第五話
ルシフェルを連れて食堂に着く。
お誕生日席に座らせて、俺はメイドに指示をした。
「ルシたんにケーキを」
「はい? ルシタン?」
「コホン……この世界一可愛い天使に甘いケーキを焼いてくれ」
ルシたん呼びは俺の心の中だけにしようか。しかし本当に可愛いな。こんな天使に虐待できるクズ野郎がどうして世の中にはいやがるんだ、やはりヴィクトルは死ぬべきなのかもしれないな。
「あなた!!」
湧き上がる殺意の衝動で無意識にフォークを握っていた俺にセレナさんの悲鳴が聞こえた。
嗚呼、棚ぼたマイワイフ! セレナさんも心配して様子を見にきてくれたのかもしれないぞ!
「こうしゃ……旦那様、わたしも同席してもよろしいですか?」
恐る恐ると言った面持ちでセレナさんが聞いてきた。当然、ルシフェルが大好きなママを引き離す理由なんて俺にはない。
「勿論だ」
やったね、美女も相席してくれるって!
転生前の俺だったら絶対ありえないシチュエーションだぞ。
ヴィクトルは若い美青年だからギリセーフかもしれないけど転生前の三十路の俺じゃアウトだアウト! どう見てもパパ活にしか見えないです。対戦ありがとうございました。
そんなことを考えていたら先ほど指示したメイドが人数分のお茶とケーキを運んできた。
いやしかし、この家のメイドさんもなかなか立派なモノをお持ちだな。
先ほどからちらほら見かける公爵家のメイドは全員胸がデカいのだ。
「(ヴィクトル、お前胸のサイズでメイド雇ってねぇか? 最高だ……ゲフンゲフン。どこまでも女の敵だ。風上にもおけん奴め)」
「旦那様?」
俺を待っていたのかルシたんもセレナさんもケーキには手をつけない。
ふむ、この世界は家長制度がしっかりしてるんだなあ……。
「食べなさい……」
俺が許可を出すと、ルシたんは緊張した面持ちでケーキにぷすりとフォークを差した。
小さな口が、ケーキをぱくりと食べる。
次の瞬間不安げなルシたんの頬が一気に薄紅に染まるのが傍から見ている俺にもよくわかった。
「……おいしい! くちのなかが……じんじんします」
用意されたケーキは俺の連想したショートケーキではなく、パウンドケーキのような焼き菓子だったがそれでもルシたんは嬉しそうだった。
一口、また一口と小さな手でいそいそと食べている。
「そう、がっつくな」
ルシたんのモグモグタイムが想定より早く終わってしまうことを危惧した俺は、ゆっくりと食べるように促すとそれまで目を輝かせていたルシたんはすぐに怯えた様子でフォークをテーブルに置いてしまった。
「ごめんなさい」
「違うんだ……喉を詰まらせるとよくないと思ってね。あぁ、そうだ。パパの分も食べていいんだぞルシフェル。だからゆっくりとお食べ」
「ママの分もいいのよ、ルシフェル……」
セレナさんがちゃっかり俺に便乗した。ヴィクトルの記憶を辿るとセレナさんが一人称ママだった記憶はない。さては俺に影響されたな、かわいいひとだ。
「パパ……ママ……」
ルシフェルは嬉しそうに目を輝かせている。こんな生き生きとした顔のルシフェルは原作ゲームでも見たことがない。
そもそも原作のルシフェルは、血のような赤い色の死んだ目をした美青年だ。
だが、小さなルシフェルはセレナさん譲りの紫色だ。もしかして闇に堕ちていく度に眼の色が変わっていったのだろうか?
だとしたら……
「まもりたい、この笑顔」
「旦那様?」
俺のボソリとした呟きにセレナさんは不思議そうに首を傾げた。




