よん
先日の学園での騒動から幾日か経ち、エクリプス女伯は現在休暇の為領地へと戻っていた。
エクリプス領は今日も晴れ渡る青空の下で、元気に馬たちが闊歩している。
その様子を微笑みながら執務室から眺めていたエクリプス女伯であったが、不意に扉をノックする音に気が付いた。
「入ってくれ」
「失礼いたします」
そう言って入ってきたのは女伯が学園に通い、留守の間を預かる家宰であった。
「お嬢様、お手紙が届いております」
その言葉に唇を尖らせ
「お嬢様はやめてっていつもいってるでしょ!」
と抗議する。
「ははは! じいにとってはいつまでもお嬢様でございますからなぁ」
「まったくもう! で? どこからの手紙?」
「カンバーランド公爵家からでございます」
「え……公爵家? なんで?」
「さぁ……とりあえず読んで見られたらいかがです?」
「それもそうね」
そう言いながら、女伯は手紙を開いた。
そして読み進めていくうちに
「あらまぁ」
と思わず声を出す。
「おや? いかがなさいました?」
興味深そうに問う家宰。
「カンバーランド公爵領には、水馬の住まう湖があるそうなんだけど近年湖の水量が減ってきていて困っているのだそうよ」
「水馬といえばケルピーですかな?」
「ヒッポカムポスみたいな下半身が魚類の方かもしれないわよ?」
「たしかに水系統も色々おりますからなぁ、うちにも各種おりますが誠に興味深い……」
「そうねぇ……確かこの前はプーカが出たって聞いたけど」
「えぇ、色んな動物に変身する力があるのに馬耳だけは隠せないのがなんとも可愛らしいヤツですなぁ……確か先日のは人間に化けておりましてな、うちの飼育員を喰らおうと思ったんでしょうが、馬耳が付いた人間な時点でバレバレでぶん殴られて説教されておりましたわ」
はっはっはー と楽しそうに語る家宰。
ちょっと可愛いかもと思いながら
「へー、うちの者を襲うなんて新入りかしらね? 知らないうちによく増えたり減ったりしてるし」
と問いかける女伯。
「でしょうなぁ……亜神の加護があるうちの人間を襲うような愚か者は新参以外おりませんわい」
「そうよねぇ……で、話は戻るんだけど、水馬が増えすぎて土地の力が衰えたのが原因らしいのよ。 それでなんとかエクリプス領に移住させられないかって」
「ほう、それはそれは……」
「うーん……場所は問題ないけど先住馬達と上手くやっていけるのかしら?」
「相性は大事ですからなぁ」
「あ、続きがあったわ。 なになに…… 『こちらの水馬の長の子とその子供の契約者をそちらに送るので、様子を見てもらえないか』ですって」
「確かに精霊馬といえど馬ですからな、長となるものがまとめられるのであれば大きな争いにはならんでしょう」
「あとはこちらの水馬達が受け入れてくれるか見ればいいのね! 分かりました、そうお返事しましょう……ところで契約者ってなにかしら? テイマーとか?」
「それはなんとも……それも含めて来てから考えられたらどうですかな?」
「それもそうね! じゃあ手紙書いたからお願い、あと受け入れに関する諸々の手配もよろしくね」
「畏まりました、お嬢様」
そう言いながら家宰は慇懃な礼をする
「だーかーらー! お嬢様はやめてっていってるでしょうーー! 」
「じいやにとってはいつまでもお嬢様でございますので」
はっはっはっ! と楽しそうに部屋を辞していく家宰は、そっと扉を閉めてから
「じいの前ではいつも、虚勢を張る言葉遣いを忘れるようではまだまだ『お嬢様』呼びはやめられませんな」
そう独り言をつぶやきながら家宰は次の用へと廊下を歩きだすのであった




