ったが、これで真奈の気が少しでも紛れるならそれでいい。


「ぁ・・・りお?」


「嫌かも知れないが、今は俺のことだけ考えてろ。少しは気が紛れるだろ?」


「・・・うん」








りおに抱きしめられて、一瞬何が起きたのか分からなかった。


でも、なんとか理解して、りおに自分のことだけ考えろと言われて、私はそれをすんなりと受け入れた。


いやじゃないよ?


言われた通りりおのことを考えて、まだ名前以外ほとんどのことを知らないことに気付いた。


「ねえ、りお」


「なんだ?」


「りおって女の子の好みってあるの?」


「・・・いきなりなんだ?」


問うと少し間があって答えた。


なんだ?と聞かれたら、りおのことを考えていたからとしか言えない。


「いいでしょ?どうなの?」


「別にいいが・・・今まで誰かを好きになったことなんて無いからな・・・好み、というより理想と言った方がいいかも知れないが・・・」


「うん」


「多分、この先好きになった奴が俺の理想なのかも知れない」


「結局、分からないってこと?」


「ああ」


「そっか・・・じゃあ、好きなことは?」


「寝ること」


「今までで一番楽しかったことは?」


「・・・覚えてねえな・・・お前は?」


次はりおから質問された。


「家族で海に行ったこと・・・りお?」


家族と言ったら回されているりおの腕がぴくりと動いた。


「なんでもない。それで?」


「うん。スイカ割りとか砂でお城を造ったりとか・・・かき氷を食べてお姉ちゃんと一緒に頭がキーンってなったりね?それでもまだ食べるお姉ちゃんを見て、お父さんお母さんが優しく笑ってた。

昔のことだから、細かい所は覚えてないけど・・・一番楽しかったことって言われたら、真っ先にこれが出てくる」


「そうか・・・仲、いいんだな?」


「うん。本当に楽しかったんだ・・・でも、もう会えない」


「・・・・・」


りおは黙った。


何か言って欲しかったけど、我が儘だよね?


「すまないが、俺は気の利いたことなんて言えない。

だが、今お前は1人じゃないだろ?」


「っ!」


そうだ・・・。


「少なくとも、今この瞬間は俺が一緒にいる」


そうだ・・・今はりおがすぐ近くにいる。


今だけじゃない。


こっちに来てからずっとりおは近くにいた。


今日も学校で雷が鳴った時だって、優しく頭を撫でてくれた。


それだけで安心できた。


「だから今は何も心配せずにゆっくり眠るといい。近くにいるから」


「・・・うん」


私はその後、ベッドに横になった。

りおが布団をそっと掛けてくれて、椅子を持ってきて近くに腰掛けた。


「りお・・・手、にぎってもいい?」


「・・・ああ」


「ありがと」


手を出すと優しくその手を取ってくれた。

それだけですごく安心する。


外はまだ雷も鳴ってるのに、今は怖くない。


「側にいてね?りお」


「ああ」


りおはそう言って微笑んだ。


「ぁ」


「ん?どうした?」


「りおの笑顔って・・・綺麗」


「は?」


間の抜けた声をだして私を見るりお。


「えへへ・・・雷なんて嫌いだったけど、今日だけは好きかも・・・おやすみ、りお」


私は目を閉じた。


「ああ、お休み」


りおの優しい声と手の温もりを感じながら。




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