「僕の仕事」
「またか……」
すでに4人目だ。今日はやけに多い。さっきやってきたばかりだと言うのに。これだから街中ってのは……。
用事があったからって昼間からこんな人通りの多いところに出ちゃ、
「自分から仕事を増やしてるようなもんか」
誰に言うでもなくつぶやいた。はやく職を探したいと言うのに、強制労働とも言える義務の方に圧倒的に時間をとられてしまっているのが悔しい。
でも、しかたない。もともと僕が悪いのだから。
ここはあるビルの自動ドアの前。これから中に入ろうと思っていたのに。なかなかすごいタイミングだ。すっかり元通りの長さに戻っている髪をくしゃくしゃと掻き、踵を返して発見した仕事の対象の後ろをつけて行く。
こんなストーカーじみたことをしていたらいつか捕まってしまう。だがこうしないと見失ってしまう。自分の範囲の中で放置しておいて、万が一前のようなことになったらそっちの方が都合が悪い。手助けもないし、できるだけ自分が危なくないようにしたいなら仕事はすぐその場で片付けた方が良いに決まっている。
「これで暮らしていけるならまだいいんだけど……」
ため息をつきそんな冗談を言ってみるが、そんなことはできない。あくまでこれは元通りになるまでの一時的な契約。それにこれを生計にしたいとは思えない。そもそもこんなことを依頼してくれる「人」なんかいるわけがない。いろいろ頭の痛い問題にぶつぶつ一人で文句を言いながら足音を隠して後をつける。
……それに今度はいつ終わるんだろう。
アレが出てくる事も大分減ってきたようだから、以前よりも効率が落ちている。だけど無いに越したことはないのだから文句を言ってもしょうがない。
今回はビルの屋上か。ここからなら僕が人目につく心配はない。人目についてもわからないだろうけど、怪しまれても困るから安心だ。どうしても距離が離れてしまうから巧くやるにはコツがいる。コイツがまっすぐな形してたらもっとずっと楽なんだけど。とりあえず屋上の階段部屋で座って待機。
……にしても、今日は本当に昼間から目に付くのが多い。僕がわかるだけでもこんなペースで日々起きているというのなら、いつか誰も居なくなってしまうんじゃないかと心配になる。
今回の人は、僕よりは年がいっているがまだ若い男性だ。一体何があったんだろう。まあ人それぞれに想いがあるわけだし、いずれにせよ今現在「見えない」状態になっている人の運命を曲げることは僕には不可能だ。僕がヘタに手出しするわけにいかない。
僕がやらなくてはいけないのは、この場に縛られ、離れられなくなってしまう前に導くことだけ。それ以上のことは無理だ。
……
耳を澄まして気づく程度の大きさの鈍い音がしたのに続いて、下が騒がしくなった。さて、それじゃあ僕も僕の仕事をして、今度こそ食べていく手立てを探しにいきますか。