4月21日 木曜日 4
裏央。
やっと彼の名を呼ぶことが出来た。
不思議なことに彼にくっついていると心が安らぐ。
どうしてだろう?
雷は怖いのに、裏央が近くにいるだけで怖くなくなる。
さっきまであんなに怖かったのに。
裏央が私の頭に手を置いて「大丈夫だ」と言ってくれて時、私の心は落ち着いた。
それまで、何も考えることが出来なかったのに・・・。
彼は名前を言った後、また私の頭を撫でてくれた。
子どもみたいかも知れないけど、嫌な気なんて全然しなくて・・・もっと、撫でてもらいたい。
「真奈。そろそろ離れた方が良いぞ?明かりが点く」
「ぇ・・・」
いきなりの発言に思わず声をもらして彼を見る。
「大丈夫だ。どこにも行かない」
「ほんと?」
「本当だ。というか、どこにも行けないだろう?」
「うん」
頷くと顔は暗くて良く見えなかったけど、微笑んだ気がした。
そして、
「・・・・」
「ぁ・・・」
また頭を撫でてくれた。
離れて席に着き、少し待つと、パッと明かりが点いた。
隣を見ると裏央は外を見ていた。
「っ!」
どうしてか分からないけど、裏央がどこかに行ってしまいそうな気がして、声を掛けようとしたら、全校放送が入った。
内容は突然の大雨雷のため今日は、もう放課にするというもの。
ニュースなどを見ても今はまだ軽い方であり、もう暫くするともっと酷くなるそうだ。
そしてその放送が終わったら先生が、じゃあ、終わりと言って私たちは帰ることになった。
「それじゃ、俺は帰るが・・・真奈、お前はどうする?」
「え?帰るが、足がない」
「そうか、それなら心配するな。とりあえず行くぞ?」
裏央はそう言って我先と教室を出て行った。
「あ、待って!」
慌てて後を追って行くと、途中でまた先生と会った。
「おお、お前ら。丁度良かった」
「俺もお前んとこに向かってた所だ」
「え?何故だ?」
話を聞くと、先生に送ってもらうということらしい。
私がそんなことをして良いんですか?と聞くと、バレ無ければ大丈夫だと言って、3人で校門に向かった。
「お、来たね?それじゃ、早く乗って?」
「ああ」
近くに停めてあったみな先生の車に乗って、いいのか聞くと、涼子先生と同じことを言った。
どうやらこう言うことはこれまでにも何度かあったらしい。
それからアパートまで送ってもらって、私と裏央、涼子先生が降りて、みな先生は駐車場に車を停めて走って戻ってきた。
雨は相当酷くなっていて、駐車場からここまでの距離でもずぶ濡れになってしまっている。
「ま、とりあえずお前はさっさと風呂に入れ。風邪引くぞ?」
「うん、そうするよ・・・うう、寒い・・・早く入ろう?」
「そうだな。真奈、とりあえずお前も入れ。説明するから」
裏央は私が不思議に思っている事を分かっているかの様にそう言って、私達は裏央の部屋に入った。
話を聞くと、先生達はこのアパートの同じ部屋に住んでいて、今まで一度も会わなかったのは、そうしないようにしていたから、らしい。
偶にこの部屋に来てはみな先生と涼子先生が食事を作ったり、遊んだりもしているとのこと。
「どうしてこのアパートに住むことにしたんですか?」
「それは・・・」
「いいところが無いか聞かれて、教えたら翌日から住み始めてた」
「・・・先生」
理由が丸わかりだ。
みな先生は今シャワーを浴びてるから、聞けないけど、多分同じ理由だと思う。
それから暫くは上がって来たみな先生も交えて雑談で時間を潰し、一旦解散となった。
「ふう・・・人気だね?君は・・・」
まさか、先生に恋愛感情を抱かれているなんて。
「でも、ま・・・理由は分からないでもないかな?」
私も彼に惹かれているのは事実だし。
「これからどうなるのかな?」
と期待に胸を膨らませていると、カッ!とまた雷が鳴った。
「きゃ!」
私は堪らずその場にへたり込み、
「・・・裏央・・・」
彼の名を呼んだ。




