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きゅー

 またしても中断された湖への視察を再開する女伯一行はポクポクと進んでいた馬を少々急がせつつ、やっと湖へとたどり着いた。


「わぁー! ここがエクリプス領で一番大きいという『クランボーン湖』ですかっ!」


 向こう岸が見えないほど広大な湖は奥に行くほど深い碧になって行き、手前は信じられないほど澄んだ水色を(たた)えている。

幽玄な雰囲気すら漂うその静かな湖から突然、ザバリザバリと次々に美しい青色の水馬たちが水飛沫と共に地上へと駆けてくるのが見えた。


「あっ! 『サリー!』こっちだよー!」


ウィリアムは大きく手を振りながら、嬉しそうに水馬へ声をかける。

サリーと呼ばれた群れの中でも体格の大きな水馬はヴヒヒンと嘶きつつウィリアムへと駆け寄ってきた。


「女伯! ご紹介いたしますね。 この子が僕の契約してる水馬のサリーです! サリー、この方がこの地を収めているエクリプス女伯爵様だよ」


ウィリアムはサリーを撫でながら女伯へと紹介した。


「これは立派な水馬ですな! ですが……もしやこの子はまだ親離れしたばかりでは?」


女伯は水馬を見ながらウィリアムへと訪ねる。


「わぁ! よくお分かりになりましたね、さすがエクリプス領主様でいらっしゃる……ご指摘の通りこの子はまだ成長するようなんです」


ウイリアムの言葉に女伯は


「なるほど……水馬はこの地以外の場所では滅多に人前に姿を現さないはずなのに、赤子のウィリアム殿の許に現れたとお伺いして少々疑問に思っておりましたが、当時はまだ仔馬だったのでしょうな……なるほどなるほど……仔馬は好奇心旺盛ゆえに、赤子であったウイリアム殿に興味深々だったのでしょう」


腑に落ちた!という顔で女伯は推論を語った。


「恐らく女伯のおっしゃる通りでしょうね……そのおかげでサリーと契約を結ぶことが出きましたから僕にとっては素晴らしい出来事でしたよ……皆に心配をかけた事は申し訳ないのですがね」


そう言いながらペロリと舌を出すウィリアム、その子供っぽい仕草に女伯は思わず釣られて笑みをこぼすのであった。


「ふふふ……ウィリアム殿は本当にサリーがお好きなのですなぁ、サリーもウィリアム殿に全幅の信頼をおいておるのが見ててよく分かりました」


そういいながら女伯は、湖の奥へ視線を向け片手をあげる。


「おいで『サージェント』」


そう言うと、湖の奥から音もなく紺色に煌めく雄大な馬体がゆっくりと浮上して女伯の許へとやってきた。


「これは……なんと……」


ウィリアムは言葉にできないくらい感動した様子でサージェントを眺める。


「このサージェントが、このクランボーン湖の主なのです」


 そう言いながら女伯はサージェントの鼻面を撫でた、サージェントは甘えるように女伯へ顔を押し付けていたがふと気が付いたかのようにウィリアムとサリーを見つめる。

 その視線に怯えたようにサリーはウィリアムの後ろに隠れたが、ウィリアムは目を輝かせてサージェントを見つめている。


「サージェント、この子はサリーという。 そして向こうにいるのがサリーの分体だ、サリーはまだ子供だからよく面倒を見てあげて欲しい、頼めるか?」


女伯はサージェントにそう言うと、任せておけ! と言うようにヴルルッと力強く嘶いた。


「サリー、このサージェントはとても長く生きているこの湖の主だ。今きちんと言い聞かせたゆえサリーを害することは決してしないので安心してくれ、そしてこれからこの水場で暮らすための知識を沢山教えてもらうと良い」


女伯はやさしくサリーへ言い聞かせる、その言葉をサリーも理解して恐る恐るではあるがサージェントの方へと近寄っていく。

 その様子を固唾をのんで見守る二人、やがて近寄った二頭が鼻を近づけて匂いを嗅ぎ合う馬同士の挨拶を行い、大丈夫だと安心したのかサリーがピョンピョンとサージェントの周りで跳ねて遊ぼうと誘い出しそのまま二匹で軽やかに駆けながら水中へとダイブしていった。


「おぉ、サリーがサージェントに気を許したか」


「そのようですね……良かったぁ……」


二人は安堵のため息を同時に吐き出して、そのタイミングのぴったりさにビックリして目を見開いたがすぐ可笑しくなってくすくすと笑い合うのであった。






随行員の方々は生暖かい目で少し離れた場所から二人を見守っております。

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