4月21日 木曜日 5
一旦解散した後、少しの間止まっていた雷が鳴った。
真奈の学校でのあの恐がり様はかなりのものだ・・・1人で大丈夫だろうか?
「と、考える暇があるなら向かうか」
部屋を出て隣の部屋に行き、インターホンを鳴らす。
ピンポーンと気の抜ける音が鳴って待っていたが、一向に出てこないから入った。
奥に入り見てみるとベッドに隠れている真奈を見つけた。
盛り上がってるからな・・・すぐに分かる。
外が見えないようにする為かカーテンは閉まっていた。
やはり怖いのだろう。
ベッドに近づき布団の上から軽く叩く。
「おい、真奈。大丈夫か?」
「・・・りお?」
聞こえた声は震えていた。
「ああ。ほら、出てこい。腐るぞ?」
「いや。雷、怖いもん」
「大丈夫だ。怖いなら俺がいるから」
俺なんかがいても意味は無いが、1人よりは断然いいだろう。
1人だと気を紛らわすことができないからな・・・休みの日なんかはかなり暇だった。
妹も休みの日だけは活発になるし。
しかも決まって月曜の朝に帰ってくる。
まあ、今はどうでもいいか。
「ほんとうに?どこにもいかない?」
布団から顔を少しだけ出して涙目で尋ねてくる真奈。
言葉からも予想できたが、普段は無理にあの言葉遣いなのかも知れない。
今は子どもみたいになっているし。
今の真奈はたぶん家族にだけ見せる真奈なんだろうな・・・。
「行かないさ。だから出て(ピシャァアン!)「きゃあ!」あ、たく・・・」
途中で雷が鳴りまた引っ込む真奈。
このまま会話するのも面倒だから布団を剥ぎ取った。
「あ!やだ!返して!」
「・・・怖くねえって。深呼吸しろ」
布団を取り替えそうと手を伸ばす真奈にそう言うと、
「え?うん・・・すぅ~・・・はぁ~・・・(カッ!)っ!」
深呼吸してまた途中で雷が鳴った。
その所為でベッドに蹲る真奈。
いい加減うぜえな・・・雷。
「う・・・ぅう・・・おとうさぁん・・・・おかあ、さん・・・おねえちゃん・・・怖いよぉ・・・」
「・・・・・・」
震える声で家族を呼ぶ真奈。
その姿は本当に子どもの様で、何故だか守らなければと思った。
頭から布団を掛けて胸の前で合わせ、顔だけが出るようにする。
「ぇ?」
「そのまま後ろ向け」
「・・・どう、して?」
「いいから」
ゆっくりと後ろを向く真奈。
そして、後からそっと抱きしめた。
俺はどうしてこんなことをしたのだろう?と思ったが、これで真奈の気が少しでも紛れるならそれでいい。
「ぁ・・・りお?」
「嫌かも知れないが、今は俺のことだけ考えてろ。少しは気が紛れるだろ?」
「・・・うん」
りおに抱きしめられて、一瞬何が起きたのか分からなかった。
でも、なんとか理解して、りおに自分のことだけ考えろと言われて、私はそれをすんなりと受け入れた。
いやじゃないよ?
言われた通りりおのことを考えて、まだ名前以外ほとんどのことを知らないことに気付いた。
「ねえ、りお」
「なんだ?」
「りおって女の子の好みってあるの?」
「・・・いきなりなんだ?」
問うと少し間があって答えた。
なんだ?と聞かれたら、りおのことを考えていたからとしか言えない。
「いいでしょ?どうなの?」
「別にいいが・・・今まで誰かを好きになったことなんて無いからな・・・好み、というより理想と言った方がいいかも知れないが・・・」
「うん」
「多分、この先好きになった奴が俺の理想なのかも知れない」
「結局、分からないってこと?」
「ああ」
「そっか・・・じゃあ、好きなことは?」
「寝ること」
「今までで一番楽しかったことは?」
「・・・覚えてねえな・・・お前は?」
次はりおから質問された。
「家族で海に行ったこと・・・りお?」
家族と言ったら回されているりおの腕がぴくりと動いた。
「なんでもない。それで?」
「うん。スイカ割りとか砂でお城を造ったりとか・・・かき氷を食べてお姉ちゃんと一緒に頭がキーンってなったりね?それでもまだ食べるお姉ちゃんを見て、お父さんお母さんが優しく笑ってた。
昔のことだから、細かい所は覚えてないけど・・・一番楽しかったことって言われたら、真っ先にこれが出てくる」
「そうか・・・仲、いいんだな?」
「うん。本当に楽しかったんだ・・・でも、もう会えない」
「・・・・・」
りおは黙った。
何か言って欲しかったけど、我が儘だよね?
「すまないが、俺は気の利いたことなんて言えない。
だが、今お前は1人じゃないだろ?」
「っ!」
そうだ・・・。
「少なくとも、今この瞬間は俺が一緒にいる」
そうだ・・・今はりおがすぐ近くにいる。
今だけじゃない。
こっちに来てからずっとりおは近くにいた。
今日も学校で雷が鳴った時だって、優しく頭を撫でてくれた。
それだけで安心できた。
「だから今は何も心配せずにゆっくり眠るといい。近くにいるから」
「・・・うん」
私はその後、ベッドに横になった。
りおが布団をそっと掛けてくれて、椅子を持ってきて近くに腰掛けた。
「りお・・・手、にぎってもいい?」
「・・・ああ」
「ありがと」
手を出すと優しくその手を取ってくれた。
それだけですごく安心する。
外はまだ雷も鳴ってるのに、今は怖くない。
「側にいてね?りお」
「ああ」
りおはそう言って微笑んだ。
「ぁ」
「ん?どうした?」
「りおの笑顔って・・・綺麗」
「は?」
間の抜けた声をだして私を見るりお。
「えへへ・・・雷なんて嫌いだったけど、今日だけは好きかも・・・おやすみ、りお」
私は目を閉じた。
「ああ、お休み」
りおの優しい声と手の温もりを感じながら。




