第1章 無能者はお呼びじゃないそうなのでおさらばしますね(1)
魔法と剣が重要な世界ガイア。
ルビー王国はシーズー大陸の西に位置していた。
とりわけ王侯貴族は貴い血筋という設定で平民の上に君臨しているので、魔法を使えるのとその魔力の強さがステイタスであった。
ルビー王国では10歳までには、王立アカデミーに入る上で不可欠な魔法属性検査を受けるのが貴族達のならわしであった。
アカデミー入試で行われる検査はメジャーな火風土水の四大と光闇の計6属性が分かるものであった。
ガイアでは魔法を使える者のほぼ9.9割がこの6属性となり、ごく稀に異能が存在するらしいが、シーズー大陸でも10指に満たず、6属性が検出されない事は、一般的には魔法を使えない無能力者を意味していた。
魔法属性検査を開発したのは魔塔のセインというハイエルフだった。彼はレアな異能の一つ〈鑑定眼〉を持ち、異能を持つ者があれば特定できるとも言われていた。
* * *
ルビー王国の王族の末王子カイトは今年10歳で、王立アカデミー入試で行われる魔法属性検査を受けるところだった。
魔法属性検査は壇上に設置されている台の上の水晶球に手を触れるだけで分かるもので、会場到着受付順に検査となっていた。水晶球に属性の色が映し出されるのだ。
火は赤色、水は青色、土は黄土色、風は紫、光は白色、闇は黒色で、複数属性の者はその全ての色が映し出されるのだ。
6属性が検出されない場合には無色ということになる。
魔法科とは別に騎士科もあるが、魔法科とは違い、魔法属性検査は任意となっていた。
カイトは虚弱で体力には全く自信がなく、外出してちょっと風に当たる位で微熱が出たりすることもあり、完全なるインドア引きこもり派であった。それ故あまりアカデミーにも入学したくなく、年齢制限期限ギリギリの10歳に仕方なく受験検査テストを受けるところだった。
そんなカイトは騎士の奴等は脳筋と敬遠しているので、騎士は全く関わりたくない世界であった。
剛毅でスパルタ傾向の父王からすれば、軟弱な末王子はお荷物と思っている風なのが垣間見れた。
王妃である母親は政略結婚なので、子供には関心が薄く、交流した記憶もほとんどなかった。
乳母はいたが去年死んでしまった。
保護者に付き添われ受験する他の子供達と違い、親から放置され気味のカイトは近侍兼護衛のおじさんジョンが1人離れて控えている寂しい風景であった。
(魔法属性検査で良い結果を出さないと、父上に追い出されるんじゃ…)
カイトはふとよぎった不吉な予感を慌てて打ち消した。
(高位貴族になるほど、魔力が上がると言われてるし…きっと大丈夫)
* * *
カイトの番が来た。
王子であると薄々周囲から分かられ、ヒソヒソザワザワ見られ注目されながら壇上に上がった。
「王族だからな。属性が楽しみだ」
という声をプレッシャーに感じながら、カイトは水晶球に触れた。
一瞬マーブル模様のような渦巻きのようなモヤが出てきたように感じたが、カイトの目にだけ見えたのか、検査をしているアカデミー関係者達は無反応だった。モヤが消えた後は何も起こらなかった。
水晶球に触れても何も起こらないことは6魔法属性がないことを意味している。
「6魔法属性はございませんな」
年配のアカデミー試験官が静かに告げたのだった。
「魔法属性がない方はアカデミーに入学できません。他の試験は結構です。申し訳ありませんがお引き取りください。騎士科を受験されたければ後日チャレンジなさってください」
そう告げられ、頭の中が真っ白になったカイトは会場をふらふら出ていき、どう帰宅したかも覚えていなかった。
* * *
王宮に戻り自室でうなだれていたカイトだったが、近侍のジョンが部屋のドアをノックしてきた。
「陛下から伝言です。
『魔法属性のない無能な息子の顔は見たくない。今後は食事には顔を出す事は許さん』
との事です…」
これまでは家族で晩餐をしていた広間にも立ち入り禁止になった。
文武魔法に秀でた長兄の王太子ガリウスには、廊下ですれ違った時に、
「魔法属性がないのは王族としては恥だぞ。王家に居ずらいだろうから、身の振り方を考えてやろうか」
と告げられた。
「虚弱なお前には騎士科は無理だろうからな」
火風土水の四大属性と剣技に恵まれた長兄は、カイトには眩し過ぎて、無言で会釈をし、その場を離れるしかできなかった。
数週間が過ぎて、自室でぼーっとしていたカイトに、近侍のジョンが手紙を差し出した。
「陛下からです」
開封して手紙を読むと、
「貴様はもう儂の息子ではない。王家の恥め。
王家から出ていけ。
ちょうどガルス辺境伯の一人息子が魔獣狩りで命を落とした。辺境伯の養子となるがいい。今週中には出発するように」
とあり、養子縁組済みの書類も同封されていたのであった。




