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「呪言」






 大好キダッタ…… ズット信ジテタ…… ソレナノニ……






 ドウシテ私ガコンナ目ニ遭ワナクチャイケナイノ……?





 ドウシテ誰モ止メナイノ……?





 ドウシテ助ケテクレナイノ……?






……






 ドウシテ大好キダッタアノ人ガ、コンナ奴等ノ真ン中デ誉メラレテルノ……?








 ドウシテ私ハ死ナナクチャイケナイノ……?











 ドウシテ、コイツラハ生キテイルノ……?










 許セナイ……






 許サナイ……









 スベテノ人ヲ許サナイ……!









……



 ミンナガ言ッテタ。パパモ、ママモ、先生モ。私ノ周リニイタ人全員ガ。



 誰ニデモ、イツデモ優シクシナサイ。ソウスレバ誰モガ私ガ苦シイ時ニ助ケテクレル。






……デモ、誰モ助ケテナンカクレナカッタヨ?





 全員ガ私ヲ見下ロシテ…… 痛クテ怖クテ泣イテイルノニ、誰一人手ヲ差シ伸ベテクレナイ……











 ミンナ嘘ツイテタ…… 私ノ信ジテタ人達全員ガ……




 信ジテタカラ…… コンナニ苦シイ……






 ダッタラモウ信ジナイ……











 信ジナイ……





















 なんてことだ。こんな娘が…… こんな……


……涙を流し続ける、ブレイズと呼ばれたシェイドの亜種の少女はとても優しく、純粋。人を信じると言うことに、一片の疑いを持つことも無く……。


 とても優しく、純粋。そして人を、信じていた。





 信じて、いたんだ……



 声質はくぐもった、やや呻くかのようなものだ。あの男の子も同じようだった。きっとこれはシェイドとなった者に共通するものなのだろう。

 彼女の声は人の心をじさせる。人の本能に訴える、この場に居てはいけないと言うサイン。だが、敵意のない彼女からは恐怖を感じることはまったくない。憐れみを覚えることはあれど、無下になんてできない。


 僕があの時、少しでも……








 悲痛。あまりに恐ろしい情景に、彼女が信じていたすべてが崩れ、すべてが歪んだ。だけどこれほどまでの狂気にさらされ、本人も狂気に身を委ねたはずだというのに、彼女の意思ははっきりしている。


「ひょっとして、信じたいんじゃないのか、それでもまだ……。誰か、手を差し伸べてくれるんじゃないかって……」


 狂気の中にありながら、僕とコミュニケーションが取れるということはそう言う事ではないのだろうか。

 深い、深い淵の底に眠りながらも、ほんの少しでも明りが見えないかと必死に手を伸ばす女の子。彼女を何とか引き上げられないか。自然と左手を差し出していた。

 ところがものすごい目つきで睨みつけられる。足が竦み、動けない。




 ダッタラアナタハ信ジラレルノ……?



 ドウヤッテ助ケテクレルトイウノ……?




 大キナ鎌デ、私ヲ傷ツケヨウトシテイタアナタヲ信ジロト言ウノ……?




 コレ以上私ヲ傷ツケルツモリナノ……?



 ダッタラ殺ス……



 死ンデシマエ…… ミンナ死ンデシマエ……







 彼女の静かで巨大な怒りに呼応するように水がざわつきだしている。直後彼女の背後の池の水が巻き上げられた。

 いかん、逆効果だ。今ここで彼女に力を振るわれたらそれこそ水の泡だ。手を引くしかない。


「仕事、なんだ。……臨時だけど。

 あの大鎌じゃないとできないんだ。確かに傷つけてしまう……。でも、それが目的じゃない。助けてあげられるんだ。……信じられないだろうけど」


 僕の言葉に彼女は無反応に見えた。実際巻き上げられた大量の力は水源に戻ることなく彼女の背後で僕を飲み込まんと渦巻き続けている。今の僕では何もできない。諦めるしか…… ないのか……。



……僕はきっと信じてもらえない。こんな嘘つきの僕が、信じてもらえるとは思えない。


 僕は自分のことしか考えなかった。


 彼女だけじゃない。今まで何人もの人達を見殺しにしてきた。


 最終的に導ければ、結果さえ一緒なら、いつやっても同じじゃないか。



……


 そんな風に考えている僕を信じてもらえるなんて虫が良すぎる。反吐が出る。


「信じなくてもいいよ。今日はこのまま帰る。……本当は君もやたらに人を傷つけたくは無いんだろ? そんな姿になってしまったけれど……


……それじゃ、また来るよ。その時はまた少し話を聞いてくれよ。


 それまでは静かに、おやすみ」


 少し申し訳なさそうに笑顔を見せた後、背を向けた。







……よかった。彼女は攻撃してこない。


 背を向ける、ただそれだけのことがすごく怖かった。内心かなりビクついていて、かなり勇気を振り絞らないとできなかった。

 彼女と対峙している間中、ずっと恐ろしかった。声も震えた。


 彼女自身への畏怖だけじゃない。僕がしてきたことを知ってしまったから。

 僕の胸中に絶望とも嫌悪ともつかぬ感情が、じわりと微かな音を立てて広がるのがわかる。




……


 足を庇いながら雑木林の中に入る途中、異変に気付いた。木々のざわめきが聞こえる。彼女の領域が解かれたのだろう。ひとまず安心だ。なるべく急いでここから離れよう。








……命がいくつあっても足りない。









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