「今夜のメニュー」
ご読了お疲れ様です。れいちぇるです。いやー、本編終わって「あの二人」と一緒にのびのびとあとがきを続けると言う邪道っぷり。しかもここのカテゴリーは「ホラー」。出てけお前、とのお怒りの声が聞こえてきます。
ですが、長い年月かけてやっと最終回を迎えたのですからこの余韻にもー少しだけ酔わせてください。お願いします。
んではGO!
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下を向いていたため少しずれたのか、持っていたブックレットを膝の上に下ろし、右手で眼鏡の位置を戻した。運転席の男は、助手席の女性が読書に夢中になっていることを気遣って運転に細心の注意を払っていたが、多少なりとも揺れのある車内で読んでいたために目がやや疲れたのだろう。紙面から顔を上げ、遠くの景色を少しの間見つめた。
「ほら、酔うって言ったでしょう?」
「平気だって。宗久が気をつけて運転してくれてるしー」
「思った以上に影響受けるもんだよ。家についてからにしなさい」
「はーい」
はい、と答えたのにも関わらず、膝の上から落ちないように左手で押さえていたブックレットを、右手で読みやすい高さにまで持ち上げた。時折冊子を膝の上に下ろし、落とさないよう左手で少し支えながらページをめくる。指先は動くようだが左腕そのものの自由はやはりあまり良くないようだ。
「聞いてないし」
「あとちょっとだし。これだけ! 本格的なところは家に帰ってからにするから!」
「まったく。わざと気持ち悪くなるように運転するよ?」
「どうぞー」
そんな風に許可を得たところで運転手がそんなことをするはずがない。わかっているため彼女はかまわず読書を続けた。
「で、ここからが反省会ね」
はい、よろしくお願いします。あなたは帰ったらしっかり反省してください。
『それでは…… まず一言。ごめんなさい。
本当にホラーのつもりだったんです。それは第二章までを読んでいただけたらわかっていただけると思いたいのですが……
徐々に迫り来る得体の知れないもの。逃げているはず、遠ざかったはずなのに気がつけば背後にいる。そしていつの間にか自分がその中に取り込まれてしまって出られない。
そう言ったじわじわと己を蝕む恐怖を、裕也君が巡りあう様々な死と悲劇を通じて描くはずでした。
……はずでした。
ところがどっこい蓋を開ければファンタジーアクションですよ! どこで足を踏み外したのでしょう。……あ、そうだモンスターアクション、と言えばまだ怪奇に入ってくるかな(汗)
そしてそこに組み込まれてくる不肖れいちぇるの特徴である「ヒューマンドラマ」。ホラーから足早に遠ざかっていきます。まってー! と追いかけたのですが最早後の祭り。そしてやっと捕まえた第七章。
ここでやっと気づいたんです。いえ、うすうす気づいてたんです。
裕也君が主人公だと、ホラーにならない!
と言うことで、視点を一時第三者に変更。何とかなるかと思ったのですが、長編でホラーは本当にむずかしい。何とか背筋の冷える和風ホラーに仕立てたかった……。そっから先はもうホラー度外視になっちゃった。第九章なんてもうまずいよね、R指定ですよ。やってはいけないグロで惹きつけるB級映画みたいなことになってしまいました。荒み過ぎです。性格的にグロい現場とかがあんまり気にならないのが原因? 反省です』
「ホラーは五感が命、かぁ。DVD観てた時、棚が落ちる音とか確かに怖かった!」
ええ、本当にそう思います。文章だけで怖さを出せる人はすごいです。
『恥ずかしながら、執筆中、ブラウザが見えなくなることが何と多かったことか。普段の生活では枯れてるんじゃないの? ってくらい泣かないのですが。己の涙腺ポイントを的確につくお話構成ですみません。さすがは新ジャンル「ヒューマンドラマ」。
はっきり言おう。この「YOU -the song for death-」のターゲットとした読者は、自分です! って、自分が読みたくないようなお話って、作らないよね普通。
最初は嫌いな人物だった裕也君もいつしかすごくデカくなって、男になりました。かっこいいぞ、お前。だけど根っこは変わらない(爆)。
でもそうじゃなかったらゆーちゃんが向こうに心安らかに逝けません。悲嘆にくれるだけじゃなくて、十分その想いを胸にして顔を上げて歩く。男も女も惚れます。お前、ずるい。
イケメン、リア充は爆発してしまえ!
さて……
全体を通して振り返れば、やはり「ホラー」に成りきれなかった、と言うのが率直な思いです。死の恐怖、人外の者の脅威、人間の持つ狂気。普遍的に怖い物を、どれだけ表現できるか。ドラマの中にそれを織り交ぜた時、みなさまがどう感じてくれるか。自分への挑戦でした(笑) テーマ重いし。
もっと上手くできたかもしれない、そう思ってしまう事は多々あります。ですが、この子はこの子で世に出て行って、きっとたくさんの人のもとでたくさんの思いで見て頂いているはずです。やー、うれしはずかしです。
この子に関して語れ、と言われたら幾らでも語ってやろうじゃないか。だけど一人ではどこから語ればいいのやら。それだけ大変なボリュームになってしまいました。
想 定 外 !!
楽しんでいただけたのなら、幸いです。
それでは長々とお送りしてきましたこの「YOU -the song for death-」。ここで閉幕とさせていただきます。この子を育ててる間、いろいろありました。人間はなかなか壊れないことを経験しましたし(遠い目)。たくさんの方々に触れていただいたこと、まことに感謝いたしております。
この子が皆様一人一人の心の中でどんな色を残してくれたのか。とても気になるところです。
執筆している最中、彼らの行く末に悩み苦しんだこともありますが、やっていて楽しかった。やっぱりこの思いがあるから続けるんでしょうね。……本職との両立が大変ですけど。
乱筆、乱文となってしまった最後のおまけまでお読みになっていただき、恐縮でございます。この場を借りてお詫びします。
それではまた、いつの日か。
れいちぇる〆』
……
「おつかれさまでした」
ありがとうございます。
「……読み終わった?」
うん、と金色の長い髪と緑色の瞳をした女性が答える。うーん、と右腕で左手を掴んで伸びをした。首を左右に曲げるとコキコキと軽く音が響いた。にこやかな笑顔を運転手に向けている。相手をしてほしい時の彼女のサインだ。その気配を感じ取った運転席の男性は、軽く助手席の方を見て、なに? と聞く。買ってくれてありがとう、と礼を述べた後、右腕だけでもう一度伸びをした。
「さーて、今日、晩ごはんはつくらないよ!」
「ちょっと、突然に! 今日の給食当番は来音でしょ? 読書に勤しみ過ぎだって!」
「ノンノン。交代して、とは言ってないよ。ディナーにしよう、ディナー! 洋食! 「晩ごはん」じゃなくて! ハンバーグがいいな!」
「影響されやすいなぁ。……ってハンバーグ? 手伝って、ってこと?」
「ぴんぽーん。片手じゃできないもん」
はいはい、と男性の方が少し笑って答えるやいなや、隣から頬に人差し指を突き立てられた。
「はい、は一回!」
さて、好き勝手やらせていただいた「おまけあとがき」ですが、これでおしまいです。「YOU -the song for death-」の視聴者となっていただきましたのは、不肖れいちぇるの処女作「Reineseele」から、来音と宗久のご両名。
お読みいただき、ありがとうございました。
なお、次で本当の最終回。みなさま、どうか最後までおつきあいくださいませ。
それでは。