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「狂渦」

 この回には極めて具体的な暴力表現がございます。

 ですがそれを推奨するものではないことをご理解ください。


 また、この回から初めて読まれる方、そして暴力表現が苦手な方は読み進まれないことをお勧めします。

……



 少女が目を覚ました。天井から吊り下げられた手枷てかせをはめられている。腕が痛み、顔をしかめた。長時間その姿勢で吊るされていたようだ。


「やっとお目覚めね」

「これ…… 一体?」


 今の状態がまったく理解できずあたりを見渡す。場所は意識を失ったバーのようだ。


「何が……」


 尋ねる少女を無視し、冷たい笑顔のまま背の高い女性は顎で一人の男に指示を出す。途端にその男は変ににやけた顔をして、少女の背後に回った。




「あ、あの…… 私どうして ぎっ!ゃあああああああああああああああああ!!」



 突然上がる悲鳴。そして少女の足元に広がる赤い跡。一瞬で呼吸が荒れ、心拍が跳ね上がる。大きく見開かれた瞳からは涙があふれ出た。


 背中が熱い。何が起きているのかまったく理解できない。


 まるで息をすればするほど広がるかのような痛み。痛みをこらえ、答えと助けを求めて、彼女をここに連れてきた女性を見る。まるでこの瞬間を長年待ちわびたかのようないやらしい笑顔を浮かべていた。その表情に刹那痛みを忘れ、恐怖を覚えた少女は別の人間の顔を見る。全員同じ顔をしていた。



「だ、誰かおねが、――――っ!!!」



 再び激痛が走る。今回は一度では済まず、何度も何度も連続した。後ろを振り向こうとしても首がそれ以上まわらない。あまりの痛みから少女はまたしても意識を失ってしまった。







……



 少女が意識を取り戻した時、まだ彼女の両手から枷は解かれていなかった。裂けた衣服が彼女の足元に散っている。十代の柔肌を隠し守るような状態のものは残っていない。背中から始まる赤い筋が彼女の腰、腿、脹脛ふくらはぎと伝わって床に小さな小さな泉を作っていた。痺れきって感覚の無い腕はまるで別の生き物のようで、むしろ無い方が楽ではないかと感じていた。

 そんな彼女の目の前で足を組んで椅子に腰かけているのは、彼女をここに連れてきた、幼いころから彼女が慕ってきた女。これは何かの悪い夢、そう信じたい。なのに背中に走る激痛がそれを否定する。


 憔悴しきった力の無い目で正面を見ていると、椅子に腰かけたままの女が顎で指図する。それとともににやにやといやらしい笑みを浮かべた男が三人少女の前に立った。


「顔は傷つけないでちょうだい。あたしの大事な大事なゆーちゃんなんだから」


 再び何をされるのか分からない恐怖に晒された少女の全身に緊張が走る。今ですら十分すぎる羞恥の極みにあると言うのに、ここから先に更なる凌辱を受けるのではないか。未だ経験したことの無い男を無理に受け入れさせられるだろう恐怖に身がすくみ、恐れから見開いた両眼りょうまなこには大きく涙が蓄えられていた。


 じりっ、と一人の男が近付く。反射的に後ろに下がろうとするが足も立たずブランコのように、きぃ、きぃと鉄鎖を軋ませただけだった。わずかに後ろに流れた少女の体が再び前に戻って来るのに合わせ、男の右足が鞭のようにしなり少女の柔らかな腹部に突き刺さる。

 ばすんっ! と響く音が室内に満ちる。何をされたのかさっぱり理解できない少女は、自分の腹の底から酸味のある物が込み上げてくることを抑えられず、その場にまき散らした。荒い息が整う間もなく、次の一撃が襲う。二人の男に順繰りに何度も腹を蹴られるうちに彼女の腹部は赤く腫れ、一部に浅黒い痣を作った。


「やめて……っ も、う……  や めて……」


 腹に力が入らず息を吐くことで精一杯の少女の声が聞き入られることは無く、彼女に降り注ぐ無慈悲は止まらない。その内に吐き出すものに血が混じるようになっていた。


「レイプの方がよっぽど良かったかしら? でもそれはあたしが許さないわ、ゆーちゃんはあたしの物だからね」


 聞こえてくる声は、連れてきた女の物だろうか。もはや少女はその判断も出来なかった。

 突如背後から首に何かが巻き付いた。三人居た男の一人の太い腕だ。少女の細首に巻き付き、一気に締め上げる。裸絞めされた少女の喉からげぅっ、と空気が絞り出された音が立ち、僅かな抵抗をすることもできない少女の意識は数秒と持たずに途切れてしまった。







……



「……う、うぅう」


 次に目を覚ました時は手枷を外され、床の上に転がされていた。少しでも動けば襲ってくる、焼けるような背中の痛み。そして息を吸うことも吐くことも困難にする腹の痣。それが夢でなかったことを実感させる。

 着ていた服はすべて取り払われ、下着も下の物だけしか残されていない。蹂躙じゅうりんされきった少女の小さな背中から作られた小さな赤い泉はまだ、大きさを少しずつ増していた。小さく声を上げることもできないほど弱ってしまっている。臍よりも上は傷を与えられておらず、とても美しい女性の体を衆目に晒していた。

 徹底的に凌辱を刻み込まれた彼女を数人の男達が泉から起こし、両手を後ろで縛り上げた。一人が少女の細いウェストにバックルの部分が大きなベルトを巻く。それを巻き終わると、彼女を支えていた男達は再び泉の上に少女を放り捨てた。


 何が自分の身に起きているのか理解できないままの少女の目は泳ぎ続けていた。何かを求めるように。

 だが彼女が求めている何かは決してこの空間の中には無いことを、悟っていた。



 弱っていく彼女の呼吸。そして突然部屋全体に響き渡る破裂音。


 少女は一瞬身体を反らせ、また動かなくなった。呼吸もほとんどしなくなった。


「きもちわるい……」


 戻ってきた静寂の中で小さく一言だけ漏らした。彼女の目線の先にはピンク色をして表面に少し艶を持った、やわらかい管のようなものが広がっている。時々収縮し、蛇や蚯蚓みみずのようにくねくねと動く。それをたどると、出てきている元は彼女の腹部に大きくあいた穴だった。泉が大きくなる速度を速めている。

 絶望とも、失望ともつかない顔をした少女の正面に、背の高い女性が立つ。片膝をついて少女の顔を間近で見つめた。気味が悪いほど満足気だ。


「たす け  て……」

「だーめ」


 即答。



「おねが……  お姉 ちゃ ……」




 瞳は虚ろになり、涙を浮かべている。もう、理解していた。


「な ……で  ……  たし……   の……?」


 何で私なの? そう聞いたのだろうか。少女の目の前に居る女は少女の髪を撫で、少女の顔を優しく引き上げて唇を合わせていく。無抵抗の少女の唇を強く吸い、口腔に舌を這わせる。口の中に入ってきた異物感も、彼女にとってもうどうでも良くなっていた。

 問われたことを理解したのか、それとももともと伝えるつもりだったのか、それは分からない。一通り少女を味わった女は再び満足そうな笑顔を見せて語り始めた。


「ねー、ゆーちゃん…… 教えてあげよっか。どうしてあたしがゆーちゃん選んだか……

 それはね、あたしがゆーちゃんのこと、すごくすごく好きだからよ。

 ちいさな頃からあたしのことをお姉ちゃん、お姉ちゃんって言って、何をするにもついてきてたよね。

 可愛くて、可愛くて。……もう仕方なかった。


 どんどん大きくなっていって、大人に近付いていって。本当にあたし好みの女の子になって……



 もうたまらない…… 我慢できない……




 大好きな物が、どんな声を上げるんだろう。



 大好きな物が、どんな風に顔を歪めて苦しむんだろう。



 どんな風に涙を流して、命乞いをするんだろう。



 それを無下にした時、どんな顔を残すんだろう。






……


 もう…… もう想像してるだけじゃダメ……



 もうダメなんだよ……



……


 ここは、そんな変態の集まり。ステキでしょ? ステキよね、本当に!



 はは、あははは、あはははははははははははははは!!!




 作って…… 作って本当に良かったわ! 言葉にできないもの、今この瞬間! こんなに満ち足りた時なんて無かった!

 ああああ、どうしたらいいんだろう。もうわかんない! あはははははははははははは!!」




 狂喜に満ち、すっかり紅潮した彼女は傍にいた男の肩に腕を回し、強引に唇を重ねた。相手はこのバーのマスター。少女にもやさしく穏やかな笑顔を向けてくれた男だった。両者の顔は恍惚に支配され、理性のかけらも感じさせない。魂の底から満足している。それはむきだしの欲望だった。

 それが合図だったのだろうか。この場に居た人間すべてが歓喜の声を上げ、共に居合わせたことを喜び合っている。




「最高! サイッコーよ、ゆーちゃん! 本当にありがとう! あたしのために生きてくれて!

 あなたのすべてはあたしの物! 生も死もみんなあたしのための物! あははははははははははははははははははははははははははははははははは、あははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」






 歪んだ魂から響き渡る純粋な笑い声の中、狂った渦を底から見上げていた少女の瞳から、静かに命の火が消えた。








 この回を最後まで読み切れなかった方もいらっしゃるかと思います。

 作者にはこのような嗜好はありませんが、彼女が数時間のうちに世界を呪うに至るほどの絶望をわたしの想像が及ぶ限りに表させていただいたところ、このようになりました。


 いつだって人の運命を捻じ曲げるのは生ける者の狂気。

 このような愛の形なんか存在しない。歪んでいて、死神でも救うことができないのは生者の方ではないかと思うのです。


 気分を害された方々には謝罪申し上げます。

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