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「わらべうた」








 とおーりゃんせー とおりゃんせー





 こーこはどーこの 細道じゃ






 天神てんじんさまの 細道じゃ






 ちっと通して くだしゃんせー…













 歩く度にギシッギシッと音を立てる廊下に出た途端、小さな歌声が聞こえてきた。

 これはシェイドが歌っているのか? すでに目覚めているのかもしれない。


 どこにいるのだろう。この屋敷は結構大きかった。しらみつぶしに探すしかないかもしれない。周囲を警戒しながら廊下を進み始めた。





 クスクス……




 クスクス……





 笑っている? 近くで見ているのか? 隣の襖をゆっくり少しだけ開け、レクイエムの柄尻を滑り込ませそのままサッと襖を引き開けた。開けた瞬間に襲われても良いように、そのままレクイエムの長い柄を体の正面に構える。


……何も無い。





 クスクス……




 ハズレー






 近くから聞こえるようで、遠くから聞こえてくるようにも感じる。やはりすでに目覚めているようだ。それに二人以上だろうか。

 ここはシェイドの領域の中。彼らからしてみたらこの場に居なくとも僕の行動のすべてが手に取るように分かるのだろうか。


「……相当時間が経っているな。かなり狡猾だ。先に取り込まれた二人は諦めた方がいい。俺達が来る前に入ってしまった時点で運が悪かった。おそらく映っていなかっただろう。そう割り切っておけ……」


 あっさりと冷たくYOUが言い切る。YOUは本職の死神。こういった事例に幾度と無く遭遇している上での発言だろう。だけど、まだそうとは言い切れない。本当についさっきなんだ。今まで何度かシェイドと遭遇してきた中で、一つ感じていることがある。

 その感覚が間違っていなければ、間に合うかもしれないんだ。

 僕は鏡を見ていない。あの二人は映っていたかもしれない。映っていなかったとしても、今なら律を変えられるかもしれない。YOUは諦めろと言ったが、結果を見るまでは僕だけでも抗おう。


……どこかから、また歌が聞こえてくる。







 かーごーめ かーごーめ





 かーごの なーかの とーりーはー……






























……



 痩せた体型の男が必死に耳を塞ぎ、頭を抱え込むようにうずくまっている。男はかわいそうなほど震えていた。悲鳴を上げることもない。彼の居る空間は完全に闇の中で、一体どこなのか、それがどれほどの広さなのかまったく分からない。

 彼を中心に、二つの何かが点対称の位置に立ち、歌いながら円を描いてまわっている。気配とそれらが立てる音から二つと思われた。


 少しずつ少しずつ、円が小さくなっていく。





 かーごーめ かーごーめー




 かーごの なーかの とーりーはー




 いーつ いーつ でーやーるー




 よーあーけーの ばーんにー





 つーると かーめが すーべったー





 うしろのしょうめん だぁれ?








 呼吸も震え、固く目を閉じている。首筋に何かが触れる。その冷たさに反射的に背筋が伸びる。そして耳から手を離してしまった。





 それは小さかった。

 突然両肩にしがみつき、背中に乗った。

 耳元でひそひそとささやく。






 ネェ、ダーレ?






 クスクス……







 ダーァレ?









 男はただ身を凍らせていた。声を上げることもできず、振り払うこともできず。

 とうとう目を開いた。周囲はやはり闇だった。目の前で固まっている自分の手すら分からないほど光が無い。

 まったく見えないはずだが背中に乗った小さな何かを、恐怖に囚われたまま横目で見やる。


 彼の肩のあたりにそれの頭が見えた。こんな暗闇の中なのに、はっきりと見えた。おかっぱ頭に黒い髪。小さな子供のようだ。

 男の首に絡みつく子供の手に力が入る。息がつまり、男は「かっ」と軽く声を上げた。首に何かが吸い付く。男は白目をむき、口をだらしなく半開きにし、脱力していった。そしてそのまま後方の闇に勢いよく引きずり込まれていく。抵抗することもできず、また抵抗することができたとしても抗うことを許さないほどの力で。



 男の耳元で声が続く。優しく、ゆっくりと。

 だがそれは低く呻くようで、まだかろうじて意識を残していた男の心を蝕んだ。





 遊ビマショ……





 遊ビマショ……






 オトモダチニナリマショウ……







 ズーット一緒ニ遊ビマショ……






 ズーット、ズット












 ズーット、ズット……






 クスクス……






 クスクス……





























……おかしい。今気づいた。領域の中独特の、耳鳴りがするほどの静けさがなくなっている。

 さっき聞こえてきた歌声は、今はしない。かわりに風にそよぐ木々の葉擦れの音と、かすかな鳥のさえずりが闇の中に入ってくる。優奈のように自分の意思で領域の展開を自由にできるのだろうか。だとしたら何故、今領域を解いたのだろう。

 また一つの部屋を開け、中に入った。その瞬間に音が無くなる。いつも感じる、領域に踏み込んだ感覚。



 なんだ、この違和感。

 落ち着いて部屋から廊下に戻る。すると耳鳴りが治まった。


……そういうことか。領域を展開していないんじゃない。廊下でシェイドの歌っている声が聞こえたから、この屋敷全部がシェイドの巣であるには間違いない。だけど、領域が展開されているのは各部屋だけで、廊下は違う。何故こんなおかしなことに……?

 考えていても理解できるとは思えない。分かるのはますます急がなくてはいけないということ。僕が領域の外に出ている時間が長ければ長いほど危険だ。

 廊下から各部屋を探るのは止めだ。なるべく領域の中に居なくてはいけない。ここが古くからの日本家屋で助かる。部屋から部屋へとそのまま探索するのを続けよう。














……オカシイネ





……三人ノオ兄チャン、何カオカシイネ





 オ兄チャンガオ部屋ニ居ルト、オジチャン達ガ遊ンデクレナイ。ナンデダロ







 オラガ代ワルヨ。先ニ遊ンデクルネ






 ハーイ、オラハ太ッタオジチャント遊ンデルネ。マタ後デ……











 空白改行が多数あることを好まない読者様もいらっしゃると思います。

 シェイドの会話部分に静けさと不気味さを出すには、と考えてみた結果がこの形。ほかのやり方があるかなぁ……。


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