第1章 無能者はお呼びじゃないそうなのでおさらばしますね (3)
ガルス辺境伯は作業用の手袋を脱ぎ、カイトに握手を求めた。
「弊家に来てくださり、感謝申し上げます。ガルス辺境伯シモンです」
「妻のアリシアです。趣味のガーデニングをしておりましたの」
ホホホ。
奥方は取り繕うように笑った。
(ガーデニング…本格的な芋畑に見えますが…触れないのが貴族のマナーですよね)
カイトも笑顔で応じたのだった。
シモンはカイトに、
「長旅でお疲れでしょう。カイト様のお部屋を用意しておりましたのでメイドにご案内させます。この者はアンと言います」
そう告げると、後ろで控えていたメイドの少女に向けて、
「アン、お前をとりあえずカイト様のお世話係に任ずる。邸内を案内するように」
と指示を出した。
その後、シモンとアリシア夫婦はまた畑の方へ向かい出した。
「我々は畑仕事もといガーデニングの作業に戻ります。日課でしてな。この作業は体力作りにもってこいなんですよ。ワハハ。
しばらくしたら合流してお茶でもいたしましょう。それまではくつろいでお休みください。喉乾いたり腹が減ったらメイドに命じてください」
そう言い残して。
* * *
メイドの少女アンに重厚な造りの邸内を案内してもらいながら、カイトは先程の辺境伯夫婦の姿を思い出していた。
思ったより飾らない人柄の人達のようだ。
田舎はそうなんかな…冷たい王都とは違う感じ…
実の親とより上手くやっていけるかも。
などとも思ったりした。
「こちらがカイト様のお部屋になります」
階段を登って、2階にある扉に荊の彫刻のある部屋だった。
奥の方には扉に百合の彫刻がある部屋があり、そこは当主の娘で義姉になるであろうリリアナの私室なそうだ。
「後ほどの顔合わせの茶会まで、ごゆっくりされてください。何かあれば遠慮なくお呼びくださいね。近くに控えておりますので」
アンはそう告げると、カイトの部屋から立ち去った。
* * *
カイトに用意された部屋は、ベージュ系の部屋で、ベッドも広く、落ち着く感じの部屋だった。
カイトは壁際にある焦茶色のソファに横になって、少し仮眠を取る事にしたのだった。
うとうとしているうちに寝落ちし、夢を見ていた。
夢で自分は見知らぬ紺色の異国風の上下セパレーツになっている服を着ていた。唐突に猫が飛び出してきた。三毛猫だった。
三毛猫はこちらをじっと見ていた。
三毛猫はニャオンと鳴いた。
目が覚めてふと我に返ると、実際に部屋の窓の外から猫の鳴き声が聞こえた。外に目をやると、窓枠近くに三毛猫がいて、カイトと目が合うとニヤリと笑った風に見えた。そのまま猫はいなくなってしまった。




