じゅういち
「すまない 待たせてしまったな」
そう言いながらエクリプス館の面会室で待っていたデニスへと声をかける女伯。
「いや、突然館へ押しかけたのは私のほうだ、気にしないでくれ……」
休憩を兼ねた昼食の後、女伯は約束通りデニスに会うために面会室へとやってきた。
「しかし、カンバーランド公爵子息もご一緒とは……」
困惑しながら女伯へどういうことかと言いたげに問いかけるデニス。
「あぁ、僕はお二人の話し合いに物言いをつけるために来たわけではありません、もし何かお役に立てるようなことがあればお二人のお力になりたいと思って女伯へ無理を言いお邪魔したのです、どうか女伯を責めたりなさいませんようお願いしますね」
ニコニコと笑顔でありながら、有無を言わせぬとばかりに言外にデニスへと圧をかけるウィリアムであった。
「そ、そうでしたか……それはとても心強いお言葉をいただき感謝いたします」
その言葉の意味を理解できぬほど愚か者ではなかったデニスは、少々引きつりながらも笑顔で如才なく返事を返す。
「それで、なにやら緊急で婚約解消について話し合いたいと言っていたが一体何があったのだ?」
「あぁそれなんだが……実はヘロド侯爵より『先日、隣国の公爵家との縁談が王家を経由して極秘で打診されて来たので、このままズルズルとエクリプス女伯爵との婚約が解消できないようでは娘の事は諦めてもらうしかない』と手紙を頂いたのだよ……」
肩を落としデニスは
「このままヘロド侯爵令嬢と会えないと思うと、居ても立ってもいられず気が付いたらエクリプス領へ馬を走らせていたんだ……」
とポツリとこぼした。
「そうか……デニス、本気でヘロド侯爵令嬢を望むのだな?」
「当然だ! ……いや、感情的になる前に先に言うべき言葉があった……エクリプス女伯爵。 君という婚約者がいながら、他家の御令嬢と縁を深めてしまった事について改めて深くお詫びを申し上げる。大変申し訳ありませんでした、この件の賠償についてはできる限りの事はする! どうか、婚約を解消してはいただけないだろうか! この通りだっ!」
そう言いながら、デニスは床に頭を擦り付けるように体を丸める、東方の国に伝わるいわゆる【土下座】をした。
その仕草に女伯も、隣の椅子に座って見ていたウィリアムも仰天する。
「デニス! 分かった……分かったから頭を上げるのだ!」
涙を流しながら土下座をしていたデニスが顔を上げ
「しかし……」
と女伯を見上げ何か言いかけるが、女伯はそれを遮り
「デニスがヘロド侯爵令嬢と仲を深める前から婚約解消の打診を受けていたし、誠実な対応をしようとしてくれていたのは承知している、それを条件が合わないからと解消を引き延ばしていたこちらにも全く責任がないわけではない。正直に言えばエクリプス家の総意として条件に合う婿候補をオケリー侯爵は用意できないとおっしゃった。ならば代わりにヘロド侯爵に紹介してもらえればという打算があったからこうして今も解消されていないというのが実情だ」
意外な事を聞いたという表情で、女伯を見上げるデニス。
「まぁ右から左に『はいどうぞ』と婿となれるような人材が出てくるわけがないからな。 少々時間がかかるかもしれないとは思っていたが、事態は急を要するというなら話は変わってくる。 だから頭を上げて座ってくれデニス」
そう言いながらニコリとほほ笑む女伯とその言葉に内心『ホントに良いのかな……』と思いながらおずおずと椅子に座りなおすデニス。
「オホン、では改めてエクリプズ女伯爵として申し上げる。オケリー侯爵子息デニス殿!本日只今を持って貴殿との婚約は『白紙撤回』とする。……良し!では今契約書とオケリー侯爵にお渡しせねばならぬ書類等を準備をするから少々待たれよ! というわけでウィリアム殿、少々外しますご無礼お許しあれ!」
そう言い残して颯爽と部屋を出ていく女伯。
そしてあまりの展開に速さについていけてない男二人がポカンと扉を見つめるのであった。




