第六話
その日のルシフェルのスケジュールは全部キャンセルにした。
ルシフェルはまだ五歳。明らかに年齢に見合ってない勉強も無茶な訓練も不要。絵本が読める程度の語学力とお使いでお釣りをだまれない程度の計算能力、それと俺とたくさん遊べる体力があれば十分だ。
次期公爵の教育は、少なくとも俺はルシたんが闇堕ちする20歳までは、憎まれつつも生きてるからそれまでにのんびり学べばいいんだ。
「ルシフェル、夕飯までは好きなことをしていいんだぞ。もしよかったらパパと遊ばないか?」
「パパと?」
「旦那様、夕方から家門の貴族との会食が」
「ええい、そんなもんキャンセルだキャンセル!」
セバスチャンが俺とルシたんのひとときを邪魔してきたが無視をする。
大体ヴィクトルの記憶によると会食と言いつつ媚び諂った野郎どもから賄賂を受け取って、奴らがうまく儲かるように税を増やす会議みたいだしな。
ええい腐った貴族どもに腹が立ってきた!
ダンタリアン公爵家は何もしなくとも領地収入と所持鉱山の収益、領地を通る街道関所の通行税でがっぽがっぽと儲かるのだ。
賄賂など不要!
「セバス、旦那様は頭をお打ちになって体調が優れないということで……」
「奥様……そうですね。今の旦那様が会議に参加されるのも少々不安でございますし、欠席の連絡を致します」
セレナさんのセバスチャンでうまく話をまとめてくれた様子だ。やったぜ。
俺は優秀な妻と執事に感謝して、おやつを食べ終えたルシフェルと公爵邸の庭に出た。
外の気温は過ごしやすくどうやら今は春のようだ。整備された庭には綺麗な花が咲いている。
「ルシフェル、パパとお庭で遊ぼう」
「うん!」
俺の手を握ってくれるルシたんのちいさなおててが愛おしかった。この子は絶対に守るぞ!
その後は、泥だらけになりながら日暮まで庭で遊び風呂に入る。親子なんだから当然一緒だ。
髪の毛から身体まで洗ってやると気持ちよさそうにルシたんは目を細めていた。
嫌な予感がして記憶を漁るともう名前も呼びたくないクソ野郎が「息子には湯を使わせるな水でいい」と話している記憶が蘇り思わず自分の頬を平手打ちした。
「パパ!!」
温かいお湯に浸かりながら目を丸くするルシたん。ごめんね……あんまり体を見ないようにしてるからそっち向けないけど、俺はヴィクトルのクズ発言を思い出すたびに自分の体を戒めることにしたんだ。
「ルシたん、お風呂というのは暖かなお湯のことだからね、決して冷たい水でゴシゴシ洗うことではないんだ」
「わかりました」
温まったのか血行の良くなった顔で素直に俺の話を聞く息子。本当に可愛い。
お風呂には身体を洗う石鹸が見当たらないし、当たり前だがシャンプーやボディソープなんかもない。もしかしてそういうのはない世界なのかな?
あまり詳しくないけど、植物なんかは俺の世界とそこまで違う感じはしないし、ルシたんの綺麗な髪やお肌を維持するために石鹸を作るのもありかもしれないな。




