4月21日 木曜日 3
真奈にどつかれて気を失った俺は、恐らく4限目終了の鐘であろう音で目が覚めた。
だが、出来れば覚めたくなかった・・・。
「すぅ~・・・すぅ~・・・」
隣で寝ている美奈を見てそう思った。
が、まあいい。
それよりも飯だな・・・どうするか。
「腹減った・・・」
「それなら、わたしの弁当を分けてあげようか?」
「・・・いつから起きてた?」
「ずっと起きてた。さっきまでのは演技だよ?」
「はあ・・・」
無駄にそういう所はすごいんだよな・・・もっと別の所で別のすごさを発揮して欲しいが。
言っても無駄か。
にしても、真奈の奴・・・見た目の割にかなり力があるな。
気を抜いてたとはいえ、まさか気絶するとは。
その後結局美奈に弁当を分けてもらった。
「うま」
「本当!?」
「ああ、良い意味で予想外だ。料理得意なんだな?」
「ええ。伊達に一人暮らしじゃないわよ?どう、お嫁さんに欲しくない?」
「お前、去年からそれ言ってるよな?そんなに良い相手が見つからないのか?」
前にも言ったと思うが、こいつと涼子(こっちからも美奈と同様のことを言われた)はモテる。
何度か朝寝ぼけてヘッドフォンを忘れて学校に来た時があったが、その時にクラス内で生徒達が話していた話題の中にこの2人のことがあった。
なんでも2日に1回は男の教師から店に誘われたり、告白されたりしているそうだ。
それだけモテるのに、その全てを断っていることも有名(?)だ。
「美人なんだからその気になれ「ふえ!?」・・・ん?」
変な声がして、美奈の方を見ると顔が真っ赤になっていた。
「どうした?」
「・・・え・・・えっと///」
「おい、大丈夫か?熱でもあるのか?」
弁当を置いて美奈の額に自分の額を当てて熱を計る。
「ひゃ!///」
「あ、こら!計れないだろ?」
離れようとした美奈の背中に手を回して逃げられないようにする。
「ぅぁ/////」
今度は大人しくなったからちゃんと熱を計ることができた。
「・・・熱は無いが・・・本当に大丈夫か?」
「・・・ぅ・・・うん///」
やっぱりまだ顔が赤いな。
「熱は無いが一応休んでおけ?保険医が倒れたりしたら、示しがつかん」
立ち上がり美奈をなんとか抱き上げる。
「あ、や!ちょっと!いきなり////」
「暴れるなって・・・ベッドに運ぶだけだ」
それでも暴れるから、ほんの数歩で着くはずのベッドまで2分ほど掛かった。
白衣を脱ぐように言って布団を被せ、隣に椅子を持ってきてそこで弁当を食う。
「・・・・・」
他の奴が今の光景を見たらどう思うんだろうな?
明らかにおかしな構図だろうということは何となく分かる。
保健室で弁当を食べるだけでも、少し可笑しいのに保険医が寝ているんだからな・・・。
ま、気にしても仕方ないか。
弁当を半分ほど食べて俺は卵焼きを箸で掴み、美奈の口元まで持っていった。
「・・・なに?」
「分からないか?口開けろ」
「・・・・・・・ええ!!/////」
ボン!音を立てて顔を真っ赤にする美奈。
今本当に音が聞こえたぞ・・・すげぇな。
「ほら?」
「・・・ぁ~ん////」
そう言いながらゆっくりと小さく口を開けて、卵焼きが口に入ろうとした瞬間、
「ぱく」
誰かが食べた。
「もぐもぐ・・・んく・・・ふう、相変わらず美奈の飯は美味いな?」
「涼子か。何しに来たんだ?お前、元気だろ?」
俺がそう言うと、
「あ痛」
どこから出したのか出席簿で叩かれた。
しかもまた角で。
「仮にも教師を呼び捨てに、しかもお前とは何だ?」
「そう呼べって言ったのはお前だろ?おっと、殴るなよ?」
「ち」
「舌打ちすんな」
仮にも教師だろ。
「ちょっと、涼子?もうちょっとだったのにどうして邪魔するの?」
「いやな?お前の飯は美味いから食いたくなって、来てみたら丁度こいつが差し出していたから」
「食ったのかよ」
食い意地張ってんな・・・。
その後、美奈はベッドに座り俺が渡した弁当を食べていた。
1口目を食べた時、少ししてまた顔が赤くなっていたから、やはり熱があるのかと計ろうとしたらすごい勢いで大丈夫と言われた。
涼子は理由が分かっていたみたいで最初はニヤニヤしていたが、美奈が自分と俺は額をくっつけ合ったと言うと、途端に悔しそうな顔をし出した。
それから俺を見て、
「私にも同じ事をしろ!」
等と言ってきた。
「お前熱なんか無いだろ?」
「今はあるんだ!」
「どういうことだよ?たく、俺は戻るからな?」
後ろで何か言っている2人を無視して保健室を出ると、なにか用事があったのかここに来た真奈と遭遇した。
「どうかしたのか?」
「君を迎えに来たんだ。・・・その、さっきはすまなかった。突き飛ばしてしまって」
真奈はそう言って頭を下げてきたが、俺は気にしてないと言い教室へ戻った。
どうやら、真奈も本当に俺を迎えに来ただけのようで隣を歩き始めた。
教室に着き机に座って突っ伏す。
「おい、さっきまで寝ていたのにまだ寝るのか?」
「ちょっと疲れることがあってな・・・今は寝ないが、授業中は寝る。起こさないでくれよ?」
「どうせ、起きないじゃないか?今まで何度私が君を起こそうとしたか・・・」
んなこと言われてもな・・・授業をどう受けようと個人の自由だ。
「そういや、お前は飯くったのか?」
「ん?ああ、食べ終わっても君が戻ってこなかったから迎えに行ったんだ」
「そうか・・・」
それから少し話をしていると昼休み終了を告げる鐘がなり午後の授業が始まった。
始まって暫くすると空が曇ってきて、雨が降り始めた。
カッ!
と雷が鳴り学校の電気が消えた。
「きゃあ!」
「うお」
真奈が腕に抱きついてきた。
雷が怖いのか、びっくりしたのか・・・まあ、いいか。
すぐに電気も点くだろう。
と思っていたが、それから20分経っても雨は降り続け、雷も鳴り続けた。
「う・・・うう・・・」
俺の腕に抱きついたまま、真奈は震え続けていた。
空いている右手を頭に置いてゆっくり撫でる。
「ぁ」
小さく声をもらす真奈。
「大丈夫だ」
「・・・・・」
俺がそう言うと、停電の所為で顔はよく見えなかったがこちらを俺を見た真奈が、
「なまえ、教えて?」
と言ってきた。
そういえば俺はまだ名乗ってなかったのか・・・すっかり忘れていた。
何故このタイミングで聞くのか?と一瞬思ったが、どうでもよかった。
「裏央。『裏』に中央の『央』で裏央だ」
「裏央。やっと・・・名前を呼べた」
そう言って真奈は、更に強く俺の腕に抱きついてきた。




