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第四話

 

 小さいルシフェルは俺をみてビクビクと小動物のように怯えていた。当然だ、ヴィクトルの記憶をくまなく探してもこいつが父親らしかった言動なんてひとつもない。


 基本的に存在を無視して、過酷な訓練メニューを課しているだけだ。

 本来なら甘えたい盛りなのに『弱くなる』なんてふざけた理由で、セレナさんにもほとんど会わせずに、朝から晩まで勉強三昧で訓練三昧! こんなの絶対におかしいに決まっている!!


「ルシフェルきなさい」


 ボロボロのルシたんがみていられなくて、俺はとりあえず傷の手当てをすることにした。

 俺に名前を呼ばれた途端ルシたんはさらに怯えた目をしてセレナさんにしがみついている。


 当然だ、きっと殴られると思っているのだろう可哀想に……一刻も早くパパはもう怖くないってこと知らせないといけないな。


「ルシフェル、お父様に従って」

「……はい」


 セレナさんはそっとルシフェルの背中を押してくれた。セレナさんだってやっと会えた息子と離れたくなんて無いはずなのに。


 俺はできるだけ早く用件を済ませるために小さなルシフェルを小脇に抱えると、一目散に手当てをするために屋敷の中に連れ帰った。



「薬と包帯と清潔な着替えを」


 テキパキとメイドに指示をしてルシたんの衣服に手を伸ばす。やましい心はない! 同性だし、俺とルシたんは親子! ショタは愛でるもの! 手を出すのはダメ絶対! ヨシ!


「(うわ……)」


 心の中で誓いを立ててから思い切って服を脱がしたら、予想はついたけどルシたんの白いお肌は傷だらけだった。


 ああなんて可哀想に……! チッあの野郎……王家の縁者だかなんだか知らないが、パンチ一発で済ますべきではなかったな、骨をボキボキに折ってやるべきだった。

 おあつらえ向きにこの屋敷には、セレナさんにも隠している秘密の地下室があるみたいだし。


 ヴィクトルの記憶によると、秘密の地下室は拷問室でその手のマニアには垂涎ものの拷問器具が一式揃えてられてやがる。

 どうやら先祖代々引き継がれていたようだが趣味悪いことには変わりはない。


 あとで時間を見つけて処分しておこう。


 そんなもの、万が一ルシたんに見られたら情操教育によろしくない!


「……ルシフェル、薬を塗る。少し沁みるが耐えてくれ」

「はい」


 俺は塗り薬をルシフェルの生傷に塗っていった。ルシたんは「いたい」と小さく唸ったが、薬を塗る手を邪魔しないように体を縮こませて我慢をしている様子だ。

 はわわ……とってもえらい、なんていい子なんだ。


「ルシフェルもう大丈夫だ。私は少しお前の教育を焦りすぎていた」

「こうしゃくかっかのごきたいにそえず、もうしわけございません」


 はぁぁ??? ヴィクトルの野郎!! 奥さんだけではなく息子にもそんな呼び方させてるのかよ!! 何やってんだおまえ!!


 しかもよくよく記憶を漁ったら、コイツもコイツで天使のルシたんを容赦なく殴ってやがる! 虐待親め! ふざけるなふざけるなふざけるな!!!


「旦那様、乱心ですか!? おやめください」


 セバスチャンの声に我に返る。どうやら俺は壁に頭をガンガンと叩きつけていた。

 だが俺はこの程度の痛みでは到底許せなかった。

 だくだくと流れる血で赤く染まる視界の中、小さなルシフェルは怯えている。


 この小さな天使を安心させようと俺はニコリと笑って見せた。


「もう大丈夫だルシフェル、俺の中の怖い悪魔は今ので打ち倒した! これからは優しいパパがルシフェルを守ってあげるからね」


 ルシたんの顔は引き攣っているのでさらに安心させようと笑いかける。


「おやめください旦那様! ルシフェル様が怯えてらっしゃいます! 早急に血を止めてくださいませ! あとで医師を呼びますので見てもらってください、おそらく頭を強く打ったせいで本日の旦那様は何もかもがおかしいです。ダンタリアン公爵家の当主たるもの……」


 青い顔でセバスチャンが言い出した。そこで気になった。そう言えば俺がこの世界に来た時、俺は倒れていたらしい。


「頭を打った?」

「はい。不慣れな使用人が階段で荷物を運んでる最中にバランスを崩し、あろうことか階下にいる旦那様を荷の下敷きにしたのです。このセバス、旦那様が気を失った時は寿命が縮む思いでしたぞ」


 えっヤバ……ヴィクトルめ、ラスボスの父親なのにモブ使用人に殺されかけてるじゃん。日頃の行いだな。ざまぁ!


「さて閣下、不届きな使用人共は地下室に閉じ込めておりますがどのような処罰を与えますかな?」


 セバスチャンは怒りを抱えた目で尋ねてきた。


 おいおい、ヴィクトルの野郎、記憶を漁ると子供の頃から気に入らない使用人にガッツリ体罰を与えてんじゃん!

 うわ……冷酷なのは家族に対してだけじゃないのかよ! しかも嗜虐趣味があるわけじゃなくて、至らない平民など生きる価値もないって思想でひたすらドン引きレベルの体罰をしてやがる。うわ、ないわ〜。


「くしゅん」


 その時、天使のくしゃみが聞こえた。

 ルシたんの薬を塗ると言う名目で服を脱がせたままだったわ、ヤバイヤバイ風邪をひかせたら大変だ。


「反省してるなら罰とかどうでもいいよ、二度と同じような事故が起きないように荷運びの人数を増やすなどの再発防止策を考案して、同じ事故が起きないように使用人たちで共有しておいて」


 うむ。ヴィクトルならいいがルシたんが荷の下敷きになったら大変だ。セレナさんだって洒落にならん!


「は、はぁ……よろしいのですか? それでは他の使用人に示しが……」


「いいよいいよ、そう言うふうに無駄なプレッシャーをかけるから失敗するんだよ。働き方改革ってことでさ……さぁルシたん、お薬我慢したご褒美にパパとケーキを食べようね」


 俺は適当にセバスチャンに指示をして、ルシフェルに急いで服を着せた。

 ルシフェルはつぶらなお目々をまんまるくしてこちらを見ている。


「こうしゃくかっか、ケーキをたべてもいいのですか? あまいものはこころをよわくするって」

「弱くなんてしないさ。パパが間違ってたんだごめんねルシたん、お薬も訓練も我慢したんだからご褒美は必要なんだよ! ママと一緒にお茶にしようね」

「……はい」


 ルシたんの小さな手が俺に向けられる。多分だけど傷だらけで痛いから抱っこをしてほしいんだと解釈して抱き上げる。

 ああ軽い。ルシたんは天使だから羽みたいに軽いのかもしれない!!


「ルシたん、これからはたくさんご飯を食べて大きくなるんだぞ。風に飛ばされてどこかに行ってしまったらパパ悲しくて泣いちゃうよ」

「……はい」


 少しまだ怯えた顔だけどヴィクトルは背が高いから怖いのかもしれないな。そんなルシたんの小さな頭を撫でていると思い出した。


 確か大人ルシフェルってシンデレラも真っ青なBMIなんだよな。


 いくら二次元だからってそんなのよくない。これからたくさん栄養をとってルシたんには健康的な肉付きの美青年になってもらうことにしようっと!


 よ〜し、もうあんな暴力指南員は解雇したからこれからパパと一緒に運動しようね。

 俺も原作の醜いハゲデブ公爵にならないようにしたいし、一石二鳥だね!


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