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「日常の終わり」


「なあ、裕也。お前どうすんだよ」

「どーすんのー?」

「何がよ?」

「就職」

「カノジョ」

「あ? ダブルでうっせ。ほっといてくれよ」

「仕方ないよー。ゆう君反抗的だしー」

「だよなー! いっつも、『いやいや、僕が思うに』とか反論したり、人差し指立てて『良いですか?』とか妙にしたり顔だったりだもんなー」

「え?! うっそ、ネタとか思ってないわけ?!」

「わかりづれー!」

「イケメンのくせに喪男とかウケルー」

「うけるー」

「うけるー」

「あー、はいはい。良いですか? 決してモてないわけではなく……」

「ほら、やっぱし! うけるー」

「うけるー」


 まったく。ちゃんと期待に応えますって。この場合こう言わなきゃ場が盛り上がらないでしょうが。いつまで経っても変わらないなあ、こいつら。男も女も混じってバカばっかりだよ。楽しいけど。


 卒業までもう間もない。今日は友達と久しぶりに飲みに出かけた。彼らはほぼ全員就職、就職しないやつは進学していく。疎遠になってしまった面子も二、三人いるけれど、学部こそ違えどこの四年間よく一緒に遊んでいたものだ。いつも固定のメンバーと言うわけでもなく新しく友達と来たり、彼女を連れてきたり、彼氏を連れてきたり。少し会っていないと、違う恋人を連れてくるようなヤツだっていた。

 確か小学生くらいのころは、大学生と言ったらもっと勉学に没頭して、たくさんの人の為に自分を磨く志の高い人間の集まりだと思っていた。とんでもない! いや、もちろんそんな志を持っている人が皆無とは言わない。ただ言えるのは、この集まりからはそんな事を露ほども感じないと言う事。でも、この中からだって見知らぬ人の為に人生を成す人物が出る事があるんだ。人間って侮れない。


「お願い、これ以上ゆう君をいじめないで!」


 ちょ、お前が反抗的とか言い出したんだろ! どの口がおっしゃいやがりますか! 一応ここの面子全員にある未知の可能性に関心していたのに台無しだ。


「もう止めて! ミッキーのライフはもうゼロや!」


 アキちゃん大丈夫だよ、ミッキーは魔法が使えるから。三岳君はすでにぼろぼろですけど。


「大丈夫だ、問題ない。こいつは初めからマイナスだ」

「あ、マイナス生活なの? じゃあますますご清栄ね」

「じゃあプラスな事をしたら死ぬな。ゼロに近付くから」

「ああ、そうだな」

不死王ノーライフキングかよ、僕は」

「ノーライフ…… 何?」

「ノーライフキング。吸血鬼とかそう言うのだよ。回復魔法が攻撃になったりするだろ? 少しはゲームしたことあるだろ、お前も」

「あー。じゃあ日に当たるのもダメじゃん」

「よっしゃ、特殊な呼吸法で…… コォォオオオオっ!」


 どうしようもない。僕はジョッキを片手に呆れ顔で見てるしかない。水割りを入れたグラスを置いて力を溜めだしたと思ったら、指先で僕の額を突き刺してきやがった。ダメだこいつ、早く何とかしないと。微妙に色々混ざってるし。お前はどこの波紋の一族で、暗殺拳の継承者だ。


「……裕也、就職はあきらめろ。働いたら負けだと信じるんだ」

「プラスになる事がダメだなんて…… じゃあゆう君は一生DTなのね…… 愛しい人を抱きしめることも叶わないだなんて、何て可哀想なの……」

「そんなミッキーがヒッキーにならんかったのは本当に奇跡やで! うちらに感謝しぃよ!」

「そーそー!」

「え? なになに? ……感謝の気持ちが抑えきれないから、今日は全部僕が持ちます…… だって?!」

「あざーっす!」

「あざーっす!」

「ごちでーす」

「ごちーっ!」


 すげぇな、こいつら。三岳地方は、ぺんぺん草も生えないくらいの勢いで爆撃を受けて焦土と化しました。もうダメだ、欝だ。がくりと力を落としている時に頭の中にYOUの声が響く。あーあ、こんな時にかぁ。水を差された気がしてならないけど、ある意味助け舟とも言える。一応怪しまれないようにケータイを取り出し確認したふりをする。


「わり。ちょっと用事ができた」

「え? まだ終電まで余裕あるのに?」

「二次会はー?」

「まーさーかー?」

「あ…… そう言う事。隠さなくていいのに」

「ホテルなら二件はこの近くにあるぜ?」

「くわしいのう。で、どんな娘?」

「……それはないわー」

「ハイそこの先入観の塊。聞こえてるっつーの」

「じゃー、そう言う事やね? お姉さんに紹介しなさい、ふさわしい子かどうか見てあげる」

「いや、裕也がふさわしいか、だろ」

「あー」

「あー」


 あー、そうだね。


「お前が納得してどうするんだよ裕也!」


 ダメだこいつら、そして僕。このまま本当に楽しい時間を過ごしていたいけど、そうも言っていられない。有耶無耶にはぐらかして退出しよう。五千円をテーブルに出して、釣りはいらねぇぜ、とカッコをつけて席を立つ。うう、この出費はデカイ……。財布の中身はあと一万円。月末まで何とかなる…… いや何とかする、大丈夫。だけど楽しい時間を過ごせたのは確かだし、次にいつ会えるのか分からない。お金で換えられるような物ではないけど、少しでも感謝の気持ちを形に表しておきたいと言うのも実際のところだ。似合わねーと言う周囲の反応に、ちょっと酔った位の赤ら顔で笑って返した。さて、いつものようにやってこよう。






……



 以前YOUはシェイドになる者は珍しいと言っていた。しかし近頃はこの地域だけでひと月に二度くらい発生している。実際の頻度は聞いていないからなんとも言いがたいが、明らかに何かおかしい。しかもシェイドになるように作られていて、結界によって隠されてると言っていた。なら実数はこんな物じゃない。しかも今回の相手も力を蓄え、強力になっている可能性が強い。

 YOUが感知したのは結構遠方のようだ。歩いて行くには時間がかかる。原付や自動車では飲酒運転になって、万が一おまわりさんに引っかかろうものなら即アウト。実際の目的地は分からないけど方角は分かるので、そっち方面にあるメジャーな建物、施設のところまでタクシーで送ってもらう事にした。


 歩き始めて三十分弱だろう。タクシーも使って近くまで来たと思っていたが、思ったよりも遠かった。財布の中身はあと七千円と小銭。地味にダメージがデカい。帰りはどうしようか……。歩いているうちに酔いも醒めてきている。代わりにだんだんゾクゾクとしたいつもの感覚が強くなってきた。民家も少なく、寂しい空気が辺りに漂う。目の前に現れたのは潰れたのか、まだ稼動しているのかわからない様なおんぼろ工場。何だかいかにもと言った雰囲気が漂う、廃墟と言っても差し支えないようなスポットだ。そろそろか、と意識を高めて歩みを進める。

 ところが工場の門が遠くに見えてきたところで、シェイドの領域が消えたとYOUが言う。こんな事はこの一年で初めてだ。ここにいたのがシェイドでなくてブレイズだったのなら、僕達の接近を察知してこの場を去ったという可能性がある。とりあえず何か痕跡などが無いか調べることは必要と意見が一致し、そのまま帰らず敷地の中に入った。


 同時に感じた、一枚の隔たり。


「まさか……」

「気をつけろ」


 僕とYOUが同時に口にした。




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