1 180日間の懺悔を要求します
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2話目は6/21更新です。
浮気とはどこからを示すのだろう。
肉体関係があれば確実に浮気とされているけれど、ではそれ以前はどこから?
やたらと視線が絡んでいたら? 手紙を頻繁に送っていたら? 一緒に出かけたら? 高価なプレゼントを贈っていたら? 貴族の通う学園で毎日のように一緒にいたら?
それらの行動を婚約者がしていたとして……。それがある少女の魅了によって引き起こされたことだとしても、許すことができるものだろうか。
婚約者を愛していなかったらどうでもいいのだろう。相手の行動を責めて自分に有利な条件を突きつければいいから。
では、愛していたらどうだろう。許せるものだろうか。
マグノリアにとって、それらは考えてもよく分からないことだった。
ただ──彼が生きていてくれればそれで良かったから。
マグノリアが母国ウィンゲート王国の城の広間に足を踏み入れると、懐かしい顔ぶれが並んでいた。
国王である父に、マグノリアと側妃だった母をよく虐めてきた王妃、そして被害者の如く青い顔で小さくなっている王太子である異母兄。
他には、宰相の息子に騎士団長の息子。そしてその婚約者たちと家族一同。広い場所とはいえ高位貴族の人口密度がすごい。
顔ぶれを確認しながら王族席にゆったりと腰かける。
この人数を集めるに至った原因は半年以上前に遡る。
この国の貴族が通う学園にとある男爵令嬢が編入してきた。
男爵の正妻が亡くなって愛人との子供を養子として迎え入れたという、よくあるとも言い難いがないともいえない話だった。確かに、その令嬢の容姿は良かったようだ。男爵が養子にして政略結婚の駒にしようと考えてもなんら不思議ではない。
しかし、可愛くマナーのおぼつかない男爵令嬢に引っかかったのは、なんと異母兄と宰相の息子と騎士団長の息子だった。
王族と高位貴族の二人が引っかかったのである。いくら男爵令嬢が可愛くてもあり得ない。
婚約者をないがしろにして三人で男爵令嬢の側に侍った期間は、およそ半年間。
最初こそ学園で珍しい令嬢を見つけて遊んでいるだけだろうと思われていたが、異母兄の婚約者である公爵令嬢からの訴えで調査をした結果、その男爵令嬢が極めて珍しい魅了を使っていたことが判明したのだ。
物語ならここで終わりだろう。
魅了持ちの男爵令嬢は捕まって、三人は婚約者に謝罪してめでたしめでたし。
あるいは、婚約者たちが愛想を尽かしてもっといい男性と婚約してめでたしめでたし。やらかした令息たちは落ちぶれていきました、ちゃんちゃん。
残念ながら、現実はそうはいかない。
三組の婚約は、派閥が絡む関係でそれぞれ解消も破棄もされては困るものだった。
解消あるいは破棄するならば、同等の婚約を見繕う必要がある。その場合、他の貴族の婚約解消が必要な場合も出てくるだろう。無論、慰謝料や違約金もバカにならない。
婚約者の家の当主たちも重々分かっており、「火遊びくらい大目に見たらどうだ。魅了だったんだから仕方がないだろう」と令嬢たちに言い聞かせている者もいるそうだが、当の婚約者たちそして夫人たちの心境は非常に複雑だ。
三人が本気であの男爵令嬢に浮気したわけではない。
魅了をかけられてしまって、浮気に見える行動は仕方がなかった。体の関係はなかったんだからいいじゃないか、浮気とは厳密には言えないんじゃないか。
そう父親に言われても、納得できないものは納得できない。
半年間もないがしろにされて、これまで仲が良かったのに目の前で他の女といちゃついているところを見せられたのだから、彼女たちの心の傷はすぐには消えない。
このまま婚約を続行してもぎくしゃくした結婚生活が続くだけだ。あるいは、二人ほど子供ができたら令息がたまたま事故に遭って亡くなるなんて物騒なこともあり得る。
さて、この解消も破棄も王家としては困る三つの婚約をどうするか。
ある婚約者一家は「婚約なんてどっちでもいいが、まずは誠意を見せろ」と言っている。要は金次第だ。
ある令嬢は「裏切るような男を我が家に入れることはできない」と婿入りを拒絶気味だ。ここの当主は自身も浮気していたことがあるので、その後ろめたさからか娘を頑張って説得しようとしているものの、夫人から顰蹙を買っている。
そして、異母兄の婚約者である公爵令嬢は「許します」と言っている。しかし本当の心までは分からない。
三者三様である。
この問題を解決するために、他国に留学していたにもかかわらず呼び戻されたのだ。
「この件は王女マグノリアに一任する」
異母兄を絶対に王太子のままでいさせたい王妃と貴族たちとの間で板挟みになった国王は、マグノリアを呼び戻して対応を丸投げしたのだ。
実の子供が絡んでいるので、国王も少しでも下手を打てば批判にさらされるのだろう。これまで国王として大した失策をしていないので、今更大胆なことをやれないらしい。
マグノリアの帰国までに何かしら手を打ったのかと思いきや、話し合いと事実確認をしていただけだった。
マグノリアは王妃の子供ではなく、亡くなった側妃の子供だ。
王妃になかなか子供ができず、決まりによって母が側妃として召し上げられた。しかし、王妃は意地で先に異母兄を産んだ。その後で産まれたのが王女のマグノリアである。
異母兄とマグノリアは同い年であったため、性別が違うのに幼い頃から何かと比べられた。
子供の頃のマグノリアは非常に愚かだったと、自分でも後悔が耐えない。
賢ければそして努力すれば、認められる・褒めてもらえると無邪気に思っていたのだから。しなければいけなかったのは、王妃を警戒して凡庸なフリをして生きていくことだったのに。
家庭教師に褒められて得意になって、勉強して異母兄を軽々と抜いてしまった愚かさゆえに母は王妃に殺された。
そして、頭を低くして生きてやっと幸せになれるなんて思った愚かさゆえに──彼まで失うところだった。
事前に令息たちや令嬢たち、その家族に根回しは済んでいるおかげでマグノリアに対する不満は出なかった。
しかし、値踏みするような視線は貴族たちから感じる。
彼らはこの件への対応を通して見ているのだ。
異母兄が魅了とはいえやらかした今、マグノリアが次期王となるのにふさわしいかどうかを。
ひと際強い視線が背中に突き刺さる。同じ王族席に座る王妃からのものである。自分の子供がやらかしたというのに強気なものである。魅了だったから仕方がないのに、なぜマグノリアが出しゃばってくるのかと言いたげだ。
「それでは、私からの提案を言いましょう」
王妃の視線を背中で軽く受けながら口を開く。
「魅了にかかった令息たちに180日間の懺悔を要求します」




