【標本No.7】終わらない砂時計
――砂は落ち続ける。
時間は、不可逆な流れではない。
それは、あらゆる場所に堆積し、結晶化する「物質」だ。
私は一生をかけて、世界中の「時間の残骸」を掻き集めた。
サハラの熱風が数千年かけて磨き上げた石英の粒。
ノルウェーの氷河に抱かれ、凍結されていた古代の岩片。
そして、かつて愛や誓いが交わされた、今は亡き教会の崩れた大理石の粉。
それらを丹念に洗浄し、選別し、私は一つの巨大なガラスの器へと注ぎ込む。
これはただの砂時計ではない。
数億年の歴史を物理的な重さへと凝縮した、地球という星の総体なのだ。
私は思う。
化石、思い出、砂時計…これらには時間の凝縮というロマンがある。
その時代に生きた人の、物の、軌跡の残像物。
いわばそれは奇跡の輝石。
ふと、腰が痛む。もう歳だ。限界も近い。
だから私は集めた砂を器に移す作業を始めた。
ある粒は光を増幅させ、ある粒は濁った黒を演出する。
個々の混ざりあった社会のように、流紋の渦を構成する。
ひとつひとつの音が、質が、私の耳を揺らす。
砂はサラサラと流れ、石はその過程に音を出す。
尖った木片はかつての言葉のようだ。
鉄がカランと落ちる。
紙はヒラヒラと舞い、風を浮遊する。
ようやく砂時計に蓋をした時、私の手は震えていた。
中央にそびえ立つその器は、静かな音を鳴らし続ける。
周辺には、巨大な砂時計を祀るように化石や額縁、岩の数々が並べられている。
最後に、私は遺言を書くことにした。
『私は生涯を時間に捧げた。この砂時計は私の全てだ。何年かかっても構わない。その砂が落ちきった瞬間を、私とともに見届けてはくれないか。』
視界が暗転する。
強く頭を打ち、私の意識は闇の彼方に放り投げられた。
――砂時計は静かな音を鳴らし続ける。その重荷が落ち切るまで。
「これがあの有名な永遠の砂時計だって!」
「すごーい、推測だと、あと何万年もかかるらしいよ。」
「作った人、肖像画しか残ってないけど、名前なんて言うのかな?」
――彼の死から何年経っただろうか。
時間の博物館と名付けられたこの場所で、砂時計はなおも静かな音を鳴らし続けていた。
何万の人々が訪れ、その大きさに目を見張り、多くの者が四角の画面を向けた。
いつか彼が望んだように、砂時計の終わりを見る者は現れるのだろうか?
それは、誰にもわからない。
ただひとつだけ確かなのは、いまも彼らは一生懸命に生きているということだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
感想・リアクション・アドバイス等、お待ちしています。
よければ、ブクマ登録もよろしくお願いします!
気に入っていただけたら、☆☆☆☆☆つけてくれるとなお嬉しいです。




