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第8話 「この歳で夢中になれるもの」 書籍化、アニメ化――そんな夢より、 “夢中になれる事”そのものが嬉しかった。

「……そうだ……」


俺は、


暗い部屋の中で、


ひとり呟いた。


スマホの光だけが、


ぼんやり顔を照らしている。


誰かに褒められた。


誰かに否定された。


読みにくいと言われた。


続きが気になるとも言われた。


たった数件の感想。


それだけなのに、


心がぐちゃぐちゃだった。


嬉しくて。


苦しくて。


恥ずかしくて。


でも――


生きてる感じがした。


「俺……」


言葉が詰まる。


何のために書いてる?


金か?


承認欲求か?


有名になりたいのか?


……そりゃ、なりたい。


本音を言えば、


夢はある。


自分の小説が書籍化されたら。


ドラマになったら。


アニメになったら。


最高だ。


本屋に並んで。


誰かがレジへ持っていく。


「この作品好きなんだよね」


そんな会話がどこかで生まれる。


もしそんな未来が来たら、


きっと泣く。


たぶん土下座レベルで泣く。


でも――


違う。


今の俺を動かしているのは、


もっと単純なものだった。


嬉しいんだ。


ただ、


嬉しいんだよ。


この歳になって。


毎日仕事と疲れだけで終わっていたオッサンが。


明日の仕事を考えてため息吐いていた男が。


時間を忘れて夢中になっている。


「次どうしよう」


「この台詞いいかな」


「続き書きてぇ」


そんな事を考えている。


胸が動いている。


心が、


まだ死んでなかった。


その事実が、


どうしようもなく嬉しかった。


俺はスマホを握りしめる。


震える指。


遅いフリック入力。


誤字だらけ。


それでも、


画面の向こうには、


確かに誰かがいる。


俺の物語を、


待ってくれている人がいる。


それが、


こんなにも嬉しいなんて、


知らなかった。


「……ははっ……」


気づけば、


少しだけ笑っていた。


涙はまだ出る。


でも、


前みたいな涙じゃない。


苦しいだけの涙じゃない。


これはきっと――


何かが、


また動き始めた涙だった。

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